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ドレッドノート・カプリチオ ~勇者狂想曲~  作者: 振木岳人
「古代神」編
47/74

二人の姉


 高槻邸勝手口

帰り際、ノスフェラトゥ級ヴァンパイアのエカテリーナに出会うも、クラリッタの戦略的撤退に無理矢理付き合わされた玲一。

額に汗を浮せ、肩で息をしながら、やれやれと言った気だるい表情で裏口の扉をくぐる。


「ただいまぁ」


家に上がり、食堂にカバンを置いて、脇目も振らずにそのまま冷蔵庫の前へ。

紫乃が毎日作り置きしている麦茶を炭酸ジュースをコップへと注ぐ。

ゴクリゴクリと麦茶を喉に流し込み、走った後の喉の渇きを潤すと、ふと、ある事に気付く。

家に入る時、「ただいま」と言って入って来たのに、こよみからの、いつもの愛らしい挨拶「お兄ちゃんお帰り♪」が無かった事。

そして勝手口の土間に、こよみとは明らかにサイズの違う、一回り大きな、女性用の学園指定革靴が置いてあった事。


(……お、こよみの友達が来てるのか……)


兄にべったりだった妹が、家に招き入れる程の友人が出来た、、、

父親、母親代わりを務めていた玲一には、非常に嬉しい事でもある。

邪魔をしない様に、細心の注意を払い、物音を立てずに自分の部屋へ。

テレビのスイッチも入れずに、畳の上に座り、テーブルに教科書とノートを広げ、宿題を片付け始める。


10分経過


20分経過


こよみの部屋は、静か、とても静かである。

静かなら静かで、気になるのは道理。こよみの友人は、靴から女性である事は明白なのだが、気になり過ぎて、宿題も手につかなくなって来た。


「うむ、兄として、親代わりとして、おやつを用意してあげよう。そうしよう♪」


口をへの字へ曲げ、わざとらしい、真面目な顔をして、その行動が邪な好奇心から生じたものではないのだと言い訳しつつ、いそいそと台所へと移動した玲一。

冷蔵庫から取り出したカルピスを、やや濃い目に作り、戸棚を開きお菓子を物色、ポテトチップスやチョコレートを皿に盛りつける。


「さて、こよみの友達拝見拝見♪」


高槻邸の古い廊下を、ギシギシと音立てながら、こよみの部屋の前へ。

コンコン!と軽くノックしながら、「こよみ、おやつ持って来たぞ。お友達と食べなさいと、威厳たっぷりに言葉をかけた。


 ……は~い♪……


室内から響くこよみの声。スーっと和風の引き戸が開き、にこやかなこよみが出て来る。


「お兄ちゃん、帰って来てたの気付かなくてごめん。お兄ちゃんのお友達、上がって貰ってたよ♪」


「へっ!?俺」


「うん、お兄ちゃんのお友達さんだからって。外で待たせるの申し訳ないから、上がって貰ってたの♪」


「はて、俺に用があるの?」と呟きながら、部屋から出て来たこよみの、背後を覗き込む。

こよみの部屋の中央、こよみに勧められたのか、熱心に少女漫画を読みふける、青嵐学園の女子生徒が振り向いた。


「…ええっ!?」


フローリングの床に置いた座布団に、ぺたりとお尻を落として座り、玲一を見詰める女性。

浅黒い健康的な小麦肌、エメラルドグリーンに輝く髪、混ざりけの無い真っ赤な瞳。

