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星祈りの少女は、傷ついた世界を旅する  作者: 天野みんと


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第四十三章 雪原の先へ

 翌朝、雪灯りの村は静かな朝を迎えていた。

 祭りの名残があちこちに残っている。

 氷灯籠。

 雪像。

 昨夜の足跡。

 どこか夢の続きを見ているようだった。

 セリアは宿の窓から外を眺めていた。

 白銀の景色。

 遠くの森。

 そして食堂の隅でぼんやりしているレオン。

 珍しい。

 いつもなら朝食の準備を手伝ったりしているのに。

 今日はどこか遠くを見ている。

 昨夜からずっと。

 たぶんお兄ちゃんのことを考えている。


「レオン坊」

 リリカが声を掛けた。

 レオンが睨む。

「やめろ」

「もう村出るんだからいいじゃん」

「よくない」

「レオン坊」

「リリカ」

 いつものやり取りだった。

 だが少しだけ。

 空気が柔らかい。

 昨日までとは違う。

 レオン自身も気づいていないだろう。

 故郷へ帰ったことで。

 何かが少しほどけていた。

 ◇

 朝食後、一行は出発の準備を整える。

 村人たちが見送りに来ていた。

「また来るんだよ」

「祭りの日にね」

「レオン坊もな」

「だからやめろ」

 笑いが起こる。

 セリアも笑う。

 レオンはため息をついた。

 でも本気で嫌そうではなかった。

 ◇

 村を出る。

 雪原へ続く道。

 冷たい風。

 白い景色。

 振り返ると、雪灯りの村は少しずつ小さくなっていった。

 その時

「レオン」

 セリアが隣へ並ぶ。

「あのさ」

「なんだ」

 少しだけ迷う。

 そして

「お兄ちゃんに会えてよかったね」

 レオンは足を止めなかった。

 しばらく何も言わない。

 風だけが吹く。

 やがて。

「……ああ」

 小さく答えた。

 本当に小さく。

 でもセリアには聞こえた。

 ◇

 しばらく歩く。

 雪を踏む音。

 仲間たちの声。

 穏やかな時間。

 すると

「似てるな」

 ぽつりとレオンが言った。

「え?」

「たまに」

 セリアは目を瞬く。

 何の話だろう。

「無茶するところ」

 レオンだった。

 セリアは思わず頬を膨らませる。

「そんなにしないよ」

「する」

「してない」

「してる」

 即答だった。

 腹が立つ。

 でも少しだけ面白い。

 その時、前を歩いていたリリカが振り返った。

「夫婦喧嘩?」

 雪玉が飛んだ。

 レオンが投げた。

 命中した。

「いたっ!」

「いらんことを言うな」

「図星だ!」

 また雪玉が飛ぶ。

 リリカが逃げる。

 ガルドが笑う。

 ユークは記録していた。

 平和だった。

 ◇

 その日の夕方、一行は雪原の中にある小さな集落へ立ち寄った。

 だが、どこか様子がおかしい。

 人が少ない。

 家畜も落ち着かない。

 村人たちの表情も暗い。

 ガルドが眉をひそめる。

「何かあったな」

 レオンも頷く。

 セリアは胸元へ手を当てた。

 微かに嫌な気配を感じる。

 古塔で知った感覚。

 魔障。

 それも以前より濃い。


 集落の広場。

 村長らしき老人が一行を見る。

 そして疲れた声で言った。

「旅の方か」

 その表情には明らかな困惑と不安が浮かんでいた。

「どうか助けてほしい」

 風が吹く。

 雪原の向こう。

 黒い森が見えていた。

 まるで何かを隠しているように。

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