間章 Sideリリカ 花より長く残るもの
レオンは今日三回目のため息をついた。
リリカは数えていた。
暇だったからである。
「三回目」
ベッドに寝転がりながら言う。
「何がだ」
レオンは本を読んだまま返事をした。
「ため息」
「数えるな」
「数えちゃった」
隣でガルドが肩を震わせている。
笑っているらしい。
「絶対気にしてるじゃない」
「何を」
「セリア」
レオンの手が止まる。
ほんの一瞬だけ。
リリカは見逃さなかった。
「ほら」
「ほらじゃない」
「また屋上でしょ?」
「知らない」
「嘘」
「知らない」
即答だった。
見事な嘘だった。
リリカは呆れる。
ガルドも呆れていた。
たぶんユークもいたら呆れていた。
全会一致だった。
ただ本人だけが認めない。
「行けばいいのに」
「行かない」
「なんで」
「なんでもだ」
面倒くさい。
本当に面倒くさい。
でも、少しだけ変わったと思う。
リリカはそう感じていた。
昔のレオンならもっと強引だった。
止めていたかもしれない。
危険なら近づけなかったかもしれない。
けれど今は違う。
心配している。
すごくしている。
でも、ちゃんとセリア自身に決めさせている。
それが少し嬉しかった。
きっと本人は気づいていないけれど。
そんなことを考えていると、
ふと昔のことを思い出した。
以前所属していたパーティー。
決して仲が悪かったわけじゃない。
喧嘩別れでもない。
ただ終わった。
それぞれ進みたい道があった。
故郷へ帰る人。
別の地方へ向かう人。
引退する人。
最後の日は皆で食事をした。
笑っていた。
楽しかった。
でも、帰り道は少しだけ泣いた。
もう明日から、
この時間はないのだと気づいたから。
旅は終わる。
いつか必ず。
それを知っている。
だから今の仲間たちが好きだった。
星灯り亭。
アップルパイ。
古文書を見つけるたびに目を輝かせるユーク。
子どもたちに囲まれるガルド。
料理ばかり上達していくレオン。
そして、誰かの痛みに寄り添おうとするセリア。
全部好きだった。
失いたくないと思うくらいに。
「リリカ」
レオンが呼ぶ。
「なんだ」
「呼んできてくれ」
リリカは吹き出した。
「自分で行けばいいのに」
「行かない」
「素直じゃないなぁ」
レオンは黙った。
その反応が面白くて、
リリカは笑いながら立ち上がる。
「はいはい」
そして客室を出た。
階段を上る。
屋上へ続く扉を開ける。
そこにはやっぱり二人がいた。
星空の下。
静かに話している。
リリカは思う。
ああ、こういう時間も悪くないなと。
そして思いきり息を吸った。
「セリアー!」
二人が同時に振り向く。
「レオンが探してるー!」
遠慮はしない。
空気は読んだ。
読んだ上で壊した。
それがリリカである。
セリアは思わず笑い、
ノクスは呆れたような顔をした。
その表情を見て、
リリカは少し驚いた。
この人ちゃんと笑えるんだ。
今はまだ少しだけ。
でも確かに。
そんなことを思いながら、
リリカは階段を下りていく。
旅はいつか終わる。
きっと終わる。
それでも、
今はまだもう少しだけ続いてほしいと思った。