玲一にとって、見覚えのある女性だ。それも、今日の朝、ホームルームで初めて会ったばかり…。


「べ、ベッ!ベロベロ……!?」


「ベロニカ・メネンデス。名前くらいちゃんと覚えて」


「いやいやいやいや、どうして君が!?」


「うん????」


帰宅したらいきなり、今日学園で出会ったばかりのベロニカ・メネンデスの姿が。それも、妹の部屋からとならば、驚かない訳が無い。

そして、その意外な訪問者が、戦の神、美の神、鏡の神、黒曜石の神、支配の神、そして古代アステカ王国において、生贄を受け入れた神とあらば、、、

改めて、アゴを外す様な勢いで口を開けたまま、マジマジと彼女を見詰める玲一。

なぜ玲一が動転しているのか理解出来ないこよみ。

そして、極めて冷静に玲一を見上げるベロニカ。

三竦みの状態の中、こよみに余計な気を遣わせてはいけないと、玲一は慌ててベロニカに声を掛けた。


「や、やあベロニカ、俺に…用事かい?」


「迦楼羅に会いに来た。迦楼羅に話がある」


「あ、あはは!そうか。じゃ、じゃあ俺の部屋に行こう。こよみ、ありがとうな」


玲一は慌ててベロニカの腕を取り、自分の部屋へと急ぐ。

オカルト研究会で動こうとしていた、目標の人物「ベロニカ・メネンデス」と、一対一になった。


「いきなりどうしたの、びっくりしたじゃないか」


「迦楼羅に話があったから、いてもたってもいられなくて、来た」


「まあ、それはそれで話を聞くとして、俺の名前は土岐玲一だ、迦楼羅じゃない。それだけは判ってくれ」


コクリと頷くベロニカ、改めて玲一の名前を口にしてみる


「土岐…玲一」


「うん、よろしくベロニカ」


玲一はベロニカに握手を求め、ベロニカはオドオドしながら、玲一の差し出した手を握り返す。

握手を終えた玲一は、テーブルの反対側に座布団を用意し、そこに座れと手でジェスチャー。

カルピスとお菓子を、ベロニカに差し出した。


「さてと。急にどうしたのよ、いきなりでビックリしたぜ、俺」


おどけながら、ベロニカの気を紛らわし、話し易い空気を作る。

ただ、この時点で玲一は、いきなり現れたこのベロニカに、非常に違和感を覚えている。

先ほど、放課後に、オカルト研究会で打ち合わせした際に聞いた、古代神テスカトリポカである、ベロニカ・メネンデスへのイメージと、

今、玲一の目の前にいる彼女のイメージの差が、あまりにも激し過ぎるのだ。


真琴や部長のひまりから聞いた、テスカトリポカは、「支配神」「美の神」「戦の神」など、人間の生贄を平然と受け入れる、猛々しいイメージ満載だった。

朝、ホームルームでクラリッタに席を譲れと迫ったテスカトリポカの迫力は、まさに真琴達の言う、戦の神そのものの威厳を放っていた。


だが、しかし…

今、目の前にいるテスカトリポカは、何と表現すれば良いのか、儚い。非常に弱々しく感じられるのだ。


美しいを通り越し、眩いばかりに神々しい彼女。それは、その基本は変わらない。

だが、真っ赤な瞳は床を見詰め、肩をがっくりと落とし、今にも泣き出しそうな表情でうつむく姿は、まるで覇気の無い、気弱な人物にしか見えないのだ。


(……何だ?生贄を受け入れるくらいの神だって聞いたから、正直ビビってたのに、これじゃまるで……)


