表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星祈りの少女は、傷ついた世界を旅する  作者: 天野みんと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/59

第三十六章 星蝕の記録

 翌朝、古塔の窓から差し込む光でセリアは目を覚ました。

 珍しくよく眠れた気がする。

 記憶の海へ入った夜の後は疲れることも多い。

 けれど今日は違った。

 アイシアの言葉が残っていたからだろうか。

 未来を信じる。

 その想いが不思議と胸を温かくしていた。

 食堂へ向かうと既に全員揃っていた。

 ユークだけは朝から紙束を抱えている。

 嫌な予感しかしない。

「見つけました」

 やっぱり言った。

 ユークは満面の笑みだった。

 こういう時は大抵大発見である。

「今度は何?」

 リリカが聞く。

「最下層です」

 ユークの目が輝く。

「この古塔にはまだ地下があります」

 全員が顔を見合わせた。

「まだあるのか」

 ガルドが呟く。

「あります」

「どれくらい?」

「分かりません」

 即答だった。

 不安しかない。

 ◇

 昼過ぎ、一行は古塔の最下層へ向かっていた。

 案内役はもちろんユーク。

 迷宮へ挑む冒険者みたいに張り切っている。

 レオンは少し嫌そうだった。

 ユークが張り切っている時は大体ろくなことがないからだ。

 それは経験則だった。

 階段を下りる。

 さらに下りる。

 そして古い扉の前へ辿り着いた。

 他の場所と違う。

 扉には翼と雪の結晶が刻まれている。

 セリアのペンダントと同じ紋章。

 その瞬間、胸元が淡く光った。

 白銀の輝き。

 扉がゆっくり開いていく。


 部屋は広かった。

 まるで神殿のようだった。

 中央には巨大な石碑。

 周囲には無数の記録板が並んでいる。

 空気が重い。

 異様なほど静かだった。

 セリアは胸に手を当てる。

 何かが残っている。

 悲しみ。

 後悔。

 願い。

 長い年月ここへ留まり続けた感情。

 そんな気がした。

「これは……」

 ユークが息を呑む。

 震える手で文字をなぞる。

「星蝕の記録です」

 部屋が静まり返った。


 最初の石板。

 そこには一人の星祈りの名前。

 年齢。

 そして記録。


  三十七回目の浄化

  笑うことが少なくなった


 次の石板。


  五十一回目の浄化

  夢を見なくなった


 さらに次。


  七十四回目の浄化

  誰かを好きだったことを思い出せない


 セリアは息を呑む。

 胸が痛い。

 これは病気の記録ではない。

 人生の記録だった。

 失われていくものの記録。


 部屋の奥。

 さらに大きな石碑があった。

 そこには最後の言葉が刻まれている。


  星蝕とは穢れではない


 ユークが読み上げる。


  星蝕とは

  世界の痛みを抱え続けた者の傷である


 誰も言葉を発しなかった。

 風もない。

 音もない。

 ただ文字だけがそこにあった。


 セリアはゆっくり近づく。

 胸元のペンダントが強く光る。

 そして最後の一文が浮かび上がった。

 今まで隠されていた文字。


  彼らを救う方法を

  未来へ託す


 その文字を見た瞬間、セリアは理解した。

 アイシアは諦めていなかった。

 翼を封じたのは終わりのためじゃない。

 未来のためだった。

 いつか誰かが

 星祈りを救う方法を見つけてくれるように。


 その時だった。

 部屋の入口から足音が響く。

 ゆっくり。

 静かに。

 一歩ずつ。

 全員が振り返る。

 そこには白銀の髪の青年が立っていた。

 ノクスだった。

 金色の瞳が石碑を見つめている。

 その表情はいつもと違った。

 驚いていた。

 本当に。

 心の底から。

「……そうか」

 小さく呟く。

 何百年も知らなかった答えに触れた人のように。

「そういうことだったのか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