第二十四章 隠し部屋
地下書庫の最奥。
開いた石壁の向こうには、淡い銀色の光が満ちていた。
誰もすぐには動かなかった。
まるで長い眠りについていた場所へ足を踏み入れるような、不思議な緊張感があったからだ。
「……行くぞ」
最初に動いたのはレオンだった。
低い声に導かれるように、一行は奥へ進む。
部屋は思っていたより広かった。
円形の空間。
高い天井。
壁一面に刻まれた星の紋章。
中央には白銀の石で作られた台座があり、その上に一冊の分厚い本が置かれていた。
不思議なことに、埃一つ積もっていない。
まるで誰かが今まで守っていたみたいだった。
「保存結界……?」
ユークが息を呑む。
興奮を抑えきれない顔だ。
「千年近く維持されてるかもしれません」
「さらっと怖いこと言うな」
リリカが半歩下がる。
ガルドは黙ったまま部屋を見回していた。
そしてセリアだけが。
胸元の熱に意識を奪われていた。
ペンダントが光っている。
今までで一番強く。
鼓動のように。
呼吸のように。
ゆっくりと明滅していた。
まるでここへ帰ってきたと言うみたいに。
セリアは無意識に台座へ近づく。
指先が本へ触れた。
その瞬間だった。
◇
世界が白く染まる。
眩しい光。
星々の海。
無数の光が夜空を流れていく。
そして知らない女性がいた。
長い銀髪。
夜空を映したような瞳。
白い衣。
その胸元にはセリアと同じ雪の結晶のペンダント。
「……誰?」
声は届かない。
けれど女性は微笑んだ。
優しく、どこか懐かしそうに。
そしてそっとペンダントへ触れる。
◇
次の瞬間。
映像は消えた。
「セリア!」
誰かの声で意識が戻る。
気づけばレオンが肩を支えていた。
「大丈夫か」
近い。
思ったより近かった。
セリアは慌てて距離を取る。
「ご、ごめん」
「謝るな」
少し強い声だった。
セリアは目を瞬く。
レオンはすぐに視線を逸らした。
「最近無理しすぎだ」
それだけ言う。
部屋に少しだけ静寂が落ちる。
リリカが気まずそうに咳払いした。
ユークは何か察した顔をしている。
ガルドは黙っていた。
「私は平気だよ」
セリアが言う。
だが、レオンは珍しく引かなかった。
「平気じゃない」
低い声。
「ペンダントが反応する度に顔色が悪くなってる」
セリアは言葉に詰まる。
気づいていたのだろうか。
そんなに。
「……レオン」
「ルークも同じ顔をしてた」
その一言で。
反論が消えた。
レオンは目を伏せる。
まるで昔の記憶を見ているみたいに。
「だから分かる」
静かな声だった。
「無理だけはするな」
セリアは小さく頷くしかなかった。
その時だった。
「これを見てください」
ユークが興奮した声を上げる。
壁の古代文字を解読していたらしい。
本当に興奮している時のユークだ。
一行は壁へ集まる。
そこには古い文字が刻まれていた。
記憶を受け継ぐ者へ
星の記録は失われない
祈りは石に
願いは星に
想いは結晶に宿る
部屋が静まる。
誰もすぐには意味を理解できなかった。
だがセリアだけは違った。
胸元のペンダントが。
再び温かく光ったからだ。
「想いは結晶に宿る……」
ユークが呟く。
「まさか」
そしてゆっくりセリアを見る。
「そのペンダント」
「え?」
「記憶の器なのかもしれません」
セリアの心臓が大きく跳ねた。
記憶の器。
ルークから受け継いだもの。
さらにその前から代々受け継がれてきたもの。
もしそれが本当なら
自分は今まで何を身につけていたのだろう。
そしてなぜルークは最後にこう書いたのだろう。
『ペンダントを守れ』
その意味が少しだけ見え始めていた。
だが、まだ誰も気づいていない。
この部屋のさらに奥にもう一つの扉が存在することに。
そしてその向こうに。
ルークが最後に残したものが眠っていることに。