「土岐…玲一」


「な、なんだい?」


「土岐玲一、迦楼羅飼うあなたに、お願いがあります」


「えっ?あ、はい」


「…ケツァルクアトルを止めて欲しいの」


「え、どう言う事だ?プリシラを止める?何を?…何故?」


「ケツァルクアトルは、迦楼羅の力を使って、恐ろしい事を考えている」


「お、おい。恐ろしい事って何だよ」


「それは…」


ベロニカが玲一の疑問に答えようと、身を乗り出した時、「ピンポーン♪」と、玄関のチャイムが鳴った。


「あっ、電気代か何かかな?ゴメン、ちょっと待ってて」


玲一は慌てて立ち上がり、部屋を出て玄関へ。来客の元へと向かう。

部屋を出る瞬間、ちらっと振り返り、ベロニカの顔を確認した玲一であったが、

やはり、何とも言いようの無い、悲しげな顔をしたままで、まるで、戦の神としての威厳などは一切感じられなかった。


「は~い、どちら様ですか?」


玄関の引き戸を開ける。すると、外で待っていた人物に、玲一は腰を抜かさんばかりに驚いたのだ。


「プ、プリシラさん!?」


そう。土岐宅を訪問したのは、今日、学園に転校して来た、古代神二人の内の一人、プリシラ・カナル・ヒメネスだったのだ。


「土岐さん、昼休みはありがとうございました」


「あっ、いや、早く学校に慣れればと思ってね」


深々と頭を下げる啓子。ベロニカが上がり込んでいる事もあり、ドギマギしながらも、照れ笑いでそれを誤魔化す。

すると、頭を下げた啓子の後ろ。玄関の外に広がる光景に気付く玲一。

玄関の門の外側、道路上には黒塗りでピッカピカの高級車が停車しており、傍らに執事らしき老齢の男性が、姿勢正しくこちらを見詰めていたのだ。


「あ、あの車…」


「あっ、はい。私の送迎用です。実は、実家が香辛料で財を成しておりまして」


笑顔で答えるプリシラ。

玄関の外から吹き込む、初夏の風。その風にサラサラとなびく白い髪が、陽光に反射し、

まるで、寒冷地で起こるダイヤモンドダスト現象が、彼女の身の回りで起こっているかの様だ。


そして、風に乗って流れて来る、彼女の素敵な香り。

動物系でも、柑橘系でも無い、化学(ばけがく)の一切干渉しない、

玲一さえも表現出来ない、彼女の自然な香り。

その香りに鼻腔をくすぐられた玲一は、あっという間に、彼女に夢中になってしまいそうになる自分自身に気付き、

我を保とうと、自分の尻をコッソリとつぬる。


「あ、あの…」


「うん?何だい?」


「つかぬ事を伺いますが、テスカトリポカ…ベロニカ・メネンデスは、こちらにいらっしゃいますか?」


「えっ?」


一瞬、ほんの一瞬の出来事ではあったのだが、今まで屈託の無い笑顔で彩られていた、プリシラの表情が、ほんの一瞬だけ、酷く冷たく、様変わりしたのを感じた。

バレている、バレているのだ。プリシラには。「ベロニカ・メネンデスを、土岐宅に上げている」と、言う事が。

つまり、ケツァルクアトルこと、プリシラ・カナル・ヒメネスにしてみれば、

土岐玲一は、テスカトリポカの味方をしていますね、私はそう疑っていますよと、遠回しに玲一に警告を放っているのだ。


この時玲一は、プリシラの笑顔の裏にある感情、彼女が隠している感情に、戦慄を覚える。


(……ヤバい、つか怖い…。これは、この空気は、嫉妬と殺意の塊じゃ?……)


