あかんパターンのやつ
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夢の様なゴールデンウイークもとうとう終わり、人々は普通の生活へと戻って行く。
全国で様々な人々が、「眠い」「だるい」「家に帰りたい」と、楽しかった日々に思いを馳せる、休み明けの初日。
ここ私立青嵐学園の1年A組は、そんな全国に漂う、だらしなくも懐かしい気だるさとは、無縁な空気が朝から漂っていた。
もっと言えば、気だるさとは正反対の、むせる様な熱気と緊張感に包まれていたのだ。
それもそのはず。連休明け早々にいきなり、転校生が二人もクラスに入って来て、
その二人が二人とも、自分の目を疑うかの様な、神々しい美しさに包まれていたからなのだ。
【プリシラ・カナル・ヒメネス】
【ベロニカ・メネンデス】
黒板にそう名前を書き、クラスの生徒達の視線を一身に浴びる二人。
生徒達その視線は、そのほとんどが羨望のまなざし。
この世のものとは思えない、嫉妬すら忘れてしまうほどの美しさの、虜となっていたのだ。
プリシラ・カナル・ヒメネス
身長はそれほど高くなく、150cm代の半ばぐらい。線も細く、非常に華奢な身体つきだ。
しかし、見る者を圧倒させるのはその容姿。
髪の毛が、腰まで垂れたサラサラのストレートの髪の毛が、真っ白なのだ。
それはもちろん、老いた人間の白髪とは全く違い、みずみずしくも、なまめかしい白髪が、まるで白金の様に輝いている。
儚げで見事な白髪、そして透き通る様な白い肌。そして、まるで南国の海の様に、上空一万メートルから臨む更なる高空の様に、
見る者を惹きつけて離さない、吸い込まれる様な真っ青な瞳。
誰が見ても、見とれてしまう、人間離れした、絶対的な美しさ。
それが彼女、プリシラ・カナル・ヒメネスであった。
そしてもう一人の少女、ベロニカ・メネンデス。
隣のプリシラとは、容姿、雰囲気、肌の色あいが180度違う、全く別系統の美女。
身長は175cmほどの長身で、細身でスラリと足の長い少女なのだが、
プリシラの透明の様な肌の白さとは全く違い、南国風の浅黒い肌、つまり小麦色の肌。
それも、サンドペーパーで削りだした様な、安っぽい人工的小麦肌ではなく、太陽の下で養われた、艶々と輝く天然の小麦肌。
そして、ゆるくカールがかかり、フワッと浮いたショートカットの髪の毛。その髪の毛の色が、深く輝くエメラルド色なのだ。
まるで、人類の足が踏み入った事の無い、天空の園で、太陽の光を朝露で反射させながら、風になびく草原。
荒々しく、そして、猛々しさを感じさせながらも漂う気品はまるで、戦乱の地に立つ美の女神の様だ。
そして、クラスの生徒達を見渡す、真っ赤な瞳。「燃える様な」と言う、熱さを表現するのとは違い、一切の雑味や混入物の無い、透明度の高いルビーの様な瞳。
この瞳に見詰められたクラスの生徒達は、まるで、自分の命を投げ出してでも、その少女にひれ伏したい…。そんな感情に包まれていた。
「あの二人が、部長たちが言っていた大物?」
教室内、後方の席で、ぽつりと呟く玲一。
左右に隣席しているクラリッタと加納も、玲一の呟きにうなづいている。
「さて、プリシラと、ベロニカは……どの席に座ってもらうか」
ポツリポツリと、四方八方に存在する空き机。
学年主任でクラス担任の藤間橙子は、どちらをどの席へ座らせるかと、思案を巡らせた矢先、
プリシラとベロニカは、早々と左右から教壇を降り、ツカツカと教室の奥へと進み、
プリシラは加納の目の前に、そして、ベロニカはクラリッタの目の前に立ったのだ。
