間章 Side ユーク 答えを探す者
本を読むのが好きなのだと思っていた。
昔は。
◇
知らないことを知るのは楽しかった。
新しい知識。
新しい発見。
世界の仕組み。
だから本を読んだ。
誰よりも。
たくさん。
でも今なら分かる。
それは少し違った。
◇
ユークは花灯りの消えた広場を歩く。
フィオラの夜。
静かな風。
花の香り。
仲間たちはもう眠っている頃だろう。
リリカはきっと食べ過ぎている。
ガルドは子供たちに捕まって疲れている。
レオンは見回りだ。
そしてセリアは、
たぶん誰かの心配をしている。
少しだけ笑った。
不思議な人だと思う。
◇
昔、姉がいた。
優しい人だった。
よく笑う人だった。
本を読んでくれた。
一緒に勉強した。
ユークが魔法を好きになったのも、
知識を好きになったのも、
姉の影響だった。
だから助かると思っていた。
病気になっても。
医師がいた。
薬師がいた。
魔法使いがいた。
助かると思っていた。
だが、助からなかった。
理由は簡単だった。
治療法がなかった。
ただそれだけ。
◇
ユークは立ち止まる。
空を見上げる。
星が綺麗だった。
あの日から本を読む理由が変わった。
知らないことが怖くなった。
知識が足りないことが怖くなった。
だから探した。
治療法。
失われた術式。
古代魔法。
何でも。
もしかしたらどこかに答えがあるかもしれないから。
「もっと知っていれば」
昔から変わらない言葉だった。
◇
フィオラの資料館。
月明かりの中。
古文書を読む。
そして思い出す。
昨日の夜、セリアは何も言わなかった。
慰めもしない。
励ましもしない。
ただ隣に座っていた。
不思議な人だ。
普通なら何か言う。
大丈夫だとか、仕方なかったとか。
でも、セリアは言わなかった。
たぶん分かっていたのだ。
答えのない悲しみもあることを。
◇
ユークは机の上の古文書を見る。
そこには星祈りについての古い記録。
だが、彼が見ていたのはそこではない。
一つの文章。
古代文字で書かれた一文。
『知識は傷を消さない』
『だが暗闇を照らす灯にはなる』
ユークは目を閉じる。
姉は戻らない。
それは知っている。
知識があっても。
魔法があっても。
過去は変えられない。
でもだからこそ、これから先の誰かを救えるかもしれない。
そのために探し続ける。
答えを。
そして、ふと視線が止まる。
ルークの調査記録。
最後のページ。
『星見の古塔』
その文字の下に。
小さく。
本当に小さく。
別の筆跡が残されていた。
ルークではない。
誰かの字。
『まだ諦めていないのか』
ユークの目が細くなる。
その文字だけが。
妙に胸騒ぎを呼んだ。




