178 地下室
「ロッテ、よくやった!」
「瓦礫だらけで、見つけにくかったです!」
シャンタルが自爆して屋敷が吹き飛び、地下への入り口が瓦礫で埋もれてしまっていたのだ。
「くっさい、シャンタルの残骸のせいで、鼻も効かないし、苦戦したのじゃ」
シャンタルの擬体の残骸が厄介なのは、その臭いだけではない。
擬体は言ってみれば強力な魔道具のようなものだ。
それがばらまかれた結果、周囲からは魔力反応が大量に検出されるようになった。
結果として、魔法による探索も難しくなっていたのだ。
コラリーでもハティでもなく、ロッテが見つけたのはそのせいもあるだろう。
「俺から入る。コラリー警戒を頼む」
「……わかった」
俺は歪んでしまった地下への入り口の扉を破壊して、中へと入る。
はしごがあり、地下深くに繋がっていた。
「底が見えないな」
山一つ分ぐらいの深さはありそうだ。
「ハティも一緒に行くのじゃ。滑ったとき、ハティがささえるのじゃ」
「俺よりも、ロッテとコラリーを頼む」
俺ならば、重力魔法を駆使して、落下速度を緩めることができる。
「わかったのじゃ!」
「コラリー、俺が入ったら、結界発生装置で身を守りなさい」
俺が入ったあと、ロッテたちがシャンタルに襲われると厄介だ。
「……わかった」
「底について、安全を確保したら遠距離通話用魔道具で連絡しよう」
「……うん」
「ロッテ、非常時の判断は任せる」
「わかりました」
「ハティ、ロッテとコラリーを頼む」
「任せるのじゃ」
そして、俺は地下に向かってはしごを下りていく。
真っ暗なので、魔法で灯をともしながら、警戒しつつ急いで降りる。
大体、俺の身長の四十倍ほど降りただろうか。
底に付くと、穴は横に続いていた。人一人がやっと通れる程度の穴だ。
横穴を進む。一本道だが曲がりくねっている。
横方向に曲がっているだけでなく、上がったり下がったりを繰り返す。
(大まかに言うと上がっているが……現在地がわからなくなるような魔法を掛けているな)
魔法のせいで、正確な高さを含めた位置がわかりにくい。
その通路をしばらく進むと扉があった。
扉を開くと俺の研究室ぐらいの広さの部屋になっている。
研究するには充分広いが、戦闘するにはかなり狭い。
天井も俺の研究室と同じぐらいしかない。
その部屋の中央に、透明の繭があり、その中に胎児のようにひざを抱えた全裸のケイ先生が浮かんでいる。
そしてその繭の横にシャンタルが座っていた。
「遅かったではないか」
「あなたは聖女ご自身ですか?」
「どうだろうな?」
シャンタルは笑顔だ。全裸ではない。
白い大きな一枚布を体に巻き付けた古風な装いをしていた。
「思ったより時間が掛かったな?」
「瓦礫と擬体の臭いと魔力のせいで戸惑いました」
「なるほど、擬体の自爆には臭いと魔力をまき散らす効果もあったのだな。参考になるぞ」
俺は話しながら、まっすぐに繭に向かって歩いて行く。
「どうだ? ケイの弟子。上でお前が問うたわらわの目的はわかったのではないか?」
「そうですね」
「答えたくなかったのでも、ごまかそうとしたわけでもない。これを見ればわかることを説明するのが面倒だったのだ」
透明な繭は強力な封印だ。当然解除するのも難しい。
俺は封印の構造と、外に繋がる魔術回路を観察する。
「もう一か所、いや二か所ですね」
「さすが、ケイの一番弟子。一目で見抜くか?」
シャンタルは本当に嬉しそうだ。
「ここを含めて、三か所でほとんど同時に封印の解除を実行する必要があると」
「そうだ、まさにそのとおりなのだ」
「しかも、一定以上タイミングがずれれば、恐らく十秒程度解除のタイミングがずれれば、ケイ先生をたちまち殺す術式まで仕込まれてますね」
つまりシャンタルには同時に三か所の封印を解くことはできないのだろう。
だから、俺に一か所の解除を担わせるために、ここに呼び出したのだ。
「その二か所はかなり遠いということですね」
「そうだ。ケイは本当に厄介なことを考えるものだ。性格が悪いのだろうな。我が姉ながら、恥ずかしいことだ」
シャンタルは楽しそうにケイ先生の悪口を言う。
「聖女。これはあなたがコラリーやユルングに仕掛けた魔道具と同じ発想ですよ」
「ん?」
「ケイ先生はそれを参考にしたのでは?」
コラリーに取り付けられていた魔道具には外したら、針が出てコラリーを殺す仕掛けがあった。
ユルングに取り付けられていた魔道具も同時に解除しなければ、ユルングを殺す仕掛けが発動するようになっていた。
「ああ、あれか~。あれはわらわが仕掛けたものではないが、設計自体はわらわの手によるものだな」
そういうと、シャンタルは透明な繭を優しく撫でる。
「わらわの魔道具を参考にしたのか? それとも、独力でわらわと同じ発想に到ったのか?」
「聖女、嬉しそうですね」
「うむ。喧嘩別れをしたとはいえ、たった二人の姉妹なのだ。つながりを感じたら嬉しくもなる」
シャンタルのその言葉が嘘だとは俺には思えなかった。
シャンタルは、シャンタルなりにケイ先生のことを思っているのだろう。




