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ドレッドノート・カプリチオ ~勇者狂想曲~  作者: 振木岳人
「覚醒する仲間たち」編
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支配の神、テスカトリポカの想い


 ケツァルクアトルこと、プリシラ・カナル・ヒメネスと、テスカトリポカこと、ベロニカ・メネンデスが現れてから二週間。

しばらくは、平穏な日々が続く。それも、不思議な程に。気持ち悪いぐらいに。

1年A組に転校して来たプリシラとベロニカは、お互いを避ける様には行動しているが、不思議な事に一切衝突していない。

それでいて、彼女たちの美貌に目が眩んだ、生徒達が押し掛けて来ても、笑顔でそつなく、あしらっている。

土岐玲一やクラリッタ、加納も、その光景に多大な違和感を覚えながらも、「とりあえず、衝突が無いなら水面下での情報収集を」と、

平たく言えば、何ら変わりない彼らの日常が、続いていたのであった。


 カルト研究会も、日々これ安穏。

部長の氷見ひまり以下、副部長の丞定菊や、生き神様の伸暁真琴。

そして、玲一やクラリッタや加納の新入生組と、ゴールデンウイーク後に新加入した、ロロット・サン・マリー・デュモンと、貧乏神の設楽寺富美も、

放課後に集まっては、進まぬ情報交換と会議、そして、インスタントコーヒーと紅茶、お菓子の数々を、胃袋に収める日々が続いている。

無為にとは言わないまでも、費やす時間に対しての内容が、あまりにも薄くなっている事は、事実であった。


「刺激が欲しい…」


背中を丸めながら長テーブルにアゴを乗せ、ため息を頻繁に吐き出しながら、呟くひまり。

停滞した空気の中、コーヒーの湯気で鼻腔を刺激された玲一がふと、ベロニカ・メネンデスと藤間紫乃に囲まれてしまった、あの夜の事を思い出す。


 ベロニカ・メネンデスが、高槻邸に泊まる事が決まり、玲一が喫茶黙示録から帰宅した後の事。

紫乃が風呂を沸かしたからと、ベロニカから伝えられ、彼女とゆっくり話すならば、風呂上がりから就寝までの時間だなと、玲一はベロニカよりも先に、風呂場へと向かう。

本来ならば、客人であるベロニカが先に入るべきで、それを勧めるのは玲一の役目なのだが、

頑なにそれを固辞するベロニカに、何か事情を感じ、それ以上は何も言わず、「悪いね、それじゃ先に入るから」と、玲一は言い残し脱衣所へ。


 高槻邸の風呂は広い

さすが、陰陽師としてこの地に古くから根ざした、名家と呼ばれるだけの事はある。

様々な来客をもてなす為なのであろう、高槻邸の風呂は、ちょっとした旅館に肩を並べる程の大浴場であったのだ。

檜の香が漂う、総檜ばりの浴場には、大小二つの風呂釜が据えてある。普段は玲一とこよみが入るだけなので、

小さな風呂にしかお湯は張らないが、今日はベロニカが宿泊すると言う事から、大きな風呂にたっぷりと湯が張られ、風流な湯気を浴場に充満させている。


「おお、やはり壮観だなあ」


脱衣所から、浴場に入った玲一。この温泉旅館の様な光景は何度見ても、旅先にいる様な感動を抱かせる様だ。

だが、この時点で玲一は第一の失敗を犯していた。広い浴場に入る前に、広い脱衣所で衣服を脱いでいた時、

別のカゴに女性用の衣類が置かれていた事に、まるで気付いていなかったのだ。


 先ずは、身体を洗い、頭を流して、そして大きな風呂へ。

鼻歌を歌いつつ、身体を沈め、大きな窓が額縁の役割を果たす、入湯客だけが見る事の出来る、風靡な中庭を見ようと、湯気の中を進む。

すると、玲一の目の前に現れたのは、和風枯山水の庭では無く、顔を真っ赤にしながらうつむく、裸の紫乃であった。


「ひいっ!?」


驚いて立ち上がる玲一。しかし、自分も裸である事を思い出し、股間を隠しながら慌てて湯船に。


 ……確かベロニカはさっき、紫乃は帰ったと言ったはずなのに、何故風呂に?それに、もし自分が入って来たのなら、驚くなり悲鳴を上げるなりしてくれれば、びっくりして風呂場から退散するのに……


