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星祈りの少女は、傷ついた世界を旅する  作者: 天野みんと


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第二十三章 星の下の出会い

 地下書庫には静寂が落ちていた。

 誰もすぐには口を開けない。

 ルークの記録。

 ノクスという名前。

 そして、ペンダントを守れ。

 その言葉の重さが部屋に残っていた。

 セリアはゆっくり顔を上げる。

「レオン」

 静かな声だった。

「話して」

 レオンは答えない。

 少しだけ視線を落とす。

 昔を思い出すように。

 長い沈黙のあと。

 ようやく口を開いた。

「七年前だ」

 低い声が地下書庫に響く。

「ルークと俺が最初にこの塔に来たのは」

 セリアは息を呑む。

 兄がいた時間。

 自分の知らない兄の時間。

 それを今から聞くのだと思った。

 当時の古塔は今より少しだけ人がいた。

 学者。

 研究者。

 魔術師。

 世界の記録を探す者たち。

 その中に一人だけ。

 妙な男がいた。

「妙な男?」

 リリカが聞く。

「ああ」

 レオンは頷く。

「若かった」

「若かった?」

「見た目だけなら二十代半ばくらいだった」

 ユークの眉が動く。

「だけなら?」

「目が違った」

 レオンは静かに言う。

「何百年も生きてるみたいな目だった」

 部屋が静まる。

「それがノクスだった」

 その名前が初めて現実味を帯びる。

 セリアの胸元が微かに温かくなる。

 ペンダントだ。

 まるでその名前に反応するみたいに。

「最初は学者だと思った」

 レオンは続ける。

「実際、知識は異常だった」

「異常?」

「世界の歴史も。魔法も。星祈りも」

 そこで言葉が止まる。

「全部知っていた」

 ユークが思わず呟く。

「そんなことが……」

「普通ならありえない」

 レオンは答えた。

「だがあいつは知っていた」

 ルークはすぐに興味を持った。

 元々そういう人間だった。

 知らないことを放っておけない。

 答えを探さずにはいられない。

 だから、毎晩ノクスと話していた。

 星のこと。

 世界のこと。

 魔障のこと。

 そして星祈りのこと。

 レオンの声が少し低くなる。

「ある夜」

 皆が耳を傾ける。

「ノクスは言った」

 古塔の冷たい空気が揺れる。

「星祈りは祝福じゃない、と。

 セリアの手が止まる。

「世界は星祈りを救いだと思っている」

 レオンは昔聞いた言葉を思い出す。

「だが違う」

「……」

「救われているのは人間だけだ、と」

 ユークが顔を上げる。

 リリカも。

 ガルドも。

 誰も何も言えない。

「ノクスは星祈りを憎んでいたの?」

 セリアが聞く。

 レオンは少し考える。

 そして首を振った。

「違う」

「え?」

「憎んではいなかった」

 それだけは確信できる。

「むしろ」

 レオンは静かに言った。

「悲しんでいた」

 その言葉に。

 なぜかセリアの胸が痛んだ。

 憎しみではない。

 怒りでもない。

 悲しみ。

 それは敵に向ける感情ではない気がした。

 ◇

 地下書庫の奥で風が鳴る。

 どこからか入り込んだ冷たい風。

 古い紙がめくれた。

 ぱらり。

 誰も触っていないはずの本が開く。

 セリアの視線がそちらへ向く。

 古びたページ。

 読めない文字。

 けれど中央に描かれていたものだけは分かった。

 雪の結晶のようなペンダントと同じ紋章。

「……!」

 セリアが立ち上がる。

 同時に、ペンダントが眩しく光った。

 世界が白く染まる。

 今までで一番強い光。

 星空。

 古塔の最上階。

 若いルーク。

 そして白銀の髪の青年。

 ノクス。

 彼は夜空を見上げながら言った。

「お前は優しすぎる」

 ルークが笑う。

「褒めてる?」

「違う」

 ノクスは振り返らない。

「それは世界を壊す優しさだ」

 次の瞬間映像は途切れた。

 セリアは荒く息をつく。

 皆がこちらを見ている。

 誰もその映像は見ていない。

 見たのはセリアだけ。

 そして地下書庫のさらに奥、

 今まで気づかなかった壁が音を立てて開いていた。

 隠し部屋だった。

 その先から淡い星明かりが漏れている。

 まるで誰かが待っているみたいに。


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