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星祈りの少女は、傷ついた世界を旅する  作者: 天野みんと


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第四十一章 レオン坊調査報告書

 翌朝、雪灯りの村は快晴だった。

 昨夜降った雪が陽光を受けてきらきらと輝いている。

 朝食の時間になっても、

 セリアとレオンはまだ宿へ戻っていなかった。

 村の外れを少し散歩しているらしい。

 その間リリカは暇だった。

 退屈していた。

 そして、

 結果としてろくでもないことを始めた。


「おばあちゃん!」

「なんだい?」

「昔のレオン坊について教えて!」

 村人たちの間に静寂が走る。

 そして全員が笑った。

「聞く相手が違うだろうに」

「いや合ってる!」

 リリカは紙束を取り出した。

 表紙には大きく書かれている。


 『レオン坊調査報告書』


 ガルドが吹き出した。

 ユークは興味津々で覗き込んでいる。

「質問その1」

 リリカが高らかに宣言する。

「昔のレオン坊はどんな子だったか?」

「怖かったねぇ」

 一人目のおばあちゃんが即答した。

「怖かった」

「怖かった」

「怖かったな」

 三連続だった。

 ユークが真面目に書き留める。

  『怖かった。』

「やめろ」

 ガルドが言う。

「そのまま記録するな」

「質問その2」

 リリカは続ける。

「笑ったりしてた?」

 全員首を傾げる。

「見たことないねぇ」

「ないな」

「なかった」

 三連続だった。

 ユークが書く。

  『笑顔確認記録なし。』

「おいユーク」

 止めるガルド。

 そこへ宿のおばあちゃんが笑いながら言った。

「でも優しい子だったよ」

 リリカが食いつく。

「詳しく!」

 ガルドはもう止めるのを諦めた。

「吹雪の日があってね」

 おばあちゃんは懐かしそうに目を細める。

「村の子が森で迷子になったんだよ」

 食堂が少し静かになる。

「皆で探したけど見つからなくてね」

「そしたらレオン坊が一人で飛び出して行った」

 リリカが瞬きをする。

「一人で?」

「一人で」

「吹雪の中を?」

「吹雪の中を」

 ガルドもユークも黙って聞いていた。

「見つけた時には自分も凍えそうだったよ」

 おばあちゃんは笑う。

「でもあの子、最後まで子どもを離さなかった」

 沈黙。

 リリカは紙へ書き込む。

  『怖い。』

  『不器用。』

  『でも優しい。』

 そして少しだけ微笑んだ。

「なるほどね」

 その時だった。

 宿の扉が開く。

 セリアとレオンだった。

 雪が付いた外套。

 少し赤くなった頬。

 朝の散歩から戻ってきたらしい。

「おかえりー!」

 リリカの笑顔を見た瞬間。

 レオンの目が細くなる。

 嫌な予感がした。

「何をした」

 即座に見抜かれた。

「何も?」

「嘘だな」

 完全にバレている。

 リリカは満面の笑みで紙束を掲げた。

「レオン坊調査報告書!」

 セリアが吹き出した。

 レオンが頭を抱えた。

「セリア聞いて聞いて!」

「やめろ」

「昔のレオン坊は怖かった!」

「やめろ」

「昔のレオン坊は笑わなかった!」

「やめろ」

「昔のレオン坊は迷子を助けた!」

 そこでレオンが固まる。

 リリカは勝ち誇った顔になった。

「優しいじゃん」

「別に」

「別にじゃないでしょ」

 セリアが言った。

 レオンが視線を逸らす。

 その反応が面白くて、

 リリカは笑いを堪えられない。

 でもセリアは少し違った。

 昨夜、

 「一人だったからだ」

 そう言った人。

 でも吹雪の中へ飛び込んで

 誰かを助けに行く人。

 それが本当のレオンなのかもしれない。

 ぶっきらぼうで。

 不器用で。

 優しい。

 昔から。

 きっと変わらずに。

 その時だった。

「そういえば」

 宿のおばあちゃんがぽつりと言った。

「ルーク坊が初めて来たのも、あの頃だったかねぇ」

 食堂が静かになる。

 レオンだけがゆっくり顔を上げた。

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