別に今現在、この時点で、玲一はどちら側の味方になるなどと、決めている訳ではない。

決める決めないの問題では無く、当初から騒動の火種となっている、

ケツァルクアトルとテスカトリポカの不仲を仲裁しようと言うのが、純然たる目的である。

だから、神々しいほどに綺麗で、母性の塊の様な笑顔を見せた、ケツァルクアトルを、ひいきしようとは思っていないし、

そして、突然土岐宅に上がり込んでいたテスカトリポカを、かくまおうとも思っていない。


あくまでも、中立公正に…。それが玲一の、彼女達に対するスタンスである。

そして、オカルト研究会の打ち合わせでは、戦いの神、ベロニカ・メネンデスに問題があるのではと結論に至り、ベロニカに対する交渉作戦が予定されていた。


だが、しかし、この時のプリシラ・カナル・ヒメネスの表情。

笑顔の中に一瞬だけ現れた、鋭く険しい表情に、玲一はある疑念を抱く。


【実は、問題があるのは、ベロニカではなく、プリシラ側にあるのではないのか?】


確証は無い。玲一の部屋にいるベロニカは、事情を聞くどころか、まともに会話すらも成立していない。

だが、この瞬間に得られた情報に基づいた結果、玲一はプリシラの質問に、こう答えたのだ。


テスカトリポカはいますか?と言う質問に対して、「えっ?いや、いないよ」と。


チラリと玄関に置いてある、女性用の革靴を見るプリシラ。

多分、こよみが気を利かせて、お勝手口から玄関へ運んだのであろう、ベロニカの靴。

それに視線が向いた際は、さすがの玲一もギクリとしたのだが、

プリシラは再び玲一の瞳に自分の視線を合わせ、笑顔のまま答えた。


「あ、そうですか。今日はお昼のお礼をと思いまして、挨拶に来ました。つたない流れ者ですが、今後とも宜しくお願い致します」


と、静かに玲一に挨拶し、そのままプリシラは去って行ったのだ。

ドアが閉まった後の、高槻邸の玄関。しばらくの間玲一は、ぐったりと床にへたり込み、釈然としない表情で、宙を見詰めていた。


「プリシラ・カナル・ヒメネスが来た、君を探している様だったが、お引き取りいただいたよ」


自分の部屋に戻った玲一。不安げな表情だったベロニカは、その言葉を聞いて、幾分落ち着いた様子だ。


「さあ、事情を話してくれるね?」


優しく玲一は問いかける。ベロニカは頷き、ゆっくりと、戦の神、支配の神とは思えない弱々しい声で、語り始めた。


「何の因果かわからないけど、この時代に、ケツァルクアトルと私は、人として生まれました……」


ケツァルクアトルも、テスカトリポカも、伽里田神社の鎮守である真琴や、貧乏神の富美の様に、何かの時代の到来を意味したかの様に、人として生まれて来た。

人として生まれて来た事に意義を見い出し、そして、ケツァルクアトルは早速、活動を始める。【失われし権威の復権と、絶対神の座をこの手に】と。

ケツァルクアトルは、失われた文明の記録に登場するだけの古代神ではなく、今を生きる人類が全てが、彼女にひれ伏す、この世の絶対神を目指し始めたのだ。


「なるほど。だからケツァルクアトルは、強大な力を得る為に、長野を目指したと」


頷くベロニカ。確かに、理解出来ない話では無い。

一度成功を収め、煌びやかな世界に君臨した者が、後にどん底に落ちてしまえば、過去の栄光を取り戻そうと考え、その為に行動を起こす事は、全く不思議では無い。


ケツァルクアトルは、人物の復興と、力を得る為に長野を目指した。

彼女の説明に、一応は納得する玲一。だがしかし、ここまでのベロニカの話の中で、玲一には新たな疑問が湧いて来る。

そう、テスカトリポカ…ベロニカ・メネンデスの立ち位置がわからないのだ。


「それで、プリシラが思う事、長野に来た理由は判った。それで、君は…君はどうして長野に?その、絶対神の座を賭けて、プリシラと闘おうとしてるの?」


「違う、そんなんじゃない!」と、首を左右に振り、全力でそれを否定する。

すると、玲一の部屋の外から、こよみの大きな声が響いて来たのだ。


「お兄ちゃん、ベロニカさん!紫乃さんが夕飯出来たって~♪」


兄に良いところを見せたかったのか、気を利かせたのか、兄に来客がある旨を紫乃に告げ、夕飯の準備をお願いしたらしい。

そして、元気な声で、こよみは二人を食堂にへと招いた。


今行くよと大声で返事をし、玲一はベロニカに「とりあえず、一緒に夕飯はどう?」と、問い掛ける。

ベロニカは頭をコクリと縦に揺らし、玲一の提案を素直に受け入れた。

「よし、じゃあ食堂に行こう」と、玲一は彼女を手招きし、廊下に出て屋敷の奥へと向かって行く。


夕飯の誘いに、即答で頷いたベロニカ・メネンデス。

先ほど訪問して来たプリシラ・カナル・ヒメネスは、黒塗りの送迎車に、執事が付き添っていた。

家が香辛料で、財を成したと言っていたが、この日本においても、贅沢な生活をしているのだろうと、容易に想像は出来る。

しかしこの、ベロニカは、プリシラの様なリッチなステータスを持っている訳でもなく、

夕飯の誘いを断る訳でも無く、恥ずかしがる訳でも無く…。


(……セレブなプリシラとは逆に、ベロニカは生活苦しいのかな?……)


