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173 古竜の掟

 俺は念のために父と兄に向かって言う。


「父上、兄上、もしケイ先生の姿をした者が現われ、何を言おうと信用せずに私に連絡してください」

「わかった」

「うむ。それにしても姿が同じとは。厄介なことだ」


 兄はそういって、ため息をついた。


 状況の説明を終えると、俺は父から注意事項などを聞く。


「大賢者殿の封印は、狩猟小屋の地下にある」

「ほうほう」

「兵にはヴェルナーの指示に従うようにと命令を出しておく」

「ありがとうございます」


 そんな会話をしている間、大王は兄に話しかけていた。


「グスタフ卿。実は頼みがあるのだが」

「頼みとは、なんでしょう? 陛下、どうぞおっしゃってください」

「朕には、ユルングという名の年の離れた妹がおってな」

「おお、それは可愛いでしょうね」


 そういって兄は笑顔を浮かべる。

 俺の年の離れた妹ルトリシアは、当然兄にとっても妹なのだ。


「それがな。その朕の可愛い妹をガラテア帝国が……」


 大王がユルングが受けた非道を説明する。


「そんな赤子を捕らえて、魔道具のコアにするなど……、人のすることではありません」

「うむ。しかも、その魔道具の中に居る間、絶え間ない苦痛が与えられる仕組みになっていてな」

「……恐ろしいことを」

「そのうえ、魔道具から救い出そうとすれば、確実に殺す仕組みまで魔道具には備わっていたのだ」

「……なんと」

「ヴェルナー卿がいなければ妹は死んでいただろう。ラインフェルデンの王都の民と一緒にな」


 それを聞いた兄は俺を見た。


「ヴェルナー、よくやった」

「いえ、人として当然のことをしたまでです」


 そういうと、兄は満足げに頷いた。


「それでグスタフ卿。ここからが本題なのだが」

「はい」

「古竜としては、報復せねばならぬ。それが未来の同胞を、そして将来生まれてくるヒナを守ることに繋がるゆえな」


 触らぬ古竜に災いなし。

 古竜に手を出すは亡国の始まり。

 そのような人族に伝わる格言は真実であり、古竜には絶対に手を出してはいけない。

 そう人に思いしらせる必要がある。

 そのように、大王は考えているのだろう。


「……報復、ですか? それは人族に?」

「ガラテア帝国に、である」

「そう、……ですか」

「もちろん、朕がガラテア帝国の王都を吹き飛ばすことはたやすい」

「はい」

「だが、それをすると、ユルングのことなど何もしらない民に被害が出るであろう? 民の中にはユルングと同じぐらい小さな赤子もいるであろうし」


 大王は、前大王やハティと同じく、人族のことが嫌いではないのだ。


「だから、軍人を吹き飛ばしたい。彼らは武器を持っている戦士ゆえな」

「なるほど、つまり」

「グスタフ卿の推察の通りだ。こちらに向かっている敵兵を吹き飛ばして良いか?」

「なぜ、私に許可をお求めになるのです?」


 少し困惑した様子で兄は言った。


「誤解はしないで欲しい。グスタフ卿に許可を求めているわけではない。古竜の掟に従い、古竜の大王である朕が、朕の手で命を奪うものだ」


 責任をなすりつけようとしているのではないと、断言する。


「かなり広い範囲を拭き飛ばすことになる。つまり、断らずに実行すれば、グスタフ卿の手のものを吹き飛ばすことになる。斥候とかおるのだろう?」

「配慮感謝いたします」

「何日あればよいか?」

「何日もかかりません。数時間あれば、充分に我が手のものを退かせることはできるでしょう」

「すまないな。本来であれば、人族の争いに手を出さない方が良いのだが」


 大王と兄の打ち合わせがおわったころには、俺と父との話も終わる。


「大王、やはり報復されるのですか?」

「気は進まぬが、古竜の君主、その数少ない義務ゆえな」

「……ちなみに今回の侵攻がなければどうなさったのですか?」

「うむ。犠牲は増えるが、王宮を吹き飛ばすか、城をいくつか吹き飛ばすか、であろうな」


 そして大王は笑みを浮かべた。

 そんな大王に向かってハティが言う。


「ガラテア帝国の王宮を吹き飛ばしたほうが、死ぬ人族は少なくなるのじゃ」

「そうかもしれぬ。だが、それでは人族が教訓をえられるかわからぬだろう?」

「どういうことじゃ?」

「突然王宮が吹き飛べば、統治者がいなくなる。被害を分析し、原因を考え教訓にする者がいなくなってしまう」

「ふむ?」

「その点、軍隊を吹き飛ばせば、その報告は確実に、国を治める王宮に届く。原因を考えてくれるだろう」

「ちゃんと正解にたどり着くかや?」

「念のために王宮に行って、塔の一つでも吹き飛ばし、大声で脅してもよい」

「そうなのじゃな。脅すのにも色々あるのじゃなぁ」


 ハティは感心して尻尾を揺らす。


「人族のみんなは、ヤルクという国を知っているか?」

「あ、ヤルクは聞いたことがあります。高度な魔法文明を持っていたのに、火山の噴火で一晩で滅んだとか」


 さすがロッテは王族だけあって、歴史にも詳しい。


「うむ。そう伝わっているだろう。だがあれをやったのは前大王なのだ」


 大王は少し寂しそうにそう言った。

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― 新着の感想 ―
ちゃんと相手に伝わらなければただの自然災害扱いで 手を出す莫迦に躊躇させる判断材料にならないっと
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