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星祈りの少女は、傷ついた世界を旅する  作者: 天野みんと


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第三十七章 未来を信じる約束

古塔編最終話です!

 古塔の最下層は静まり返っていた。

 石碑に刻まれた文字。

 未来へ託す。

 その言葉だけがセリアの胸に残っている。

 誰もすぐには動けなかった。

 ユークでさえ黙っていた。

 リリカも。

 ガルドも。

 レオンも。

 皆それぞれ考えていた。

 この場所に残された願いを。

 その時だった。

 ノクスがゆっくり歩き出す。

 石碑の前へ。

 何百年も前、アイシアたちが立っていた場所へ。

 その背中は不思議と小さく見えた。

 長い時間を背負っているのに。

 どこか孤独だった。

「ノクス」

 セリアが呼ぶ。

 彼は振り返らない。

 ただ静かに石碑を見つめている。

「私は」

 低い声が響く。

「ずっと勘違いしていたらしい」

 誰も口を挟まない。

「アイシアは終わらせたかったのだと思っていた」

 ノクスは石碑へ手を触れる。

「星祈りの苦しみを」

「悲しみを」

「全て」

 そして少しだけ目を閉じた。

「だが違った」

 沈黙。

「託したかったんだな」

 その言葉は独り言のようだった。

 けれど確かに届いた。

 セリアにも。

 仲間たちにも。

 そしてきっと遠い過去の誰かにも。

 ノクスは懐から翼の欠片を取り出した。

 白銀の結晶。

 何百年も手放せなかったもの。

 何百年も握り続けてきたもの。

 その光を見た瞬間。

 セリアのペンダントが輝き始める。

 雪の結晶。

 そして光の翼。

 二つの光が共鳴する。

 まるで再会を喜ぶように。

 ノクスはしばらくそれを見つめていた。

 本当に長い時間。

 別れを惜しむように。

 そして静かに手を差し出した。

「預ける」

 セリアは目を見開く。

「……いいの?」

 ノクスは少しだけ笑った。

 本当に少しだけ。

 けれど、古塔で初めて見せた笑顔よりもずっと柔らかかった。

「約束だからな」

 セリアは翼の欠片を見る。

 そしてノクスを見る。

「アイシアさんとの?」

 風が吹く。

 古塔の奥を優しく吹き抜ける風。

 ノクスは空を見上げた。

 昔と同じ星空。

 何百年も見続けた星空。

 そして静かに答えた。

「未来を信じる約束だ」

 その瞬間。

 翼の欠片が光になる。

 白銀の光。

 優しい光。

 それはゆっくりとペンダントへ吸い込まれていった。

 雪の結晶の両側に翼が現れる。

 完全な姿。

 失われたはずの紋章。

 けれど不思議と誰も「戻った」とは思わなかった。

 これは新しく生まれたものだったから。

 過去と未来が繋がった証だったから。

 ペンダントは静かに輝く。

 そしてその中心に一つの文字が浮かび上がる。


  継ぐ者よ

  救え

  ではなく

  共に歩め


 セリアは息を呑んだ。

 アイシアが残した答え。

 星祈りの本当の役目。

 それは世界を救うことではなかった。

 一人で背負うことでもなかった。

 共に歩くこと。

 繋ぐこと。

 寄り添うこと。

 それだけだった。

 気づけば涙が頬を伝っていた。

 悲しいわけではない。

 ただあまりにも優しい願いだったから。


 翌朝、一行は古塔を発つ準備をしていた。

 荷物をまとめるユーク。

 朝から騒がしいリリカ。

 いつも通りのガルド。

 そしてレオン。

 見慣れた光景。

 旅は続いていく。

 セリアは振り返った。

 古塔の最上階。

 そこに白銀の人影が見える。

 ノクスだった。

 視線が合う。

 ほんの一瞬。

 彼は小さく頷いた。

 それだけだった。

 けれど十分だった。

 セリアも微笑む。

 そして歩き出す。

 仲間たちの元へ。

 未来へ。

 ◇

 古塔の屋上、ノクスは静かに空を見上げていた。

 昔と同じ星空。

 何も変わっていない。

 それなのにどこか違って見えた。

 風が吹く。

 白銀の髪が揺れる。

 遠ざかっていく旅人たち。

 その背中を見送りながら。

 ノクスはゆっくり目を細めた。

 そして、何百年ぶりかも分からないほど自然に笑う。

 夜空には無数の星。

 繋がる光。

 途切れない願い。

 その景色を見上げながら。

 ノクスは静かに呟いた。

「ああ」

 風が答えるように吹く。

「見えているよ」

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