177 新型擬体
シャンタルの機嫌がいい間に、色々聞いておくべきだ。
「それで、何が目的ですか?」
「いやなに。久しぶりに姉に会おうとしていただけだよ」
「嘘ですね」
「心外だなぁ」
「それが本当ならば、私たちをここにおびきよせる理由がありません」
そういうと、シャンタルはきょとんとする。
「む? おびきよせる? 何の話だ? というか、ヴェルナーはどうしてここに来た? 姉に呼ばれでもしたのか?」
「白々しいですよ。父の寝室に忍び込んだのも、聖女でしょう?」
シャンタルはこの屋敷にいた辺境伯家の者たちを殺した。
しかも、わざわざ男を用意して執事の振りをしたのだ。
シャンタルが、ケイ先生の封印を解くのに、わざわざ執事の振りをする意味がない。
父や兄、辺境伯家の家臣たちはお互いのことを知っている。
辺境伯家の者たちを騙そうしていたならば、偽の執事に化けても効果が無い。
効果があるとすれば、長年辺境伯家に近づいていなかった俺に対してぐらいだろう。
もしシャンタルが若者を選んでいたら、もしロッテに対して執事としてふさわしい振る舞いをしていたらどうだろうか。
きっと執事がシャンタルの擬体だと、俺は気付かなかったに違いない。
「偽執事の作戦は、俺ぐらいにしか効果がありませんし。つまり俺をここに呼ぶこと自体、聖女の作戦の内でしょう?」
「……ばれたか」
「それで、俺たちを呼び寄せて、何がしたかったのですか?」
「そんなことは決まっておろう。大切な姉の愛弟子に会いたかったのだ」
どうやら、シャンタルはまともに答えるつもりはないらしい。
つまり、作戦は、成功も失敗もしていない。続行中なのだ。
「そうですか、教えてはいただけませんか」
「わらわは正直に話しているというに。信じてくれぬとは悲しいのう。よよよ」
わざとらしい泣き真似をするシャンタルを無視して頭を動かす。
俺を、この場に呼び出す理由は何だろうか。
「……もしかして、ケイ先生の封印を破らせるためですか?」
「むむ?」
「ケイ先生の弟子である俺ならば、最新の封印を破けると?」
いや俺よりも勇者であるロッテをここに連れてきたかったのかもしれない。
ケイ先生の封印を俺は破れないかもしれない。
だが、勇者の力をもってすれば、破くことは可能だろう。
そう考えたが、シャンタルを激昂させないためにロッテの名前を口にはしない。
「おお!」
シャンタルは目を見開いて驚いた様子を見せた。
当たっているのか外れているのか、表情から読み取れない。
「そうかもしれぬし、そうではないかもしれぬ。だが、それは良い考えだな」
「なんのことですか?」
「ヴェルナー。姉上の封印を破ってみぬか?」
「破るわけないでしょう」
「姉の封印と、弟子の命、どちらが大切なのだ?」
そう言ってシャンタルはにやりと笑う。
ロッテとコラリーを殺されたくなければ、封印を破れと脅しているのだ。
「弟子の命は大切ですが、ケイ先生の封印を破りもしませんよ」
「そうか。気が変わったらいつでも言うがよい」
次の瞬間、笑顔のまま、シャンタルが爆発した。
俺は慌てて障壁を展開し、爆風から俺自身と弟子たちとハティを守った。
シャンタルの爆発は強烈で、俺の展開した障壁がギシギシと音を立てて歪む。
そして、屋敷は吹き飛んだ。
「ば、爆発? なぜ?」
「……自爆した?」
「ロッテ、コラリー、二人とも油断するな」
俺は爆風が収まった後、障壁を解いて周囲を観察する。
爆発したシャンタルの擬体は、ほとんど跡形が残っていない。
周囲に指先など、一部の残骸を認めるが、それだけだ。
「屋敷が吹き飛んだおかげで、臭いが大分ましになったのじゃ。でも臭いのじゃ」
「ハティ、周囲に誰かいないか?」
「わからないのじゃ。ましになったとはいえ、腐臭ただようシャンタルの擬体がばらまかれたのじゃから」
「そりゃ、わからないな」
「うむ、でも臭いが籠もらない分ましなのじゃ。風も強いのも幸いなのじゃ」
周囲に散らばるシャンタルの擬体の残骸の臭いが強すぎるから、ハティといえど周囲の臭いを判別することが難しいのだろう。
それに、今は強烈な吹雪。籠もっていた臭いも吹き飛ばされていく。
「それにしても、寒いな」
預けた外套と手袋、帽子は、屋敷とともに全て吹き飛んでしまった。
靴を預けていなかったことが、不幸中の幸いだ。
「ロッテ、コラリー。寒くないか?」
「はい! 大丈夫です」
「……余裕」
「空気を固定する魔法を使えば防寒になるが……気配を察知しにくくなるからな」
シャンタルは自爆したが、あれで終わりのわけがない。
別の擬体か、もしくは本体が、近くでこちらを伺っているに違いない。
このまま放置されれば、寒さで体力を奪われてしまう。
だから、俺は周囲を警戒しながら、ケイ先生が封印されている地下への入り口を探す。
もし、入り口を見つければ、シャンタルも俺たちを放置できまい。
「地下への入り口を探してくれ」
「はい!」
「……まかせて」
「鼻がきかないけど、ハティは魔法も得意なのじゃ!」
みなに探索をまかせて、俺は警戒を続けた。
俺まで探索に集中すれば、大きな隙になる。
その隙をシャンタルが見逃してくれるとは思えなかった。
五分後、防寒のために一時的に結界を張るべきか悩みはじめたとき、
「お師さま、ありました!」
ロッテが、地下への入り口を見つけてくれた。




