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ドレッドノート・カプリチオ ~勇者狂想曲~  作者: 振木岳人
「古代神」編
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決戦前夜


 玲一が【喫茶 黙示録】から自宅に向かう頃。

場所は北部団地を北から見下ろす三登山(みとやま)での事。


うっそうと茂る背の高い木々で、月明かりさえ地面に届かない森の中、

夜行性の動物だけが、生活を謳歌する時間帯に、何故か…、人の言葉を発する黒い影の群があった。


その、無数の影が口々に発する言葉は、人間に対しての、人間社会に対しての、もっと言えば、人間社会と共存関係を構築しようとする勢力への怨み辛みの声。

まさしく、月明かりの届かぬ、魑魅魍魎が跋扈する世界にお似合いの、ドス黒い、ネガティブな言葉の羅列であった。


「矢治丸が捕まった」


「勇者、宮代優作が警察に引き渡したそうだ」


「いや、その前に、矢治丸を小僧が追い詰めたそうだ」


「知ってるぞ、その小僧」


「土岐玲一…迦楼羅飼う者」


「後見人は、伽里田神社だそうだ」


「おのれ!」


「八百万組合か、チッ!人間などに迎合しおって!」


それぞれがそれぞれに、怒唆の声を上げている時、その集団の中に向かい、ひときわ大きな影が現れ、そして、悠々と群の中心へ進んで来る。


「親方」


「親分!親分!」


おお…、と言う、静かなため息が、辺りに広がる。

どうやら、この群、この集団を統率する、最高実力者が、登場したようだ。


人間を遥かに凌駕する、2mを超える身長。

その中で、頭ひとつ出た、ひときわ目立つ実力者、統率者。

赤茶けた太い毛で覆われた全身。虫の心音も拾いそうな、尖った大きな耳。

そして、前にせり出した口から見える、禍々しく鋭い牙。


人間の最良の友人である犬。その犬が、心霊力を持ち、輪廻の輪から外れ、数十年、数百年の時を刻み、妖魔となって人間の使役に従う姿を、「犬神」と呼ぶ。

そして、私欲や物欲に染まり、心霊力を持っても、人間の良き友人になれなかった犬。その、犬神の成りそこねのアウトサイダーが、妖魔【山犬】と呼ばれ、

決して人里で安穏と暮らせない、人間とたもとを別れた、野生と欲望の権化となるのだ。


「おのれらっ!矢治丸が捕まった話は、知っておろうな!」


ひときわ声を大きく、唸る様に叫んだ首領格の山犬。その声には、怒りと怨みがたっぷりと詰められている。


「矢治丸が何をしようと、矢治丸の勝手じゃ。しかしな、我ら一族郎党、やられたまんまで泣き寝入りはせん。そうだな、お前ら!」


「おお、そうじゃ!」


「人間なんぞに、なめられてたまるか!」


「八百万組合、怖るに足らん!」


首領の一言に合わせ、山犬の群は剛雷の様な声を夜空に轟かす。

その無数の声に満足したのか、首領は周囲に群がる山犬の顔を一度見回し、

今度は、煽る様な口調では無く、ドスの効いた低い声で、

山犬達の怒りをどこへぶつけるべきか、方向を示した。


「八百万組合の宮代優作を、それと土岐玲一っつう小僧!コイツらを、足腰が立たなくなるぐらいに、叩きのめせ!」


うおおおっ!!


湧き上がる歓声。そして、その声を制する様に、首領は右手を上げながら、言葉を続けた。


「我々に、力を貸してくれると言うお方が現れた。これで我らも、八百万組合に対して、三登山の所有権を堂々と主張出来るであろう!」


うおおおっ!!


再び湧き上がる歓声。


どうやら、山犬の集団は、伽里田神社の祭りの際に、仲間を捕まえた宮代優作と土岐玲一に対し、報復する事で、

八百万組合や人間社会に対して、裏山の「三登山」を、自分達の権利主張地つまり、自分達の領土だと宣言し、その為の武力闘争を行おうとしている様だ。


「我々に力を貸してくれるお方、今この場に来ておる。先生、せんせーい!」


首領は真っ暗な林の奥に向かって叫ぶ。

首領に倣ったのか、山犬の群一匹一匹も、林の奥へと注視し始めた。


そして、首領の呼び掛けに答えたのか、一人の人間が現れる。


おおっ…


その人影に、ため息をつく山犬達。


現れた人影は女性。私立青嵐学園の制服を着た少女。

腰まで伸びた、白く輝く髪の毛が、うっすらと闇に映え、

そして、闇の中でも輝く、真っ青な瞳が特徴的なその少女。

口元にはうっすらと、笑みを浮かべていた。



 伽里田神社よりも更に山中、三登山の奥で、何やらきな臭い集会が行われていた頃。

高槻邸に戻った玲一は、いきなり出掛けて行った事を、ベロニカに謝る。


紫乃は既に、藤間の家に帰ったらしく、ベロニカとこよみ二人が玲一を待つ中で、こよみが睡魔に勝てず、既に寝てしまっていた。

「ごめん」と呟きながら、こよみを抱え、居間から彼女の部屋へと運んだ玲一。

ベロニカが思い出した様に、紫乃が風呂を沸かしたそうだから、入る様にと伝える。


「私は後で良いから、玲一、先に風呂に入って」


話す事はまだある。

ケツァルクアトルとテスカトリポカとの関係など、互いに理解しておかなければならない事が、山ほどある。


だから玲一はこの時、ベロニカが言った事を「玲一が風呂から上がったら、ゆっくり話そう」と、理解した。

だが、それは玲一の大きな勘違いで、実際は、風呂に一緒に入って裸の付き合いをするのが、日本の古来からの風習なのだと、

ベロニカが大きな勘違いをしていた事と、藤間紫乃が自宅に帰ったと思い違いしていた事で、

この夜、土岐家の風呂場からは、玲一の何とも情けない悲鳴が、近所にこだまする事になる。


嬉しいやら、恥ずかしいやら。


どうやらまだ、玲一の女難の相は、終わる事を知らないらしい。



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