玲一の疑問に答える訳も無く、何も言わずにうつむく紫乃。

それを見た玲一は、(なるほど、紫乃さんは大声を上げるに、上げられなかったんだな)と、

玲一を驚かしてはいけないとした、紫乃の配慮と優しさに感謝しつつ、気付かなくてごめんなさい!と、湯船に浸かったままで回れ右しながら、その場から逃げ出そうとする。

しかし、玲一の考えは大ハズレ。紫乃の意外な一言で、思春期の少年は大ピンチを迎える事となる。


「私は構いません。こう言う事もあろうかと、覚悟しておりました」


いやいや、こう言う事も無いんですけど普通は!それに、覚悟してるって何をでしょうか!


ガクガクブルブルと、身悶えながら驚愕する玲一は、すみません、すみませんと謝りつつ、湯船の中を顔だけ出して来た道を進むのだが、

背中にかかる紫乃の声が、等距離からかかって来る事で、紫乃が自分自身を追いかけて来ている事に気付き、最早パニック状態へと陥っている。


「お背中流しましょうか?」


「洗髪も、お手伝いいたします」


あ、あの!いや!そうじゃなくて!と叫びながら逃げる玲一の耳に今度は、紫乃の悲しげな声が聞こえて来た。

いつも穏やかで、ほのかな笑顔を絶やさない、あの紫乃の、悲しげな声が。


「玲一さん、私の事は……お嫌いですか?……苦手ですか?」


 その声のトーンに、ハッとする玲一。振り向けば、湯船の中で立つ姿の紫乃が。

玲一より一歳だけ年上とは思えない、大人の女性を思わせる見事な曲線で描かれた、細身のボディライン。

水滴が滑り落ちる度に、ライトに反射して、透き通る白い肌がキラキラと輝いている。

そして、ふくよかでありながらも控え目に自己主張する、見事な形の乳房が目に入り、慌てて顔を背ける玲一。

しかし、まるで「私を見て欲しい」とばかりに、全てをさらけ出している紫乃は、尚も悲しそうに言葉を続ける。



 ……幼い頃からずっと、姉の橙子から、事あるごとに「玲一は良い子だ」「玲一は良い男だ」「生涯の伴侶とするなら、玲一しかいないぞ」と言われ続け、学年は違えど、登下校時や、校舎の廊下で、ずっと玲一だけを見て来た。

紫乃は既にそのつもりで、高槻邸に住む事になった玲一たちを、心から喜び、心からお手伝いし、ゆくゆくは妾でも良いから、玲一の許す範囲で、寄り添わせて頂きたいと願って来た……



 あの、鬼の様な藤間橙子が、玲一をべた褒めする事には、非常に違和感を覚えるものの、紫乃の持つ、無条件の優しさに気付く玲一。

深い感謝を彼女に覚えながらも、彼女のその想いに、どう応えて良いのか判断がつかずに躊躇する。

時間も刻一刻と過ぎ、恥ずかしくて身体を見られまいと、湯船に浸かる彼の顔は、汗びっしょりで、茹でダコ以上に真っ赤になっている。いよいよのぼせて来たらしい。


どうにかして、この場を切り抜けようと思案を巡らせるのだが、ここで、玲一の第二の失敗が、彼自身を襲う。

藤間紫乃の存在を知って、玲一は一目散に風呂場から逃げ出せば良かったのだ。それで今回の女難の相が、終わったはずであったのだ。

だが、玲一は風呂場に残った、残ってしまった。そこへ「とどめ」が現れたのだ。

とどめの名は、ベロニカ・メネンデス。「玲一、遅れてすまない」と、顔を真っ赤に染めながら、全裸で浴場に入って来たのである。


「べ、ベロニカ!何で君まで!?」


あまりのシチュエーションに、ザバっと飛沫を立てて、立ち上がる玲一。しかし、のぼせたまま急に立ち上がると、

あっという間に目の前がブラックアウトを起こす現象……立ち眩みに、もれなく襲われる。

玲一は「ふえっ!」と言う奇妙な悲鳴を上げ、目を回しながら、そのままバチイイン!と、前のめりに、湯船に倒れてしまったのだ。


「玲一!?」


「玲一さん、大丈夫ですか!」



慌てて駆け寄る、紫乃とベロニカ。

何でここに紫乃がいるのだ?帰ったのではないのか?などと、紫乃に問い質している暇など無い。

急ぎ玲一を湯船から出して、身体を冷やさないと!

