179 シャンタルの狙い
そんなシャンタルに俺は尋ねる。
「一つ確認したいことがあるのですが」
「なんだ?」
「擬体と連絡をつけることが可能なのですか? 魔道具を持っているようには見えませんでしたが」
このシャンタルは地上で擬体と俺が交わした会話を把握していた。
「できるぞ」
「どういう手段で?」
「そりゃあ、擬体とわらわは魂が同一、正確には分霊と呼ばれるものであり、意識も同一なのだ」
「…………正直、理解が及びませんが」
「魔法ではなく、神学、神の奇跡の範疇であるからな。わからなくても恥じることはない」
そういうと、シャンタルは優しい笑みを浮かべた。
それは、俺が新しい魔道具を作ったとき、ごくたまにケイ先生がみせた笑みに似ていた。
「むしろ、わらわには、そなたの作った、その遠距離通話用魔道具の仕組みがわからぬわ。どうやっている? なぜ遠距離で通話が可能なのだ? しかも結界の外と中で連絡を通じさせることができるのだろう? 神の奇跡か?」
「魔法ですが、それこそ秘密です。私の飯の種ですから」
「ふうむ。それもそうか」
シャンタルの機嫌は良いままだ。
ロッテに対する以外、シャンタルは常に機嫌が良い気がする。
「さて、ケイの弟子。これの解除を頼む」
「お断りします。聞かなくてもおわかりでしょう?」
「まあな、だが、断れば上にいる弟子が死ぬことになるぞ?」
「それはないでしょう」
「なぜ、そうおもう?」
シャンタルの眉がピクリと動いた。
「聖女。私は擬体について、理解を深めました」
「ほう?」
「同時に動かせるのは一体まで。違いますか?」
「なぜそう思う?」
「二体動かせるならば、本体と擬体二体で三か所の封印を解けるからです」
本体と擬体の意識が同一ならば、タイミングを合わせるのも容易だろう。
そして意識が同一ならば、本体の技術力と擬体の技術力も当然同じだ。
「…………正解だ」
「もう、擬体は封印を解くための場所に移動済みでしょう?」
「なぜ、そう思う?」
「ケイ先生ならば、その場所の周囲を迷宮にするでしょう? そして封印を施し罠を仕掛けないわけがない」
たどり着くために相当苦労するはずだ。
俺の協力を取り付けてから、向かったとして、たどり着けるとは限らない。
恐らくガラテア帝国の精鋭冒険者パーティと擬体が組んで、そのダンジョンを攻略したはずだ。
「精鋭パーティーは途中で全滅したか……最後に擬体に殺されたか、どちらにしろ無事ではないでしょうけど」
シャンタルが冒険者を無事に帰して機密が漏れる可能性を残すはずがない。
「三回だ」
「何の回数です?」
「擬体ごとパーティーが全滅した回数だ。ケイの奴、本当に面倒なことをする」
だから、シャンタルは擬体を動かせない。
「それに擬体の切り替えにそれなりに時間が掛かるでしょう?」
「なぜ、そう思う?」
シャンタルが「なぜ、そう思う?」と言ったのは、この短期間で三度目だ。
ケイ先生もそうだった。
正解だったとき、それが正解だと伝える前にまず理由を尋ねるのだ。
ケイ先生とシャンタル、共通の癖だ。
もしかしたら、二人を育てた者の口癖だったのかもしれない。
「それが可能ならば、二か所に擬体を置いて、切り替えながら徐々に解除を進めて、最後に一気に解除すれば良いですから」
封印の解除は完全に同時でなくてもいいのだ。十秒程度の猶予がある。
封印解除の最後の一押しだけ揃えれば良いのだ。
もちろん難度は高い。だが、不可能ではない。
俺を説得するよりは簡単だ。
「意識を繋げるのですから、それなりの複雑な術式が必要でしょう? 恐らく数時間はかかるのでしょう?」
「そこまでわかるか。ケイの一番弟子は優秀だな。教えたくないことまで見抜いていく」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
「ちなみに、なぜ数時間かかると思った? 数分かもしれぬだろう?」
「前大王の封印に我々が到着してから、聖女の擬体がやってきたのが数時間後だったからです」
前大王が封じられていた湖底に到着してから、シャンタルの擬体が襲ってくるまで数時間あった。
シャンタルの擬体はあの近くに結界を張って、隠れていたに違いない。
俺たちがやってきたことに気付いてから起動して、数時間後に動けるようになったから襲ってきたのだ。
「ふむ。まあ、正解だ。だが、たまたまだな」
「たまたまとは?」
「お前たちの来訪を察知してから、数時間かけて駆けつけた可能性もあっただろう?」
「そう言う意味ならば、たまたまではありません」
「ほう? 理由を述べろ」
「先ほど遠距離通話用魔道具の仕組みがおわかりではないとおっしゃったではないですか」
音を遠くに届ける魔道具の仕組みがわからないのだ。
ならば、光などの情報を届ける魔道具の仕組みもわからないだろう。
だが、シャンタルは俺たちの来訪を察知した。
「擬体を通じて、情報を得ていたということでは? 私には仕組みはわかりませんけど」
「……ふむ。なるほど。あの質問からも、そこまで情報を得たのか。ううむ。ケイが気に入るはずだな」
楽しそうにシャンタルが笑う。
俺が地下に降りてから、シャンタルはずっと機嫌が良いままだ。
それが、俺にはどうにも不自然に思えた。




