第十八章 花守りの伝承
フィオラで迎える三日目の朝。
空は快晴だった。
花祭りの熱気も少し落ち着き、町は穏やかな日常を取り戻している。
それなのに
「……あれ?」
セリアは足を止めた。
広場の花壇。
昨日まで咲いていた花が少しだけ元気をなくしている。
◇
「気のせいじゃないのよ」
花屋の老婦人が言った。
「今年は少し変なのよ」
「変?」
「花の元気がなくて」
大きな問題ではない。
今すぐ困るわけでもない。
でもこの町の人たちは花を愛している。
だからこそ小さな違和感に敏感だった。
◇
その日の昼、一行は町の資料館を訪れていた。
原因を調べるためだ。
もちろんユークが真っ先に乗り気になった。
◇
「ありました」
数時間後。
山のような本に埋もれながら。
ユークが一冊の古文書を取り出す。
「フィオラ建国記」
ページをめくる。
古い文字。
擦れた紙。
そして。
そこには一つの伝承が記されていた。
『花守りの精霊』
「精霊?」
リリカが首を傾げる。
「昔から伝わる存在です」
ユークが説明する。
「フィオラの花々を見守る精霊」
「本当にいるの?」
セリアが聞く。
「分かりません」
ユークは正直だった。
「ただ」
ページを指差す。
「花が枯れ始めた時は、精霊が弱っている兆候だと」
その時、資料館の奥から声がした。
「その話なら知ってるよ」
振り返る。
十歳くらいの少女だった。
花冠を被っている。
「おじいちゃんが言ってた」
「何を?」
セリアが聞く。
「昔はね」
少女は窓の外を見る。
「花守り様が見えたんだって」
「でも最近は誰も見てない」
部屋が静かになる。
◇
その日の夕方、一行は町外れの丘へ向かった。
フィオラ全体を見渡せる場所。
花畑が広がっている。
美しい景色。
けれど近づくと分かる。
所々花が弱っている。
セリアはそっと触れた。
花弁。
茎。
葉。
「魔障じゃない」
小さく呟く。
泉の時とは違う。
嫌な気配がない。
悲しみもない。
ただ何かが失われている。
そんな感覚だった。
「セリアさん」
ユークが呼ぶ。
珍しく少し興奮していた。
「見てください」
古文書の写し。
そこに記されていた一文。
『花守りは世界を浄化しない
世界と共に在る』
セリアはその言葉を見つめる。
不思議だった。
なぜか胸の奥に引っかかった。
◇
その夜花灯りの下、
ユークは一人で古文書を読んでいた。
そして誰にも聞こえない声で呟く。
「……世界と共に在る、か」
その言葉は。
彼が探し続けてきた答えに。
少しだけ近い気がした。




