第四十七章 忘れないで
森の奥は静かだった。
静かすぎた。
雪を踏む音だけが響いている。
だが、全員が気づいていた。
魔障は確実に強くなっている。
セリアの胸元、ペンダントが微かに熱を帯びる。
◇
「近い」
ユークが頷く。
「核はもうすぐです」
その時だった。
風が吹く。
白い雪が舞い上がる。
視界が霞む。
そして世界が揺れた。
「っ……!」
リリカが膝をつく。
ユークも顔をしかめる。
レオンが剣へ手を掛ける。
だが敵はいない。
いるのはそれぞれの記憶だけだった。
◇
リリカの前には、かつての仲間たちが立っている。
『ごめんね』
『ここまでだ』
『もう一緒には行けない』
別れの日。
◇
ユークの前には燃える本棚。
積み上げた知識。
守りたかった記録。
全て灰になっていく。
◇
ガルドの前には少女。
『お父さん』
小さな手。
届かない距離。
◇
そしてレオン。
雪原。
吹雪。
ルーク。
振り返らない背中。
『レオン』
懐かしい声。
『大丈夫だ』
違う。
大丈夫じゃなかった。
あの日も、今も。
◇
胸が痛む。
足が止まる。
呼吸が浅くなる。
魔障は傷だけを映していた。
失ったもの。
後悔したこと。
戻らない過去。
それだけを。
「みんな!」
セリアが叫ぶ。
だが届かない。
まるで深い夢の中にいるみたいだった。
その瞬間、ペンダントが光る。
今までとは違う。
優しい光。
温かな光。
翼が震える。
そしてセリアの中へ流れ込んでくる。
記憶。
誰かの想い。
歴代星祈りたち。
そしてアイシアの声。
『忘れないで』
優しい声だった。
『記憶は傷だけではない』
◇
光が広がる。
セリアは手を伸ばした。
最初に触れたのはレオン。
「忘れないで」
レオンが顔を上げる。
「お兄ちゃんが残したものを」
雪原が揺れる。
吹雪が消える。
代わりに現れたのは、
焚き火。
笑うルーク。
『一人で全部やる必要ないだろ』
旅の景色。
肩を並べて歩いた日々。
失った記憶じゃない。
共に生きた記憶。
レオンの瞳が揺れる。
◇
次にセリアはガルドへ手を伸ばす。
「忘れないで」
「あなたが大切にしてきたものを」
少女の幻が揺らぐ。
代わりに見えた。
生まれた日。
小さな手。
肩車。
笑い声。
愛していた時間。
ガルドは目を閉じる。
そして静かに頷いた。
◇
魔障は傷を映す。
でも、人の心に残るものは傷だけじゃない。
繋がりもまた残る。
温かさも。
愛した記憶も。
決して消えない。
光が広がる。
リリカへ。
ユークへ。
仲間たちへ。
そして森の奥、黒く脈打つ魔障の核へ。
光が届いた瞬間、何かが目を覚ました。




