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星祈りの少女は、傷ついた世界を旅する  作者: 天野みんと


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33/59

間章 Sideレオン 守れなかったもの

 古塔の廊下を歩く。

 石壁に足音が反響する。

 静かな夜だった。

 だが、レオンの心は少しも静かではなかった。

 セリアがノクスと会った。

 その事実が頭から離れない。

 ◇

 壁にもたれかかる。

 窓の外には星空。

 七年前と同じ景色だった。

 嫌になるくらい。

 同じだった。

 初めて古塔へ来た時、

 ルークは今のセリアと同じだった。

 知らないことを知りたがった。

 困っている人を放っておけなかった。

 そして無理を続けた。

 ◇

 最初は分からなかった。

 本当に少しずつだったから。

 疲れやすくなる。

 眠れなくなる。

 咳が増える。

 それでも本人は笑う。

 大丈夫だ。

 問題ない。

 心配するな。

 全部聞いた。

 全部信じた。

 信じたかった。

 だから気づくのが遅れた。

 ◇

 ある夜だった。

 ルークが倒れたのは。

 古塔の客室で。

 高熱。

 呼吸は浅い。

 意識も曖昧だった。

 レオンは初めて焦った。

 本気で。

 医師を呼ぼうとした。

 薬を探した。

 何でもやろうとした。

 だが、そこへ現れたのがノクスだった。

 何も言わない。

 ただルークの様子を見る。

 脈を測る。

 額へ手を当てる。

 慣れていた。

 嫌になるほど。

 その時レオンは理解した。

 こいつは知っている。

 星祈りがどうなるかを。

「助かるのか」

 気づけば聞いていた。

 ノクスは答えない。

「聞いてる」

 長い沈黙。

 そして

「分からない」

 怒りが込み上げた。

「分からない?」

「知ってるんじゃないのか」

「星祈りのことを」

「全部」

 ノクスは静かにルークを見ていた。

 苦しそうに眠る青年を。

「知っている」

 静かな声だった。

「だから分からない」

 レオンは言葉を失った。

 ノクスは続ける。

「助かった者もいる」

「壊れた者もいる」

「死んだ者もいる」

「私は未来を知らない」

 その瞳を。

 レオンは今でも覚えている。

 諦めていたわけじゃない。

 冷たいわけでもない。

 ただ見送りすぎた人の目だった。

 何度も。

 何度も。

 何度も。

 だから希望を口にできない。

 ◇

 その後、ルークは回復した。

 少なくともその時は。

 そして笑った。

 いつものように。

「心配しすぎ」

 レオンは怒った。

 本気で。

「笑い事じゃない」

 だが、ルークは困ったように笑うだけだった。

「妹がいるんだ」

 あの夜も同じことを言った。

「だから」

「もう少し頑張りたい」

 ◇

 レオンは目を閉じる。

 あの日から何度も考えた。

 もっと止められたんじゃないか。

 もっと早く気づけたんじゃないか。

 もっと別の道があったんじゃないか。

 答えは出ない。

 今でも。

 そしてだからこそ、セリアを見ていると怖くなる。

 浄化をしようとする時。

 無理をする時。

 大丈夫と言う時。

 全部同じだから。

 全部。

 あの日のルークと。

 ◇

 レオンは窓の外を見上げる。

 星が綺麗だった。

 昔と変わらず。

「本当に兄妹だ」

 小さく呟く。

「放っておけないところまで似なくていい」

 誰にも聞こえない声。

 その時だった。

 背後に気配がした。

 振り返らなくても分かる。

 ノクスだった。

 二人の間に沈黙が落ちる。

 数年ぶり。

 それなのに、昨日会ったみたいだった。

「会ったな」

 ノクスが言う。

 レオンはため息をついた。

「余計なことをした」

 ノクスは少しだけ目を細める。

「私か」

「お前以外に誰がいる」

 そして、レオンは初めてまっすぐノクスを見る。

「セリアを巻き込むな」

 静かな声だった。

 ノクスはしばらく黙っていた。

 そして夜空を見上げる。

「それは」

 長い沈黙。

「私に言うことではない」

 その言葉にレオンは何も返せなかった。

 なぜならその意味が分かってしまったから。

 セリアはルークと同じで誰かに止められて止まる人間ではない。

 それを誰より知っているのはレオン自身だった。

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