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174 兄の想い

 前大王、つまり大王とユルングの母である。


「母は人族が好きだったが、ヤルクの魔導師は古竜のヒナを騙し捕らえて、使役し殺したのだ」

「そんな……」

「ハティがされかけたことだ」


 そういって、大王はハティの頭を撫でる。

 ハティが俺とロッテに出会ったとき、騙されて酒で酔わされ魔道具で操られてしまっていた。


「恐ろしいのじゃ……」

「うむ。そして、大王である母はヤルクを滅ぼした。だが、攻撃に力を入れすぎてな……」


 ヤルクは一夜で滅び、原因を考察する者も、襲撃の様子を伝える者も生き残ることがなかった。


「それから、古竜は反省したのだ。滅ぼせばよいというものではないと」


 そういって、大王は遠い目をした。



 前大王は人族が好きだったと聞いている。

 人族を守るために大魔王に戦いを挑み、呪われるほどには人族が好きだったのだ。

 それでも、大王として、国を滅ぼさなければならなかった。


「ハティにひどい目をあわせようとしたのもガラテア帝国だった」

「そういえばそうだったのじゃ!」

「そして、ユルングにひどい目にあわせたのもガラテア帝国。報復しないわけにはいかぬであろう?」


 大王はそういうと、父と兄をみて微笑んだ。


「民を守るのは、大王である朕の義務ゆえな。……ラインフェルデンとは仲良くしたいものだ」


 大王は、必要ないのに兄に帝国に報復することを断った。

 それはラインフェルデンの大貴族である父に古竜の掟を説明するためだったのかもしれない。


 帝国の国力が落ちれば、ラインフェルデン皇国が大陸唯一の超大国となるだろう。

 人族に敵がいなくなった、大国は無謀なことをはじめることがある。

 たとえば、古竜の王宮に侵攻したりするかもしれない。


 そして、唯一の大国が暴走しても、止められる者はいない。

 実験と称し、古竜のヒナを虐待しようとするかもしれない。

 だからこそ、大王は古竜の力を皇国に知っていて欲しいのだろう。


「古竜は、人族のことが嫌いではない。だが、降りかかる火の粉は払わねばならぬし、手を出せば恐ろしいと教えなければならないのだ」

「重々承知しておりますとも。末永く仲良くしていただけたら嬉しく思います」


 父がそういうと、

「皇太子は、ハティにはとても優しいのじゃ! 仲良しなのじゃ!」

 ハティがそういって尻尾を揺らした。



 その後、俺たちが、ケイ先生が封じられている屋敷に向かおうとしていると、大王が言う。

「朕はこちらに残ろうと思うのだが」

「父ちゃん、どうしてなのじゃ?」

「大王としての仕事をするためだ」


 ここに居た方が、敵の動きは把握しやすいだろう。


「お任せします」


 俺がそういうと、大王は父に向かって言う。


「閣下、かまわないだろうか?」

「もちろん構いません」

「ありがたい。……ハティ、遠距離通話用魔道具はもっておるな?」

「もちろんなのじゃ!」

「連絡はそれを使おう。まあ、飛べばすぐだが」

「わかったのじゃ!」


 大王と通じる遠距離通話用魔道具をハティは持っているのだ。


 城の入り口で集合することにして、俺とロッテ、コラリーとハティはそれぞれ別室で準備をする。

 防寒具の準備は、下着にも及ぶ。男女同室で準備をするのはふさわしくないと思われたからだ。


 俺の準備はすぐ終わる。予め所持していた防寒具を身につけるだけだからだ。

 準備を終えると城の入り口へと歩いて行く。

 俺を入り口まで案内してくれている兄が小さな声で言った。


「ヴェルナー」

「なに?」

「…………お前はシュトライトだった」

「そうだけど」


 急に何を言っているのかと思って兄の顔を見る。


「そうではない。……お前はきちんとシュトライトの一員として、貴族の一人として義務を果たしているようだな」

「いや、そんなこともないけども」


 俺としては義務を果たしているつもりはない。


「……俺のように軍に入らずとも、姉上のように政治にかかわらずとも、お前はきちんと義務を果たしている」

「そうかな」

「ああ。……すまなかったな」

「謝られる理由がわからないのだけども」


 少し戸惑った俺に兄は微笑んだ。


「お前を侮っていた。貴族の義務を果たさず、研究にうつつを抜かし、魔道具作りにかまけていると思っていた」

「それは否定できないのだが」


 実際研究と魔道具作りばかりしている自覚はある。


「お前がこの城に来たとき、貴族の義務を果たすために防衛に手を貸してくれるのだと期待した」

「それは、まあ、すまないと思っているよ」

「いや、謝るのはこちらだ。そうではないと知って、がっかりした」


 それは俺もわかっていた。


「偉そうに説教までしてしまった」


 その説教は、大賢者の弟子であるまえに、辺境伯家の一員であり、皇国の貴族であるという自覚を持てという意味だったと思う。


「貴族である前に人族だと、お前が言った理由もわかった」

「うん」

「ヴェルナーは、俺にも姉上にも、それに父上にもできない形で義務を果たしているのだな」

「そうかな? そうだといいのだけど」

「ああ、もう俺はお前に、軍属になれとは言わない」


 そういうと、兄は、十年ぶりに俺の頭をわしわしと撫でた。

 子供の頃を思い出す。

 俺と兄は三歳しか違わない。だが幼少時の三歳の差はとても大きかった。


「ヴェルナーはヴェルナーしかできないことをすればいい」

「うん」

「俺は俺で、俺にできることをするよ」


 そういって兄は微笑んだ。

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