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176 執事の正体

「くふふふ……」

 執事は笑い声を抑えようとして、抑えられていない。


「何がおかしいのですか?」

「ふふふ……ははははぁッハハハハハハハ!」


 大声で笑う。

 徐々に、笑い声が高くなっていく。


「よく気付いたヴェルナー」


 そう言ったときの執事の声は、ケイ先生、いやシャンタルと同じだった。


「シャンタルだったのかや! 臭っ! あ、だから主さまは急に敬語になったのじゃな?」


 ハティは俺のお腹から鼻を離して、執事をみて、慌てた様子で再び鼻を俺に押しつける。

 シャンタルは気分の上下が激しい。

 情報を得るためにも、丁寧に扱った方がいいのだ。


「血の臭いは、シャンタルがここで人を殺した血の臭いだったに違いないのじゃ」

「ほう! わかるのか? 臭いは消したつもりだったのだがなぁ」

「隠し切れてないのじゃ、くっさ! シャンタル自身も臭すぎるのじゃ!」

「臭いとは心外だ。香水をつけているというに」


 シャンタルは臭いと言われても怒る様子はない。

 楽しそうに俺にしがみつくハティを見つめている。


「余計臭いのじゃ!」

「所詮はトカゲ、人の風雅は理解せぬか」

「なんじゃと!」

「ハティ抑えて」


 俺は怒るハティの背中を優しく撫でる。


「聖女。そんな擬体もつくれたのですか?」


 今目の前にいるのは、シャンタル本人を擬した体ではない。

 だから擬体と呼んで良いのかもわからない。


「擬体と言う言葉も知っているのか。ケイから聞いたな」

「…………」


 シャンタルが俺の質問に答えていないので、俺も答えない。

 無言で執事の姿をしたシャンタルを見つめる。


「答えろよ。私は無視されるのが嫌いなんだ……、まあいい。体があれば可能だよ」


 あまり怒らせるのは得策ではない。

 機嫌良くさせて、色々しゃべらせるべきだ。

 だから俺はシャンタルに言葉を返す。


「死体を利用されたのですか?」

「そうだ。というより、擬体にする過程で死ぬといったほうが正確だが」

「だからなのじゃな! 臭いと思ったのじゃ」


 ハティが俺のお腹に鼻を押しつけたまま言う。


「シャンタルからは腐敗臭がするのじゃ」

「む? 本当に鼻が良いな。腐敗臭は完全に隠せたと思ったのだが」

「隠れてないのじゃ!」

「ヴェルナー。どうだ? わらわから腐敗臭が漂っておるか?」

「私は感じませんが、古竜は鼻が良いので」

「そうか。犬の鼻はごまかせたのだが、トカゲの鼻はごまかせぬか」


 シャンタルは笑顔で、自分の腕の臭いをクンクンと嗅ぎながら、ハティを挑発する。

 挑発してどうこうしたいと言うより、ハティをからかいたいだけかもしれない。


「いい加減にするのじゃ!」

「落ち着け、ハティ」


 俺がハティを撫でるのを見て、シャンタルは笑顔になると楽しそうに言う。


「腐敗の進行をいかに遅らせるかが、目下の課題でな」

「前回、お会いしたとき、古竜たちは腐敗臭を感じていなかったみたいですが」

「あれはちがう。わらわを擬して新たに器を作ったのだ。この体は言ってみれば殺して乗っ取ったものゆえな」

「その技術は、ケイ先生と袂を分かった後、研究した技術ですね」

「まあ、そうだ」

「恐ろしいことをするものじゃ! 一体誰を殺したのじゃ!」

「帝国のどこかの街にいた男だよ。名前も経歴もわらわはしらぬ」


 どうでも良いことのようにそう言って、シャンタルはあごひげを撫でる。

 本来、自分には生えていないあごひげを撫でるのが楽しいらしい。

 恐らくガラテア帝国に、犠牲となる男を用意させたのだろう。


「それで、どうして気付いた? そこなトカゲが臭いで気付いたのならまだしも、ヴェルナーは臭いには気付かなかったのだろう?」

「また、またなのじゃ! 我をトカゲ呼ばわりするなど!?」

「ハティ落ち着け、挑発だ。わかっているだろう。聖女も私の従者をからかうのはおやめください」


 俺はハティを抱きしめ抑える。


「ふふ」


 そんな俺たちを見て、シャンタルは少しだが声を出して笑った。

 笑っているときの表情はまるでケイ先生のようだった。


「そうですね。最初から違和感がありました」

「違和感?」

「人ではないような、アンデッドのような。そんな気配です」

「なるほどのう。今後の参考にさせて貰おう」

「それに、このような山奥に配属される執事にしては、年を取りすぎです」

「ああ、城塞都市に転属願いを出せば良いと言っておったな」

「はい。通常、辺境伯家ではベテランはこのような場所に配属されませんから」

「特別な場所だから、ベテランを配属したのだとは思わなかったか?」

「その場合、父が信用している執事になります。さすがにそのような執事ならば私も面識があります」


 父が信用しているベテランは、俺が生まれる前から辺境伯家仕えている者たちばかりだ。

 いくら数年戻っていなかったとしても、俺が知らないわけがない。

 もし、最近雇われて、急速に信頼を得た執事にこの屋敷を任せているならば、俺に一言あるだろう。


「王女殿下に対する礼も執事とは思えないほどあっさりしたものでしたし」

「……はて?」


 黙ったままシャンタルは俺を見て、首をかしげた。

 たしかに俺はロッテのことを弟子と紹介した。

 しかし辺境伯家の執事ならば、俺の弟子が王女殿下だと知っているはずである。

 弟子と紹介されようと、それなりの振る舞いをするものだ。


「それはお師さまが、私を弟子と紹介したからで――」

「お前はっ! 口をっ! 開くなっ! 汚らわしい! 耳が腐るっ!」


 シャンタルは顔を赤くし、絶叫すると、冷たい目で睨み付け、「ふぅー」と大きく息を吐いた。


「…………」


 怒鳴られてロッテは口を閉じる。

 だが、その視線は怯えることなく、まっすぐシャンタルを見つめていた。


 しばらく、シャンタルは深呼吸を繰り返す。

 赤い顔が戻っていき、呼吸も穏やかになっていく。


「そうか。むう。辺境伯家の様子をしばらく観察はしたのだがなぁ」


 そう言ったときにはシャンタルは、笑顔だった。


「あっさりばれてしまったとは。残念だ」


 全く残念に思っていなさそうな顔で、上機嫌にシャンタルは言った。

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