第五章 覚醒の夜
食後。
リリカとミレナに捕まったセリアは、
半ば強制的に椅子へ座らされていた。
「よし、動かない!」
「髪きれいだから絶対編み込み似合う!」
「えっ、えっ?」
鏡の前で戸惑うセリア。
ミレナの指が、
さらさらの灰桜色の髪を丁寧に編んでいく。
「肌白いし、淡い色ほんと似合うわねぇ」
「うんうん、ほんと!」
「そ、そんなことないよ……」
恥ずかしそうに俯く。
その姿を、
少し離れた席からレオンが見ていた。
「……」
無言。
でも視線だけは外せない。
すると隣に座ったエルドが、
静かに酒を置いた。
「自覚あるか?」
「……何の話です」
「顔」
レオンが眉をひそめる。
エルドは小さく笑った。
「昔のお前、もっと酷い顔してたぞ」
「……」
「今は随分柔らかい」
レオンは答えない。
ただ、
視線の先にはセリアがいた。
楽しそうに笑っている。
安心したみたいな顔で。
「……あいつが変なんです」
「ほう?」
「放っておけない」
ぽつりと零れた本音。
エルドは少しだけ目を細めた。
「ルークとの約束だからか?」
その瞬間。
レオンの表情が止まる。
暖炉の火が静かに揺れた。
「……最初は、そのつもりでした」
「今は違う?」
沈黙。
レオンはゆっくり息を吐く。
「……分かりません」
けれど。
セリアが笑うと、
少し安心する。
無理してると腹が立つ。
泣きそうな顔をすると、
胸がざわつく。
そんな感情を、
まだ上手く言葉にできなかった。
◇
夜も更けた頃。
セリアは一人、
宿の中庭へ出ていた。
空には満天の星。
冷たい夜風が、
編み込まれた髪を優しく揺らす。
「……きれい」
王都では見られない星空だった。
その時。
胸元のペンダントが、
淡く光る。
「……え?」
白銀色の光。
まるで呼吸するみたいに明滅している。
そして。
遠くの森の奥から、
黒い霧のようなものがゆらりと立ち上った。
ぞくり、と胸が騒ぐ。
――呼ばれている。
そんな感覚。
セリアが無意識に一歩踏み出した瞬間。
『星祈りよ』
頭の奥に、
知らない声が響いた。
「っ……!?」
『封印が、目覚める』
光が強くなる。
空気が震える。
その瞬間。
セリアの身体から、
淡い光がふわりと溢れた。
「な、に……これ……」
自分でも分からない。
怖い。
でもどこか懐かしい。
その時だった。
「セリア!!」
宿の扉が勢いよく開く。
飛び出してきたレオンが、
すぐにセリアの身体を支えた。
「どうした!? 今、魔力が――」
言葉が止まる。
レオンの腕の中で、
セリアの身体から星みたいな光が舞っていた。
そしてレオンは理解する。
――始まってしまったのだと。
かつてルークが命を懸けて守った、
“星祈り”の力が。




