腐った命名会議
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夕方になって見舞客が増え、俄然賑やかになって来た玲一の病室。
一方の高槻邸でも、本来の静寂とは掛け離れ、賑やかな声に包まれている。
オカルト研究会の部長、氷見ひまり以下、副部長の丞定菊、生き神の真琴や、貧乏神の富美。
ロロットや加納が集い、妖魔・山犬の報復を防ぐ目的で、玲一が不在の間、泊まり込みでこよみを守る為に、集っていたのだ。
ただ、この場にクラリッタはいない。クラリッタは、こよみ護衛作戦には、訳あって参加していない。
それはもちろん、昼間玲一からのネタメールで、「鼻水クラリッタ」と呼ばれた事をきっかけに、鬱モードに入り、自室に引きこもってしまったからではない。
また、恥ずかしい瞬間を仲間達に見られてしまい、自分の女子力に完全に自信を失い、玲一に責任を取ってもらうべく、花嫁修行を始めた訳でも無い。
クラリッタは今、氷見ひまり経由、八百万組合の依頼を受けて、ドレッドノーツと行動を共に、作戦行動に入っている。
結構生々しい作戦なので、この場で知っているのは部長のひまりと真琴、そして加納の三人だけ。他のメンバーやこよみには内緒の話。
つまり、結局は、「あれ?クラリッタは今日こないの?」と言う質問に対して、「彼女は昼休みの鼻水ドゥーン!が、あまりにもショックで、自宅で寝込んでる」と、
「だから、我々は祈ろう!我々の脳裏から離れない、あの鼻水ドゥーンが、早く忘れられ、クラリッタの黒歴史が一刻も早く過去のものとなる様に!」と、
自信を持って、胸を張って、堂々と答えるしか無いのが、ひまりの立場であったのだ。
普段なら、いるはずの人物がいない、不思議な空間となっている高槻邸。
しかし、兄不在の妹を元気付けるかの様に、彼等は殊更賑やかに、声を張り上げて騒いでいた。
紫乃特製の、スパイシー・カレーに舌鼓を打ちつつ、メンバーたちの雑談はついに、ひとつのテーマについて、激論を交わす様になる。
そのテーマは何と、麒麟の子供の名前。
みどりの広場で山犬を迎撃した際、【吉兆】を持って仲間達に勝利をもたらした、「ぶもも」と叫ぶ、イノシシの子供に似たまん丸の霊獣。
居間の中を走り回り、テーブルの上に飛び乗りながら、どこにもいない、ご主人様とおぼしき玲一の名を「ぶもも!」「ぶもももっ!!」とけなげに叫ぶ、
麒麟の子供の名前を考えてあげようと、メンバー揃って頭を悩ませ始めたのである。
「バッド・ニュース・アレンか、ダスティー・ローゼス」
「…ジャガー……」
「あはは!部長は知ってるプロレスラーの名前、まんますか。で、副部長それは豹の事でしょ」
「笑ってるんじゃない、加納。じゃあ、君ならば何が良いと言うのか!?」
「いや、俺は参加しませんよ。命名センス無いの自覚してますから」
「ショコラなんてどうですか?」
「ロロのそれ、可愛いと思うけど、名前と実物の差が……」
「ええ~、じゃあ、富美ちゃんなら何にするの?」
「むむむ、ならば……ぶもも君とか?」
「鳴き声そのままなのだ、貧乏神も変わらずセンス無いのだ」
「えっ!えっ!真琴さんひどいい」
もちろん、今この場にいる者は、、麒麟の子供に名前を付けようとは、微塵も思っていない。
何故ならば、名前を付けるとするならば、玲一の意見が一番重要であり、皆が皆、玲一に命名して貰おうと思っているからだ。
【仁ある王が誕生した際、それを祝う様に霊獣現れ、霊獣、仁王に付き従う。此れ即ち麒麟と呼ぶ也】
即ち、このうり坊に似た、麒麟の子供の主人は、玲一である事を皆が認めていると言う事。
ならば何故、玲一不在の今、この場所で行われているかと言えば、単なる暇つぶし。
そして、兄不在で気持ちが沈みがちになりそうな妹を、元気付けようとして、ただはしゃぐだけの、それだけの事なのである。
「ドリー・ファンク・ジュニア」
「ぷっ!何すかそれ、誰もいないのに、ジュニアついちゃってるし」
「…ジャガー……」
「ちょっ、副部長」
「マカロンなんてのは?」
「ロロって、乙女チックよねえ。プー太郎は?」
「貧乏神め、そんなのネットに書き込んだら、炎上するのだ。ここはひとつ!危機麒麟なんてのは、良いネーミングだと思うのだ」
「ま、真琴さん。いろいろヤバいでしょ、それ」
「何か今日の加納、すごく生意気なのだ」
「いえいえ、参加しない分、評価させてもらってるだけですし」
「あっ、こよみ良いの思いついた!ミッキー…!」
ガバッとひまりがこよみの口を塞ぎ、冷や汗を滝の様に流しながら、発言を制する。
「こ、こよみちゃん!そっち側はライセンス的に恐ろしいから、言わさない。絶対言わさないぞ!」
「もがもが!」
混迷深まる命名会議
迷走も良いところなのだが、それぞれがそれぞれに笑顔を絶やしていないところを見れば、
こよみを中心としたこの空気、この雰囲気。まんざらでもない事が見てとれる。
それに、昨夜、謎の「三つ目の女」に襲撃された加納も、今は笑顔で議論に参加している。
あの場ではみぞおちを殴られ、気絶してしまったのだが、とある人物の救護・介護で快方に至った。
幸い、肋骨の骨折などは無く、打撲程度で済んだのは、日頃の鍛錬の結果だと言えよう。
ただ、この事を知っているのは、ひまりと真琴だけ。
クラリッタの作戦とリンクしている為、昨夜加納の身に何が起こったのかは、今の時点では、トップシークレットであった。
「ユニコーンにしよう!」
「ロロット、だからそもそもあれは麒麟だって」
オカルト研究会メンバーの、このバカバカしい議論に付き合うこよみも、昨晩からのショックからすっかり立ち直り、満面の笑みを周囲に見せる様になっている。
それこそが、オカルト研究会メンバーの目的なのかも知れないし案外、彼らのバカバカしい議論は、ガチンコの議論なのかも知れない。
確かな事は、夜が更け、玲一が退院して来る日までのカウントダウンの時間が、刻一刻と迫っていると言う、事実であった。
「【高野政宗】なんて名前はどう…かな?」
「部長、それ以上腐った事言い出したら、ブン殴りますよ」
「…ひまり…腐ってやがる……」
ひまりが口にした名前の意味を、何故か知っていた、菊と加納であった。




