第二十二章 塔の記録
地下へ続く階段は思った以上に長かった。
石造りの壁。
冷たい空気。
足音だけが静かに響く。
「本当に誰もいないね」
リリカが小声で言う。
「百年以上放置されていたそうですから」
ユークは周囲を見回しながら答えた。
その目は完全に研究者だった。
楽しそうである。
少し怖いくらいに。
やがて階段が終わる。
その先に広がっていたのは巨大な地下書庫だった。
「……すごい」
セリアが息を呑む。
本棚。
本棚。
本棚。
どこまでも続いている。
まるで本の森だった。
「天国です」
ユークが真顔で言った。
「怖いこと言わないで」
リリカが引いている。
ガルドも少し距離を取っていた。
ユークだけ幸せそうだった。
その時、ペンダントが光る。
淡い白銀色。
雪の結晶が呼吸するみたいに輝いた。
「また……」
セリアは胸元を押さえる。
光は書庫の奥を指していた。
誰かに呼ばれている。
そんな感覚。
一行は慎重に進んだ。
奥へ。
さらに奥へ。
すると一つだけ崩れていない部屋があった。
扉には古い紋章。
星と雪の結晶。
ペンダントとよく似た模様だった。
「似てる……」
セリアが呟く。
その瞬間、扉がひとりでに開いた。
誰も触れていないのに。
静かに。
まるで待っていたみたいに。
部屋の中には机があった。
本棚があった。
そして一冊のノート。
見覚えのある革表紙。
「お兄ちゃんの……」
セリアが駆け寄る。
震える指で開く。
最初のページ。
そこには
『星見の古塔に到着』
『予想通り記録が残っている』
そして
『彼もここにいた』
セリアの鼓動が跳ねる。
彼。
またその言葉だった。
ページをめくる。
『ノクスは思ったより若かった』
「ノクス……」
初めて兄の記録の中で名前が出た。
セリアは続きを読む。
『彼は星祈りを嫌っている』
嫌っている?
セリアは眉をひそめる。
どうして。
ページをめくる。
『だが同時に』
『誰よりも星祈りを想っている』
部屋が静かになる。
ユークも。
リリカも。
ガルドも。
言葉を失っていた。
そしてレオンだけが目を閉じいた。
知っていた。
その名前を。
その先に何があるのかも。
少しだけ。
「レオン?」
セリアが振り返る。
「何か知ってるの?」
沈黙。
長い沈黙。
そして
「……少しだけな」
低い声だった。
いつもより少しだけ重い。
「ルークと一緒に会った」
部屋が静まる。
セリアの目が大きくなる。
「会ったの?」
「ああ」
「どんな人だったの?」
レオンは答えなかった。
すぐには。
代わりに部屋の奥を見る。
そこには古い星図が飾られていた。
星空を描いた巨大な地図。
そしてその中央に。
雪の結晶と同じ紋章。
ペンダントと同じ形。
その瞬間、白銀の光が弾けた。
◇
「っ……!」
セリアの視界が揺れる。
まただ。
昨夜と同じ。
景色が変わる。
夜空。
無数の星。
そして。
白銀の長髪。
振り返る青年。
金色の瞳。
今度は声が聞こえた。
はっきりと。
「それはお前のものか」
静かな声。
冷たいわけではない。
けれどどこか悲しそうだった。
◇
次の瞬間、視界が戻る。
セリアは息を切らしていた。
皆が心配そうに見ている。
ただ一人レオンだけは違った。
青ざめていた。
まるで今聞いた言葉を知っているみたいに。
そしてノートの最後のページには。
一文だけが残されていた。
『もしセリアがここへ辿り着いたなら』
『ペンダントを守れ』
兄の字だった。
今までで一番強い筆圧で書かれていた。




