第三十一章 翼の記憶
翌朝、古塔には静かな朝日が差し込んでいた。
昨夜の出来事が夢だったような気もする。
けれど、
胸元のペンダントを見ると現実だと分かった。
雪の結晶の両側、
本当にわずかだったが昨日は翼の光が見えた。
幻ではない。
確かに。
「考え事か」
朝食の準備をしながらレオンが言う。
鍋からは湯気が立っている。
相変わらず手際が良い。
「少し」
セリアは微笑んだ。
「レオンって本当に何でもできるよね」
「ルークが変なことを書いたせいだ」
即答だった。
どうやらまだ気にしているらしい。
セリアは少し笑う。
そんな何気ない時間が心地よかった。
けれど、
ユークが駆け込んできたことで静寂は終わる。
「見つけました!」
興奮している。
かなり興奮している。
つまり大発見だ。
「今度は何?」
リリカが半分呆れながら聞く。
「翼の記録です!」
全員の動きが止まった。
◇
地下書庫。
古い石版が並ぶ部屋。
ユークはその一枚を指差した。
そこには翼のある雪の結晶が刻まれている。
そしてその下に古い文字。
解読した内容をユークが読み上げる。
翼は力ではない
翼は絆である
人と世界を繋ぐもの
過去と未来を繋ぐもの
セリアは息を呑む。
まただ。
また同じ言葉。
『繋ぐ』
記憶の海でも。
花守りの祠でも。
ずっと繰り返されている。
◇
その時、ペンダントが光った。
白銀の光。
部屋が静まり返る。
そしてセリアの視界が揺らぐ。
◇
気づけば星空の下だった。
アイシアがいる。
今までで一番鮮明だった。
風が吹く。
銀髪が揺れる。
彼女は古塔の屋上に立っていた。
隣には一人の青年。
白銀の髪。
金色の瞳。
若い頃のノクスだった。
「本当にやるのか」
ノクスが言う。
アイシアは空を見上げる。
たくさんの星。
静かな夜。
「やるよ」
優しい声だった。
「みんな疲れてる」
少しだけ寂しそうに笑う。
「もう十分頑張った」
ノクスは何も言わない。
「反対?」
アイシアが聞く。
「当たり前だ」
即答だった。
その声には珍しく感情があった。
「また方法を探せばいい」
「あなたずっとそう言ってる」
アイシアは小さく笑う。
「何百年も」
ノクスが言葉を失う。
そして初めて彼は苦しそうな顔をした。
「私は」
アイシアが振り返る。
「あなたが一人になる方が嫌」
セリアの胸が痛む。
この人は知っている。
自分がいなくなることを。
全部知っていてそれでも笑っている。
「だから約束して」
アイシアが言う。
「星を見て」
「そうしたら私たちの繋がりが見えるはずだから」
ノクスは何も答えない。
ただその手を強く握り締めていた。
◇
映像はそこで途切れた。
セリアは我に返る。
地下書庫。
仲間たちの顔。
心臓だけが激しく鳴っている。
「セリア?」
レオンが声をかける。
セリアはすぐには答えられなかった。
だって、今見た記憶の中で
アイシアは一度も泣かなかったのに
ノクスだけが今にも泣きそうだったから。




