間章 Sideレオン 吹雪の日(前編)
雪は嫌いだった。
白くて。
冷たくて。
終わりがない。
見渡す限り同じ景色。
どこまで行っても雪ばかりだ。
だから早く出て行きたかった。
この村も。
この雪原も。
全部。
十六歳のレオンはそう思っていた。
◇
吹雪の日だった。
空は灰色。
風は強い。
本来なら外へ出るような天気ではない。
それでもレオンは森へ入っていた。
薬草採りではない。
狩りでもない。
ただ苛立っていたのだ。
何に対してなのかは自分でも分からない。
雪原の暮らし。
狭い村。
変わらない毎日。
何もかも気に入らなかった。
だから気づくのが遅れた。
魔獣。
雪狼。
吹雪の中に紛れる白い影。
牙が閃く。
レオンは剣を抜いた。
戦う。
一人で。
いつものように。
勝てると思っていた。
実際今まで何とかなってきた。
だから無茶をした。
結果負けた。
肩を裂かれる。
雪へ叩きつけられる。
視界が揺れる。
雪狼は再び飛びかかってくる。
立て!
立て!
立て!
だが身体が動かない。
その時だった。
何かが飛んだ。
雪狼が吹き飛ばされる。
見たこともない術式。
青白い光。
そして
「おお」
場違いな声。
「生きてる」
レオンは眉をひそめた。
吹雪の向こうに一人の青年が立っていた。
黒い外套。
旅装。
人の良さそうな顔。
そしてものすごく呑気だった。
「……誰だ」
レオンが吐き捨てる。
青年は少し考えた。
「旅人」
「帰れ」
「無理だね」
即答だった。
レオンは理解した。
面倒な奴だ。
雪狼が起き上がる。
しかし青年は気にした様子もない。
「ちょっと待ってろ」
そう言って本当に待たせた。
雪狼を。
そして次の瞬間。
術式が走る。
吹雪の中へ無数の光が広がる。
雪狼は逃げた。
レオンは呆然とする。
強い。
明らかに。
自分よりずっと。
「さて」
青年が近づいてくる。
嫌な予感しかしない。
「怪我を見ようか」
「断る」
「なんで?」
「放っておけ」
「それは無理かな」
笑う。
何がそんなに面白いのか。
レオンには理解できなかった。
青年はしゃがみ込む。
傷を見て眉を下げた。
「かなり痛そうじゃん」
その言葉に。
レオンは少しだけ戸惑った。
痛そう。
そんなこと。
今まで誰も言わなかった。
怪我なんて当たり前だったから。
我慢するのが当たり前だったから。
「名前は?」
「言わない」
「じゃあ俺が勝手に呼ぶとするか」
「やめろ」
「雪だるま」
「やめろ」
青年は笑った。
本当に楽しそうに。
意味が分からない。
初対面なのに
図々しい。
距離が近い。
騒がしい。
面倒だ。
なのになぜだろう。
吹雪の寒さだけは少しだけ遠のいた気がした。
そしてレオンはまだ知らない。
この青年が自分の人生を変えることを。
ルーク。
後に一番長い旅を共にする相棒になる人だった。




