第十九章 枯れゆく花畑
翌朝、フィオラの空は少し曇っていた。
花畑の色も昨日より少しだけ元気がない。
気のせいかもしれない。
でも、確かに何かが変わっていた。
◇
「広がってる」
リリカがしゃがみ込む。
弱った花。
昨日は一角だけだった。
今日はさらに増えている。
「魔障ではありません」
ユークは断言した。
何度調べても同じ。
嫌な気配がない。
穢れもない。
「じゃあ何なんだ」
ガルドが聞く。
ユークは答えられない。
分からない。
だから調べる。
それがユークだった。
◇
昼頃、一行は町の外れにある古い祠へ向かった。
花守りの精霊を祀る場所。
今はほとんど人が来ない。
苔むした石段。
風化した石碑。
誰かに忘れられた場所。
そんな雰囲気だった。
「寂しい場所だね」
セリアが呟く。
その瞬間だった。
胸元が微かに温かくなる。
ペンダント。
淡く光っている。
「……え?」
セリアは立ち止まる。
皆はまだ気づいていない。
◇
光は祠の奥へ向かっていた。
導くように。
呼ぶように。
セリアは一人で奥へ進む。
崩れた石柱。
古い祭壇。
花びらが風に舞う。
そこで見つけた。
小さな光。
花びらでできたみたいな姿。
蝶のようでもあり。
少女のようでもある。
淡い光の精霊。
消えかけていた。
「あなたが……花守り?」
精霊は答えない。
けれど、悲しそうな瞳だけがこちらを見る。
そして不思議なことが起きた。
ペンダントが強く光る。
頭の中へ。
声が流れ込んできた。
――忘れられた
――誰も来なくなった
――花は好きなのに
――花を守ることを忘れた
セリアは息を呑む。
精霊は怒っていなかった。
寂しかっただけだ。
◇
その夜、一行は広場へ集まった。
話を聞いた町の人々も。
花職人たちも。
アイラも。
そして初めて知る。
花祭りだけは続いていた。
でも、花守りの祠へ行く人はいなくなっていたことを。
「忘れていたんだな」
老人が呟く。
悪意じゃない。
ただ時が流れた。
それだけ。
◇
翌朝、町の人たちは祠を訪れた。
花を供える。
掃除をする。
子供たちが花冠を置く。
小さなことだった。
でも、その日の午後花畑に変化が起きた。
弱っていた花が少しだけ顔を上げた。
風が吹く。
花が揺れる。
そしてセリアだけが見た。
花守りの精霊が少しだけ笑ったことを。
その瞬間、
胸元のペンダントがまた光る。
今度は短く。
本当に一瞬だけ。
まるで精霊と会話しているみたいに。
◇
その夜、ユークが静かに言った。
「星祈りは浄化するだけじゃないのかもしれません」
セリアはペンダントを見つめる。
まだ分からない。
でも、今日確かに分かったことがある。
救うということは。
消すことではない。
思い出すこと。
寄り添うこと。
繋ぐこと。
そんな救い方もあるのだと。
◇
そしてその夜、
資料館で整理された古文書の中から一枚の紙が見つかった。
ルークの筆跡。
そこには次の目的地が記されていた。
『星見の古塔』
そして
『彼に会った』
その一文だけが妙に強い筆圧で書かれていた。




