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星祈りの少女は、傷ついた世界を旅する  作者: 天野みんと


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第二十三章 星の下の出会い

 地下書庫には静寂が落ちていた。

 誰もすぐには口を開けない。

 ルークの記録。

 ノクスという名前。

 そして、ペンダントを守れ。

 その言葉の重さが部屋に残っていた。

 セリアはゆっくり顔を上げる。

「レオン」

 静かな声だった。

「話して」

 レオンは答えない。

 少しだけ視線を落とす。

 昔を思い出すように。

 長い沈黙のあと。

 ようやく口を開いた。

「七年前だ」

 低い声が地下書庫に響く。

「ルークと俺が最初にこの塔に来たのは」

 セリアは息を呑む。

 兄がいた時間。

 自分の知らない兄の時間。

 それを今から聞くのだと思った。

◇

 当時の古塔は今より少しだけ人がいた。

 学者。

 研究者。

 魔術師。

 世界の記録を探す者たち。

 その中に一人だけ。

 妙な男がいた。

「妙な男?」

 リリカが聞く。

「ああ」

 レオンは頷く。

「若かった」

「若かった?」

「見た目だけなら二十代半ばくらいだった」

 ユークの眉が動く。

「だけなら?」

「目が違った」

 レオンは静かに言う。

「何百年も生きてるみたいな目だった」

 部屋が静まる。

「それがノクスだった」

 その名前が初めて現実味を帯びる。

 セリアの胸元が微かに温かくなる。

 ペンダントだ。

 まるでその名前に反応するみたいに。

「最初は学者だと思った」

 レオンは続ける。

「実際、知識は異常だった」

「異常?」

「世界の歴史も。魔法も。星祈りも」

 そこで言葉が止まる。

「全部知っていた」

 ユークが思わず呟く。

「そんなことが……」

「普通ならありえない」

 レオンは答えた。

「だがあいつは知っていた」

◇

 ルークはすぐに興味を持った。

 元々そういう人間だった。

 知らないことを放っておけない。

 答えを探さずにはいられない。

 だから、毎晩ノクスと話していた。

 星のこと。

 世界のこと。

 魔障のこと。

 そして星祈りのこと。

 レオンの声が少し低くなる。

「ある夜」

 皆が耳を傾ける。

「ノクスは言った」

 古塔の冷たい空気が揺れる。

「星祈りは祝福じゃない、と。

 セリアの手が止まる。

「世界は星祈りを救いだと思っている」

 レオンは昔聞いた言葉を思い出す。

「だが違う」

「……」

「救われているのは人間だけだ、と」

 ユークが顔を上げる。

 リリカも。

 ガルドも。

 誰も何も言えない。

「ノクスは星祈りを憎んでいたの?」

 セリアが聞く。

 レオンは少し考える。

 そして首を振った。

「違う」

「え?」

「憎んではいなかった」

 それだけは確信できる。

「むしろ」

 レオンは静かに言った。

「悲しんでいた」

 その言葉に。

 なぜかセリアの胸が痛んだ。

 憎しみではない。

 怒りでもない。

 悲しみ。

 それは敵に向ける感情ではない気がした。

 ◇

 地下書庫の奥で風が鳴る。

 どこからか入り込んだ冷たい風。

 古い紙がめくれた。

 ぱらり。

 誰も触っていないはずの本が開く。

 セリアの視線がそちらへ向く。

 古びたページ。

 読めない文字。

 けれど中央に描かれていたものだけは分かった。

 雪の結晶のようなペンダントと同じ紋章。

「……!」

 セリアが立ち上がる。

 同時に、ペンダントが眩しく光った。

 世界が白く染まる。

 今までで一番強い光。

◇

 星空。

 古塔の最上階。

 若いルーク。

 そして白銀の髪の青年。

 ノクス。

 彼は夜空を見上げながら言った。

「お前は優しすぎる」

 ルークが笑う。

「褒めてる?」

「違う」

 ノクスは振り返らない。

「それは世界を壊す優しさだ」

◇

 次の瞬間映像は途切れた。

 セリアは荒く息をつく。

 皆がこちらを見ている。

 誰もその映像は見ていない。

 見たのはセリアだけ。

 そして地下書庫のさらに奥、

 今まで気づかなかった壁が音を立てて開いていた。

 隠し部屋だった。

 その先から淡い星明かりが漏れている。

 まるで誰かが待っているみたいに。


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