第二十一章 星見の古塔
翌朝、セリアは目を覚ますと同時に胸元へ手を当てた。
ペンダントは静かだった。
昨夜の光も。
白銀の青年も。
夢だったみたいに消えている。
でも、あれは夢じゃなかった。
そんな気がしていた。
「どうした?」
朝食を作っていたレオンが聞く。
鍋からは良い匂いがする。
相変わらず手際が良い。
「ううん」
セリアは首を振る。
「何でもない」
本当は話そうか迷った。
でも、まだ上手く説明できる気がしなかった。
◇
昼過ぎ、一行は山道を登っていた。
空が近い。
風が強い。
雲の影が岩肌を流れていく。
そして峠を越えた瞬間だった。
セリアは息を呑む。
遠く。
遥か遠く。
山々の向こう。
一本の塔。
白銀の石で造られた巨大な塔が。
空へ向かって伸びていた。
「……あれが」
星見の古塔。
まるで空へ届こうとしているみたいだった。
誰もすぐには言葉を発しない。
リリカですら。
「すごいな」
ガルドが呟く。
その時だった。
胸元のペンダント。
強く光る。
今までで一番。
「っ……!」
セリアが思わず胸を押さえる。
「セリア?」
レオンが振り返る。
「大丈夫」
そう言った。
でも、レオンの表情は変わらなかった。
大丈夫じゃない。
そう思った。
◇
古塔へ辿り着いたのは夕方だった。
近くで見るとさらに大きい。
石壁には無数の文字。
星の紋様。
古代文字。
そして驚くほど静かだった。
風の音しか聞こえない。
まるで世界から切り離された場所みたいだった。
「人の気配がありませんね」
ユークが言う。
「昔は研究者がいたんでしょ」
リリカが辺りを見回す。
「百年以上前は」
ユークが答えた。
「今はもういません」
皆が塔を見上げる。
その時、レオンだけが動かなかった。
塔の入口。
そこに残された古い傷跡。
剣の跡だった。
誰にも気づかれない。
でもレオンは知っている。
数年前、ルークと二人でここへ来た。
そして初めてノクスという名前を聞いた。
「レオン?」
セリアが呼ぶ。
振り返る。
夕日に照らされた灰桜色の髪。
不安そうな瞳。
「入ろう」
レオンは言った。
それ以上は何も。
◇
塔の内部は薄暗かった。
無数の本棚。
崩れた机。
砕けた天球儀。
時間が止まっている。
そんな場所だった。
「すごい……」
ユークが完全に別人になっている。
目が輝いていた。
「落ち着いて」
リリカが言う。
「無理です」
即答だった。
その時、セリアのペンダントがまた光る。
今度は明確だった。
塔の奥、地下へ続く階段。
そこを示している。
まるで導くように。
「……下?」
セリアが呟く。
誰も答えない。
けれどその場にいた全員が感じていた。
何かがある。
ルークが探したもの。
ノクスが知るもの。
そして、セリアのペンダントが反応するもの。
その全てが。
この塔の奥に眠っている。
◇
その時だった。
階段の先、暗闇の中から誰かの声が聞こえた気がした。
優しく。
懐かしく。
まるでずっと昔から知っている人のような声。
「ようやく来たか」
セリアだけが立ち尽くくす。
今の声を自分だけが聞いたことを知っていた。




