↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星祈りの少女は、傷ついた世界を旅する  作者: 天野みんと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/94

第二十七章 星祈りの真実

 翌朝、古塔には静かな朝が訪れていた。

 窓から差し込む光が石床を照らしている。

 古い建物なのに不思議と寒さは感じない。

 まるで誰かに守られているみたいだった。

 セリアは昨夜の夢を思い出していた。

 アイシア。

 記憶の海。

 そして遠くにあった孤独な光。

 胸の奥に小さな痛みが残っている。

「眠れたか?」

 朝食の皿を並べながらレオンが聞く。

「うん」

 少し迷ってから続ける。

「夢を見たけど」

 レオンの手が止まった。

 本当に一瞬だけ。

「どんな夢だ」

「知らない人に会った」

 セリアは微笑む。

「でも知らないはずなのに懐かしかった」

 レオンは何も言わない。

 ただ少しだけ目を伏せた。

 まるで答えを知っているみたいに。

◇

 朝食の後、一行は再び地下の隠し部屋へ向かっていた。

 ユークは既に興奮状態である。

「昨夜ほとんど眠れませんでした」

「寝なさいよ」

 リリカが呆れる。

「無理です」

 即答だった。

 通常運転である。

 ◇

 部屋へ入ると、壁の古代文字が昨夜よりもはっきり見えていた。

 まるでペンダントの光に反応したみたいに。

 ユークは夢中で解読を始める。

 しばらくしてふと動きが止まった。

「……これは」

 珍しく声が硬い。

「どうした?」

 ガルドが聞く。

 ユークは壁を見つめたまま答えた。

「星祈りは」

 静かな声だった。

「最初から浄化のために生まれた存在ではありません」

 部屋が静まる。

「え?」

 セリアが顔を上げる。

 ユークは文字を指差した。

 そこにはこう刻まれていた。


 星祈りは世界の声を聞く者

 天を知り

 地を知り

 人を知る者


 セリアは息を呑む。

 花守りの祠で聞いた言葉。

 世界と共に在る。

 その意味が少しずつ繋がっていく。

「じゃあ浄化は?」

 リリカが聞く。

「後から生まれた力かもしれません」

 ユークは言う。

「少なくとも古い記録では主な役割として書かれていない」

◇

 セリアは壁へ近づく。

 指先で文字をなぞる。

 その瞬間。

 ペンダントが淡く光った。

 そして。

 もう一つの文章が浮かび上がる。

 今まで見えなかった文字。

 まるで隠されていたみたいに。


 星祈りは繋ぐ者

 失われた想いを

 未来へ繋ぐ者


 胸が熱くなる。

 なぜだろう。

 その言葉を知っている気がした。

 ◇

 その時だった。

 ペンダントが強く光る。

 白銀の輝き。

 部屋全体を照らすほどの光。

 皆が目を細める。

 そして壁の一角がゆっくり開いた。

「まだあるの!?」

 リリカが叫ぶ。

 正直みんな同じ気持ちだった。

 ◇

 現れたのは小さな収納棚だった。

 その中には一冊の手帳。

 そして数枚の紙。

 古びている。

 けれど見覚えのある字だった。

「これは……」

 セリアの指が震える。

 手帳を開く。

 そこには。

 世界の真実でも。

 星祈りの秘密でもなく。


 『セリアへ』

 『薬草を乾燥させる時は窓際に置くな』

 『前に全部だめにした』


 沈黙。

 そして。

「何が書かれてますか」

 ユークが真顔で言った。

「お兄ちゃん……」

 セリアは思わず笑う。

 笑って、それから少し泣いた。

 ページをめくる。


 『レオンは見た目より料理が上手い』

 『それもかなり』

 『本人は認めない』


「おい」

 レオンが低く言う。

 リリカが吹き出した。

 ガルドも肩を震わせている。

 さらに次のページ。


 『セリアは無理をする』

 『だから周りを頼れ』

 『たぶん読んでも聞かないと思うけど』


 セリアは泣き笑いになった。

 本当に。

 本当にルークらしい。

 世界を救う話じゃない。

 ただの日常。

 ただの兄。

 でも、その何気ない言葉の方がずっと会いたかった気がした。

 最後のページだけは。

 少し筆圧が強かった。


 『もしノクスに会ったら』

 『まず話を聞いてくれ』


 セリアの手が止まる。


 『あいつは優しい人だ』

 『たぶんお前には分かる』


 部屋が静まり返る。

 ノクス。

 またその名前。

 そしてルークは最後まで同じだった。

 世界の秘密より。

 誰かの心配をしていた。

 ◇

 その頃、古塔の最上階。

 白銀の青年は静かに空を見上げていた。

 風が長い髪を揺らす。

 金色の瞳がふと閉じられる。

「優しい人、か」

 誰にも聞こえない声。

 少しだけ苦笑する。

 そして遥か下にいる少女を思い浮かべた。

 灰桜色の髪。

 雪の結晶のペンダント。

 あまりにも懐かしい面影。

「……本当に」

 小さく呟く。

「似ているな」

 その言葉が誰に向けられたものだったのか。

 まだ誰も知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。