紫乃とベロニカは玲一の左右に分かれて、玲一に肩を貸しながら起き上がり、湯船の外へ運ぶ。

うううん……と唸り声を上げる玲一を、冷たい床に寝かせ、紫乃は水道の蛇口をひねり、冷水にタオルを浸し始め、

仰向けになって休む玲一の上半身を、ベロニカは心配そうに抱え起こし、膝枕の体制へと移行する。

だが、気付いた玲一が目を開けた時、悲劇が再び起こった。


視界に広がる二つの巨大な塊、それは超至近距離で見るベロニカの乳房。

紫乃を遥かに上回るベロニカのそれが、玲一の視界を覆い尽くしたのだ。


「ひいっ!」


驚いた玲一の身体は、まるで雷に打たれたかの様にビクンと波打ち、立ち上がろうと、手足をバタつかせた結果、

玲一の頭がベロニカの膝枕から滑り落ち、タイル張りの床にゴチン!後頭部を痛打してしまったのだ。


「ああ……おっぱい、おっぱい軍が攻めて来る」


謎の言葉を残し、哀れ玲一は、気を失ってしまった。


「玲一、大丈夫か!?」


「湯冷めすると風邪をひきます。担いで外に出しましょう」


紫乃もベロニカも、裸のままでいる事を忘れ、玲一の介抱を優先する。

風呂場から彼を出し、二人がかりで身体を拭き、服を着せ、二人で担いで玲一の部屋へ。


「すまない、帰ったと思っていた」


「せっかく入れた風呂だから、帰る前に入って行けと、こよみちゃんが言ってくれまして」


 ……ところで、何故ベロニカさんは風呂へ?


 日本人には、混浴しながら、親睦を深めると言う、裸の付き合いがあると聞いた。

 玲一に私の話を聞いて欲しくて、私もその風習に倣ったのだ。


 ふふ、今どき混浴するのは、深い関係の男女だけですよ


 そ、そうなのか!?


玲一を介抱しながらも、両者のかしましい会話は続く。

やがて、玲一が意識を取り戻すと、安心した紫乃は、笑顔で帰宅する。

別れ際の紫乃とベロニカ。どうやらそこには、「裸の付き合いで親睦を深める」効果が現れており、互いの笑顔には、そう言う意味が含まれていた。


 その後の事、深夜、高槻邸の居間。

湯あたりと脳震盪から回復し、テーブルを挟んで相対する、玲一とベロニカ。

互いに、風呂場での出来事が脳裏をよぎるのか、顔を赤らめたままうつむき、互いの顔さえ見れる状況に無い。


(……ヤバい、ヤバい。落ち着け、落ち着くんだ俺!……)


何か話し出して、この照れ臭くて沈黙だけが漂う空気を打破しなければと、必要以上に玲一は慌て、何を切り出せば良いかの全くわからなくなっている。

そしてそれは、ベロニカにも同じ事が言えた。彼女も、羞恥に包まれながらも、この停滞した空気を打ち払おうと、内心苦闘していたのだ。


「あ、あのっ!」


「はっ、はい!」


互いに同時に口を開き、かぶった衝撃で、互いに引く。

これでもう、本日二回目のだだかぶりである。


(ヤバいヤバい!思い出すな思い出すな!……おっぱいどんどん、おっぱいどんどん)


(冷静に、とにかく冷静に!……股間に大蛇、股間に大蛇)


