第三十四章 託されたもの
いつも読んでくださりありがとうございます!
この小説はチャッピーと会話しながら自分の好きな世界観を詰め込んで作っています。
きっかけはチャッピーが作者のイメージから「RPGゲームに登場するキャラクターだったら」とセリアの画像を生成したことがきっかけです。この子が登場する小説があったらどんな話になるだろうと。
毎日17時に投稿を続けていきたいと思っていますのでこれからもよろしくお願いします!
翌朝、古塔には静かな光が差し込んでいた。
昨夜見た記憶が、まだ胸の奥に残っている。
アイシア。
封印の日。
そして未来へ託された翼。
セリアは窓辺に座りながらペンダントを見つめた。
雪の結晶。
その両側には、以前よりもはっきりと光の翼が浮かんでいる。
完全ではない。
けれど確実に変化していた。
「また考え事か」
朝食を運びながらレオンが言う。
最近はもう隠さなくなった。
セリアが何か抱えている時はすぐ分かるらしい。
「うん」
セリアは素直に頷いた。
「アイシアさんのこと」
レオンは少し黙る。
それから向かいへ腰を下ろした。
「どんな人だった」
セリアは少し考えた。
そして
「強い人だったと思う」
そう答えた。
「でも」
小さく笑う。
「たぶん優しすぎた人でもあった」
レオンは何も言わない。
ただ静かに聞いている。
「それでね」
セリアはペンダントへ触れる。
「ずっと考えてたの」
窓の外では風が吹いている。
古塔の上を雲が流れていく。
「どうして翼を消さなかったんだろうって」
レオンの目が少しだけ細くなる。
セリアは続けた。
「封印するだけなら壊してしまった方が簡単だったと思う」
「……そうだな」
「でもそうしなかった」
そこでセリアは微笑んだ。
本当に小さく。
「未来を信じてたんだと思う」
レオンが顔を上げる。
「未来?」
「うん」
セリアは頷く。
「いつか誰かが思い出してくれるって」
浄化するためだけじゃない。
戦うためだけじゃない。
本当の役目を。
繋ぐことを。
寄り添うことを。
忘れられた願いを。
その言葉を聞いて。
レオンは何も返さなかった。
けれど、その横顔はどこか優しかった。
まるでルークも同じことを言いそうだと思ったみたいに。
◇
その日の夕方、セリアは再び古塔の屋上へ向かった。
階段を上る。
扉を開ける。
夕暮れの風が吹き抜ける。
ノクスはいつもの場所にいた。
空を見上げている。
相変わらずだ。
「また来たのか」
振り返りもせずに言う。
「また来たよ」
セリアは答えた。
少しだけ、昨日より自然に。
沈黙。
だが居心地は悪くない。
しばらくしてセリアは言った。
「アイシアさんは未来を信じてたんだね」
その瞬間、ノクスの表情が止まった。
本当に一瞬だけ。
風が吹く。
長い白銀の髪が揺れる。
「どうしてそう思う」
静かな声。
けれどどこか緊張している。
セリアは空を見上げる。
星が一つ。
また一つ。
灯り始めていた。
「信じてなかったら」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「翼は残さなかったと思うから」
ノクスは黙っている。
「きっと待ってたんだよ」
セリアは続けた。
「未来の星祈りを」
「……」
「私じゃなくても」
「誰かを」
長い沈黙。
その間に夜が少しずつ深くなっていく。
そしてノクスが小さく笑った。
いや、笑ったというより苦く息を吐いた。
「変わったことを言う」
「そうかな」
「そうだ」
即答だった。
でもどこか昔より柔らかい。
セリアは気づいていた。
少しずつ。
本当に少しずつ。
この人が変わり始めていることに。
その時だった。
ノクスの手から何かが零れ落ちる。
小さな白銀の結晶。
翼の形をした欠片。
セリアは息を呑む。
見覚えがあった。
記憶の中で。
封印の日に見たものだ。
ノクスはそれに気づく。
一瞬だけしまったという顔をした。
だがもう遅い。
セリアは静かに尋ねた。
「それは」
夜風が吹く。
星々が瞬く。
ノクスは手の中の翼の欠片を見つめた。
何百年も手放せなかったもの。
約束の証。
後悔の証。
そして大切な人の残したもの。
やがて、ノクスはゆっくり口を開く。
「……アイシアが残したものだ」
初めてだった。
彼が自分から過去を語ろうとしたのは。