玲一は、未だに謎だらけの彼女に、想像の羽をはばたかせている。

そんな玲一の思惑を察知したのか、しないのか、手塚とりこは廊下を歩きながら、玲一の背中に向かって、自分の事情を吐露する。


「私は、痩せた土地で、細々とヤギを放牧する家に生まれた。長野に来る為に、両親はなけなしの財産をはたいてくれた。ちょっとでも節約出来るのは……すごくありがたい」


「なるほど、そっか。じゃあ、遠慮無く食べてって」


ベロニカと二人で食堂に入る。すると、テーブルの上には、カセットコンロの上に鎮座する土鍋が。

そしてその土鍋の中には、急な来客に対応したとは思えない、紫乃特製の寄せ鍋の具が、玲一たちの箸を待っている。

エプロンをかけた紫乃が、サラダボウルを持ちながら、笑顔で現れた。


「もう季節では無いかも知れませんが、夜は冷えます。締めの雑炊の用意もございますので、ゆっくり召し上がってください」


「わあ、紫乃さん、ありがとうございます。せっかくだから、紫乃さんも食べて行きましょうよ」


「い、いえっ!あくまでも私は……!」


玲一の誘いに、しどろもどろになる紫乃。赤面しながらうつ向いてしまう。

しかし、こよみが紫乃の右腕に抱き付き、鍋はみんなで食べるから美味いんだと、紫乃を離さない。


「そっ、それではっ!私も……ご一緒させて頂きます」


「鍋将軍は、俺がやりますから、紫乃さんもこよみも、みんなで鍋食べよう」


「さあ、鍋パーテイーだ!」と、女心に鈍感な玲一の陽気な一声で、四人の夕飯が始まった。

寄せ鍋のベースは、信州味噌。三種類ほどブレンドした信州味噌の鍋汁に、白菜やネギなどの野菜と、ちくわやハンペンなどの練り物を投入し、

豚バラ肉と鮭の切り身と、豆腐をこれでもかと入れた、文字通りの寄せ鍋なのだが、

フライパンで発火寸前まで熱したごま油に、微塵切りのネギを入れて作ったネギ油が、仕上げに鍋に投入され、急ぎのやっつけ仕事の中、

紫乃の想いと優しさがキラリと光る、箸の止まらない鍋に化けた。


初めて見る和食に、当初はベロニカも戸惑っていたが、様々な素材のエキスが奏でる、鍋自体の美味さと、

今日初めて知り合った人たちではあるが、ワイワイガヤガヤと会話を重ねながら囲む食卓に、自然と笑顔が溢れ出した。


「締めの雑炊以外にも、うどんもありますので、遠慮なくおかわりしてください」


紫乃の気遣いに感謝しつつ、頬をほんのり紅潮させながら、箸をつつくベロニカの姿を見れば、なかなかに鍋パーテイーカは、好評の様である。

紫乃とこよみも交え、四人テーブルを囲んでの夕食なので、ベロニカも玲一も、プリシラについての話は、一切出さない。

当たり障りの無い、故郷の中南米の話や、家族の事を話し、紫乃や玲一、こよみも、それを興味深そうに聞いている。

慣れない長野での、格安アパート一人暮らしで、幾分寂寥感がたまっていたのか、

紫乃を交えての、玲一とこよみとの会話は、次第にベロニカの信用を獲得して行った。


「そうだ!ベロニカ先輩、アパート帰っても一人だし、今日は泊まっていきませんか?紫乃さんもたまには泊まって行きましょうよ、そうしましょうよ♪」


こよみは、自分に綺麗な姉が、二人も出来たかの様なはしゃぎぶりで、慌てる玲一と、どう答えて良いか躊躇するベロニカと紫乃を強引に説得。

「明日も学校だから、夜更かししない」事を約束に、結局玲一は、紫乃とベロニカの宿泊を認める事に。

喜んだこよみは、TVゲームだのボードゲームだの、お気に入りのCDや、

面白い映画のDVDを持ち出して来て、姉二人と過ごす時間に、胸をときめかせている。


 さすがは、美の神、支配の神。

古代アステカの戦士達が、進んで自分の心臓を捧げた程に、ベロニカは、強いカリスマ性を持っているんだなと、玲一は納得しながら、こよみ達の笑顔溢れる賑やかなやり取りを見詰める。

だが、ここでもう一つ、玲一は気付いた。ベロニカのこの優しい笑顔、こよみを包み込む様な、大らかな愛情。

彼女のこよみに対する接し方に、おおよそ、厳格で支配的で、見下ろす様な雰囲気は一切感じられず、まるで、親なのだ。

無条件の愛情で、子供に接する母なのだ。


(……おかしい。やはりベロニカが、この騒動の元凶とは、とてもじゃないが思えない。いかん、もっと情報が欲しい……)


ハッ!とする玲一

いるじゃないか、情報を持っている人達が!

いるじゃないか、自分達よりも多くの時間を、彼女達と過ごしていた人達が!


「ああっ!加納に宿題のノート貸したままだった。ちょっと取りに行って来るから、紫乃さん、ベロニカ、こよみとのんびりしてて」


玲一はおどけながら叫び、ぽか~んとする三人を置き去りにして、お勝手口を飛び出して行った。





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