第三十八章 白銀の雪原へ
北の雪原編スタートです!
古塔を出発した朝はよく晴れていた。
空は高く澄み渡り、山の向こうには薄く雪をかぶった峰々が見える。
北へ向かうほど寒くなる。
旅人たちも厚手の外套を羽織るようになった。
「寒い」
リリカが言った。
まだ北へ入って二日目である。
「早い」
レオンが即答する。
「だって寒いんだもん」
「本番はこれからだ」
その言葉にリリカは絶望した顔になった。
「帰りたい」
「帰るか?」
「帰らない」
即答だった。
皆少し笑う。
旅は穏やかに続いていた。
古塔での出来事が嘘のように。
けれど、誰も忘れてはいなかった。
胸の中に静かに残っている。
託された願いも。
未来を信じる約束も。
全部抱えたまま歩いている。
それでよかった。
たぶん。
それが旅なのだ。
◇
昼頃、一行は雪原へ続く峠へ辿り着いた。
そこを越えた瞬間だった。
「わあ……」
セリアは思わず立ち止まる。
目の前に広がっていたのは。
白銀の世界だった。
どこまでも続く雪原。
陽光を受けて輝く雪。
遠くに見える針葉樹の森。
そして澄みきった青空。
世界が静かだった。
まるで音まで雪に包まれているみたいに。
風だけが優しく吹いている。
「綺麗……」
思わず零れる。
その声を聞いて。
レオンが少しだけ目を細めた。
珍しく。
本当に珍しく。
懐かしそうな顔だった。
「ここが」
セリアが振り返る。
「レオンの故郷の近く?」
「近い」
短い返事。
だが否定はしない。
いつもなら話題を変えていたかもしれない。
少しだけ変わったのはレオンの方かもしれなかった。
ガルドが周囲を見渡す。
「良い場所だな」
「冬以外はな」
レオンが言う。
「今は?」
「冬だ」
即答だった。
リリカが吹き出した。
「地元愛ないじゃん」
「ある」
「ないね」
「ないな」
ガルドまで乗っかる。
レオンはため息をついた。
旅の仲間たちは容赦がなかった。
その様子を見ながら。
セリアは少しだけ安心する。
古塔を出てから。
レオンはどこか考え込むことが増えていた。
けれど今は違う。
少しだけ肩の力が抜けて見える。
その時だった。
ユークが地図を広げる。
「本日の目的地は雪灯りの村です」
「名前が可愛い」
リリカが言う。
「毎年冬になると氷灯籠祭りが行われることで有名です」
「お祭り!」
完全に食いついた。
ユークは続ける。
「そして」
そこで一度言葉を切る。
嫌な予感しかしない。
「ルークさんが長期間滞在した記録があります」
静寂。
全員がレオンを見る。
レオンだけが空を見ていた。
「……そうか」
短い返事。
だが、その横顔を見たセリアは思う。
ここにはまだ知らない物語がある。
兄の物語。
そしてレオンの物語も。
雪原の風が吹き抜ける。
白銀の世界の向こう。
ルークがかつて歩いた道が続いていた。
その先で待っているものを。
まだ誰も知らない。




