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星祈りの少女は、傷ついた世界を旅する  作者: 天野みんと


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第四十二章 雪原の出会い

 食堂は少し静かになっていた。

 おばあちゃんの言葉の後、

 誰もすぐには話さなかった。

「ルークさん?」

 リリカが聞く。

 おばあちゃんは懐かしそうに笑った。

「ああ、ルーク坊だよ」

 その呼び方にセリアは少し笑う。

 レオンは何とも言えない顔をしていた。

「それからは毎年のように来てたからねぇ」

「そんなに?」

「来てたとも」

 おばあちゃんは頷く。

「薬草採りを手伝ったり、雪かきをしたり」

「子どもたちとも遊んでたねぇ」

「あいつらしいな」

 ぽつりとレオンが言った。

 全員がそちらを見る。

 自分からルークの話をするのは珍しい。

「出会ったのもこの村だったの?」

 セリアが尋ねる。

 レオンは少し考えた。

 それから頷く。

「ああ」

 短い返事。

 でも続きを話す気らしい。

 リリカが机へ身を乗り出した。

 完全に聞く気である。

「聞かない方がいいぞ」

「聞く」

 即答だった。

 レオンは諦めたように息を吐く。

「十六だった」

 窓の外を見る。

 雪が舞っていた。

「吹雪の日だった」

 その一言でどこか遠い記憶を見ていることが分かった。

「当時の俺は村を出ることしか考えてなかった」

 セリアは黙って聞く。

「故郷も嫌いだったし、人付き合いも嫌いだった」

「今より?」

 リリカが聞く。

「今よりだ」

 全員少し驚く。

 今でも十分無愛想だからだ。

「それで?」

 セリアが促す。

 レオンは少しだけ苦笑した。

 本当にわずかに。

「森で魔獣に遭った」

 食堂が静かになる。

「一人で倒そうとして」

「失敗した」

 その言葉にセリアは驚く。

 今のレオンからは想像できない。

「怪我をして動けなくなった」

「そこで現れた」

 レオンの視線が遠くなる。

「ルーク坊が」

 おばあちゃんが笑った。

 レオンは少し嫌そうな顔をした。

「お兄ちゃんは何したの?」

 セリアが聞く。

「笑った」

「え?」

「笑った」

 リリカが吹き出した。

 ユークも肩を震わせている。

「いや、本当に笑ったんだ」

 レオンは少し呆れたように言う。

「何だその顔はって」

「初対面で?」

「ああ」

 酷い。

 でも兄らしい。

「それから」

 レオンは続ける。

「手当てされた」

「助けてもらった」

「飯も作られた」

 セリアは思わず笑った。

 何となく想像できる。

「その時言われた」

 レオンの声が少し柔らかくなる。

『一人で全部やる必要ないだろ』

 その言葉をレオンは今でも覚えていた。

 十年以上経った今も。

 その時、おばあちゃんがぽつりと言う。

「ルーク坊は不思議な子だったねぇ」

「そうだな」

 レオンは頷く。

「壁を作っても入ってくる」

 その言葉にセリアは少しだけ目を伏せた。

 それはきっと兄らしい。

 優しくて。

 お節介で。

 誰かを放っておけない人。

 そして今目の前にいるレオンも。

 少しだけ似ている気がした。

 昔ルークに救われた少年は、

 気づかないうちに誰かを支える大人になっていたのだから。

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