あ~いかんいかん!と、玲一はまるで、自分の才能の様に溢れ出て来る、脳内イメージ画像を消去するのに躍起。

それは、テーブルの向こう側にいるベロニカも同じである。


とにかく落ち着かなければと、玲一は一旦彼女と距離を取るべく、コーヒーでも飲むかい?と、立ち上がり、台所へと赴こうとした時、

やっときっかけを見出したのか、ベロニカが重い口を開く。


「待って玲一。ケツァルクアトルと私の関係…、聞いて欲しい」


「おっ、おお…」


おどけた表情であらためて座り直す玲一。

ベロニカもやはり、この空気のままだと、自分自身がついつい、情に流されてしまう事を感じていたのだろう。


きっかけはどうあれ、思春期の自分に芽生えてしまった、ときめく感情。

それはそれで尊重するとしても、今進めるべきは、そんな話じゃない。

悠久の歴史の中で培って来た、ケツァルクアトルとテスカトリポカとの関係を。

そして今、再び絶対神の座を狙い始めたケツァルクアトルを、なぜ阻止したいのか。

それを玲一に話し、理解して貰い、そして、協力してもらわなければならないのだ。


「時空を、次元を超えて、五つの世界で、ケツァルクアトルとテスカトリポカは、絶対神の座を争って来た。そして、五つ目にたどり着いたのが、古代アステカ王国」


ベロニカは、テーブルの反対側から身を乗り出す様に、彼女の話を真剣に聞こうとする玲一に対して、過去の事、思う事を、余す事無く洗いざらい話した。


 テスカトリポカは、ケツァルクアトルに憧れていた。

人類に知恵を授ける文化神、農耕の神、風の神として人々を優しく包む、その母性愛に。

それは、「可愛さ余って憎さ100倍」の様な、決して対抗心が芽生える様な憧れではなく、

自分に無いものを持つ、素晴らしい存在として認め、更に憧れていたのだ。


2人が渡って来た世界では、人々は毎度毎度、ケツァルクアトルを母として讃え、テスカトリポカを厳格なる父として位置付けする。

だが、神としてのテスカトリポカも、そしてケツァルクアトルも、人類に、人々に望むものは、それでは無かったのだ。


つまり、戦いの神、美の神、支配の神テスカトリポカは、狂信的な人々の信仰よりも、ケツァルクアトルに人々が抱く様な親愛の情を求め、

農耕、文化、風の神ケツァルクアトルは、親愛と感謝の情を寄せる人々に本当は、絶対的な忠誠心を求めていたのだ。

つまり、テスカトリポカもケツァルクアトルも、自分に無いものを、互いを通じて求めていたのである。


 更に、ベロニカ・メネンデスは語る


「私は人々の生贄を受け入れ、ケツァルクアトルは生贄を否定したと言われている。でも、そうじゃないの。分かってるのよ、私だって。

神を愛した人々が、喜んで自分の心臓を捧げる。そんなの良い訳無いじゃない!皆が皆、自分を犠牲に捧げれば、後に何が残るのよ…」


「そうだね。生贄になんてなりたくないと思う、神々が嫌いで、自分が大好きな人達が残るだけ」


「でもね、当時の古代アステカでは、そんないびつな宗教が主流だったの。私はそれを、受け入れざるを得なかった」


「そして、ケツァルクアトルはそれを受け入れずに、古代アステカを捨てたんだね」


玲一の返しに、ベロニカは「ちょっと違う」と言いながら、補足の説明を付け加える。


ケツァルクアトルは、母性愛溢れる、女性的な存在のケツァルクアトルは、

喜んで、進んでテスカトリポカに自らの心臓を捧げる人々に、【嫉妬】したのだ。

戦の神、支配の神、美の神テスカトリポカに嫉妬し、古代アステカを滅ぼしたのだ。


嫉妬に狂った農耕神、文化神、風の神ケツァルクアトルは、繁栄を重ねた古代アステカを滅ぼす為に、文化を否定し、人々の知的好奇心を飢えさせ、民心を荒廃させた。

そして、豊穣の世界を、爽やかな風が吹く豊かな土地を否定し、古代アステカを、作物育たぬ赤茶けた大地に変えたのだ。

それだけなら、まだ人々は別の土地に移り住む事で、難を逃れる手立てはあったのだが、運悪くなのか、それともケツァルクアトルの手引きなのか、

将来の見えなくなった古代アステカに対して、西暦1500年代前半、突如、エルナン・コルテス・デ・モンロイ・イ・ピサロ率いる、スペイン王国軍が現れ、アステカを武力で征服。

