第四十六章 白き森の悪夢
白き森の奥へ進むほど、空気は重くなっていった。
雪は積もっている。
景色も変わらない。
だが、どこか息苦しい。
◇
昼頃、一行は森の中で休憩を取っていた。
「変な感じ」
リリカが言った。
「変な感じ?」
セリアが聞く。
「何て言えばいいんだろ」
リリカは眉をひそめる。
「嫌なこと思い出しやすい」
その言葉にユークが顔を上げた。
「私もです」
珍しかった。
ユークが自分から言うのは。
「昨日から同じ夢を見ます」
「どんな?」
「本が燃える夢です」
静寂。
ユークらしすぎた。
「嫌だなそれ」
リリカが引いた顔をする。
「非常に嫌です」
本気だった。
ガルドが苦笑する。
「魔障の影響かもしれんな」
「ガルドは?」
セリアが聞いた。
ガルドは肩をすくめる。
「俺は平気だ」
即答だった。
だが、セリアは少しだけ違和感を覚える。
何だろう。
分からない。
でも何か引っかかった。
その時
「レオン?」
リリカが声を掛けた。
レオンが振り返る。
「聞いてた?」
「聞いてる」
聞いていなかった。
全員分かった。
レオン自身も分かっていた。
昨夜からルークの夢を見る。
吹雪。
焚き火。
笑う顔。
忘れたことなんてない。
それなのに魔障は何度も見せてくる。
まるで傷口を開くように。
「大丈夫か?」
ガルドが聞く。
「問題ない」
レオンは答える。
昔から変わらない返事だった。
問題がある時ほどそう言う。
セリアは知っている。
でも今は何も言わなかった。
レオンが話したくないなら。
無理に聞かない。
それもまた仲間だから。
◇
夕方、一行はさらに森の奥へ進んだ。
そこで見つける。
黒い痕跡。
木々の根元を這う魔障。
脈打つように広がる穢れ。
「近いな」
ユークが呟く。
「核はこの先です」
全員の表情が引き締まる。
だがその時、
少し後ろを歩いていたガルドの足が止まった。
本当に一瞬。
誰も気づかないほど。
けれど、ガルドの視界には見えていた。
雪の向こう。
一人の少女。
小さな手。
懐かしい笑顔。
『お父さん』
心臓が跳ねる。
瞬き。
消える。
幻だった。
分かっている。
分かっているのに。
胸の奥が痛んだ。
「……ガルド?」
振り返る。
セリアだった。
「どうかした?」
ガルドは笑う。
いつも通り。
本当にいつも通りに。
「何でもない」
そう答えた。
だが、セリアは思う。
それは、たぶん嘘だ。




