間章 Sideレオン 吹雪の日(中編)
翌朝、吹雪は少しだけ弱まっていた。
山小屋の窓から薄い光が差し込んでいる。
レオンは目を覚ました。
肩の傷が痛む。
だが昨日よりはましだった。
視線を向ける。
青年は既に起きていた。
火を起こしている。
鼻歌まで歌っている。
朝からうるさい。
「起きた?」
振り返って笑う。
レオンは返事をしなかった。
「無視かよ」
青年は少し残念そうに言った。
だが全然気にしていない。
レオンは理解した。
この男に沈黙は効かない。
◇
昼頃、二人は山小屋を出た。
吹雪は止み雪原には青空が広がっている。
レオンは別れるつもりだった。
本気で。
「じゃあな」
「行き先は?」
「村」
「同じ方向だ」
嫌な予感がした。
「だから?」
「一緒に行こう」
「行かない」
「行く」
「行かない」
「行く」
意味が分からない。
結局なぜか二人で歩いていた。
途中小さな集落へ立ち寄る。
そこで依頼を見つけた。
雪原の森に魔障の気配。
魔獣が現れ始めているらしい。
「行くか?」
青年が言う。
「勝手に行け」
「じゃあ行く」
本当に行った。
レオンは頭を抱えた。
放っておけばいい。
放っておけば。
そう思った。
なのに気づけば後を追っていた。
◇
森は静かだった。
雪が枝に積もっている。
足跡。
魔獣のもの。
新しい。
「いるな」
レオンが呟く。
青年は頷いた。
さっきまでの軽い雰囲気が消えている。
目だけが鋭い。
その変化にレオンは少し驚く。
直後魔獣が現れた。
黒い毛並み。
赤い瞳。
魔障に侵された雪狼。
昨日の個体より大きい。
「右!」
レオンが叫ぶ。
雪狼が飛びかかる。
しかし青年は既に動いていた。
術式が展開される。
光の鎖。
雪狼の動きを止める。
その隙レオンが斬り込む。
剣閃。
雪が舞う。
だが雪狼はまだ倒れない。
「下がれ!」
青年が叫ぶ。
術式が炸裂する。
雪狼が吹き飛びそのまま崩れ落ちた。
静寂。
レオンは息を吐く。
強い。
本当に強い。
「今の良かったな」
青年が笑う。
「連携」
「連携した覚えはない」
「したじゃん」
「してない」
「した」
うるさい。
だがレオンは少しだけ戸惑っていた。
戦いやすかった。
今まで誰ともこんな感覚はなかった。
言葉にする前に動きが噛み合う。
まるで最初からそうだったみたいに。
「名前」
気づけば口にしていた。
「ん?」
「まだ聞いてなかった」
青年が少し笑う。
「今さら?」
「嫌ならいい」
「嫌じゃない」
そして当たり前みたいに言った。
「ルーク」
雪原の風が吹く。
それがレオンが初めて知った名前だった。
◇
その日の夕方、
二人はもう一件の依頼へ向かっていた。
レオンは否定したい。
なぜ同行しているのか。
自分でもよく分からなかった。
ただ少しだけ、この男と歩く時間が嫌じゃなくなっていた。
だからその後に起きる出来事はレオンにとって予想外だった。
魔障に侵された魔獣の群れ。
そして自分の無茶がルークを本気で怒らせることになる。