虐殺と民族浄化で、アステカ文明はここに終焉を迎えるに至ったのだ。


「アステカ文明の破壊者」エルナン・コルテスとは、当時のスペイン王国軍キューバ駐留部隊の実力者である。

その彼が突如、キューバ総督の了解を得ずに中南米に出兵し、アステカ文明を殲滅したのは、今現在も謎とされている。


「私もアステカの尖兵として具現化し、スペインと戦ったが、ケツァルクアトルはそこにいなかった。

結局、私に残ったのは、赤い大地に敷き詰められた、アステカの人々の死体と、西洋文明から悪魔と呼ばれる汚名だけ」


「なるほど、怖いな。…彼女の嫉妬は、文明の荒廃すら起こすのか」


「私は…何と思われても良い。悪魔だろうが、生贄の神だろうが、何と呼ばれようと構わない。

既に私は、絶対神の座など求めていない。あのアステカの二の舞いだけは阻止したい。憧れた彼女の、彼女の嫉妬を止めなければ」


「だから、彼女に毒を盛ったのか」


「文化の…知恵の神に、そんなものは通用しなかった。彼女に、更なる憎しみが誕生しただけ」


「だから、だから迦楼羅の力が必要なんだ。プリシラ・カナル・ヒメネスを、ケツァルクアトルを止めてくれ、土岐玲一!」


彼女の真剣な眼差しを見詰める玲一。彼女の瞳に偽りは無い、そう感じる。

ならば、ベロニカの言葉を信じ、プリシラの嫉妬バーストを止める事が、真実なのか。

だが、まだプリシラの言葉を、彼女の真意聞いていないのも事実。

判断は早計なのか、それとも、この段階で結論付けられない、自分が愚鈍なのか。


思案する玲一に、ベロニカは告げる。


「今すぐ結論は出さなくて良い。会って初日だからな。玲一の判断で、何をどうすれば良いのか、考えてくれ」


「ああ、分かった。ベロニカ、ありがとう。話し辛い事まで、俺に話してくれて」


真剣な眼差しながら、ニコッと笑う玲一。

その玲一の笑顔にやられたのか、ドギマギしながら頬を赤く染めて、うつむくベロニカ。



 もやもやと…その後は「健全に」過ごした、ベロニカとの夜を思い出している玲一。

突如お尻に激痛が走り、「ぎゃ!?」っと叫び、パイプ椅子から脊髄反射で飛び上がる。

どうやら、あまりにも呆けていた玲一の姿に、乙女レーダーに反応したクラリッタが、お尻つねり攻撃を敢行したのだ。


「痛い、痛いよクラリッタ」


「玲一、今絶対、女の事考えてたでしょ!」


「えっ?えっ?いや…あはは!」


笑って誤魔化す玲一に、仲間内から次々にツッコミが入る。


「そうなの玲一?それって私の事?」


「ロロの事じゃないですよね。私ですね、私の事考えてたんですよねぇ」


「だまれ貧乏神、よもや、エカテリーナの事じゃないだろうな?いや、もしかしてケツァルクアトルか、テスカトリポカだな!」


「いやはや、玲一はまっこと、色ボケさんなのだ」


「真琴さんまで何言ってんすかあ!」


「なあ、どうだろう?ここは一つ、黒髪眼鏡の美少女である、私を考えていたと言う事で」


「…ひまり、汚れきってるから無理…」


「お菊さん!?今何て言ったの、お菊さん!?」


「はいはい皆さん!クラリッタの脱線で話が逸れましたが、議題にもどりますよー」


「キーッ!加納!」


オカルト研究会の部室、ホワイトボードには「ケツアル&テスポカ対策」の他に、「体育祭対策」や「合宿どうすんのよ?」などと、議題が書き連なっている。

だがしかし、平穏な日々が続いたせいか、どうも部員達は、事あるごとに脱線してしまっていた。

それが偽りの平穏であったとしても、今の彼ら、彼女らにはあずかり知らぬ話なので、それをもって責める事は出来ない。


ただ、この数時間後、オカルト研究会メンバーは、ゴールデンウイーク明けから今まで続いた平穏が、かりそめの平穏であった事を、身を持って知る事になる。

土岐玲一の妹、土岐こよみに迫る、命の危険と言う…、誰もが予測出来なかったトラブルで。




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