「……その席、お譲りくださいませ」
深々と頭を下げながらも、加納に無茶な要求をするプリシラ。
その気品漂う礼儀正しさと、要求して来た激烈な内容の差に戸惑い、加納は頭を真っ白にさせながら「え、えっと」と声を出すのが精一杯。
クラリッタの前に立つベロニカは、「席、私がそこに座るから」と、淡々と恐ろしい言葉を口にし、無言のクラリッタと、バチバチと火花を上げて、視線を交錯している。
騒然とする教室内。
いきなり現れた、タイプの違う、空前絶後の美少女二人が、玲一を挟んで座る、クラリッタと加納に、こぞって席を譲れと言って来たのだ。
「あ、あははは…」
困り果てた顔で、弱々しい笑って誤魔化す玲一。
混乱を落ち着かせた加納は、嫌悪感丸出しに、見下ろすプリシラを睨み返し、
クラリッタはベロニカに向かい「何で私が席を譲らなきゃいけないのよ!」と、
机を抱き込む様なジェスチャーで、断固拒否を示している。
「迦楼羅持つ者の隣には、私が相応しいかと存じます」
「いや、迦楼羅の隣には、私こそが相応しい」
(……うわあああ、これは面倒臭えのが来たなあぁ……)
プリシラとベロニカの両名、玲一を熱く見詰めながら、時折、互いを見やり、刺す様な視線を投げかけている。
……なるほど、ライバル同士、いがみ合ってるとは聞いていたが、ここまで一触即発とは。
クラリッタも加納も、二人の姿を見て妙に納得しながらも、今この場で一悶着起こすのはマズイと判断したのか、
沈黙を保ちつつ、この教室での絶対的権力者である、担任教師の介入を待つ事にした。
「プリシラ・カナル・ヒメネス、ベロニカ・メネンデス!後からこのクラスに来たのだから、席替えを行うまでは、暫定的に空いてる席に座りなさい。
それが出来ずに、我を通すなら、自己欲求のみに生きる、知性の無い者と判断するが、それで良いか?」
事態を収拾する為、藤間橙子が声を荒げる。
すると、プリシラもベロニカも、橙子の言葉に自らを恥じたのか、それとも今は時期ではないと判断したのか、
二人とも一言も発しないまま、大人しく空いている席へと、散らばって行った。
「助かった」
「何か、先行きが思いやられるわ」
「ドッと疲れたな」
「放課後、部室で相談しよう。この空気、既に耐えられない」
大型連休明けの1年A組は、波乱の予感をはらませつつ、スタートした。
時間は過ぎて、青嵐学園の昼休み
一年に転校して来た、美少女二人の話題は、瞬く間に学園内に広がり、
男女を問わず、一年生どころか、二年生、三年生までもが、その話題でもちきりになっている。
ここ学食も、その余波は当然受けており、あちらこちらのテーブルから、「髪の白い美少女」「野性的な赤い瞳の美少女」について、
会話が止む事は無く、浮き足立った空気で騒然としていた。
その中のテーブルの一つ、周りの生徒達よりも、一段落ち着いたテンションを保つ生徒達の輪の中に、土岐玲一はいる。
玲一と一緒に食事しているのは四人。弁当を持参した加納とクラリッタ。
そして、玲一に貧乏力を減殺され、明るい人生の予感に笑顔を絶やさない、貧乏神の設楽寺富美と、
いじめ地獄から救い出された、アフリカ系フランス人の、ロロット・サン・マリー・デュモン。
ロロット (通称ロロ)に、これからはみんなで、昼食は学食でとろうと、玲一が提案した結果、ここに集まった集団であった。
ロロと設楽寺富美は同じクラス。二人が普段から会話を重ねたその中に、共通のキーワードが存在し、それが二人の絆を深めた様である。
そのキーワードとはもちろん「土岐玲一が人生を変えてくれた」。今は大の仲良しなのだそうだ。
「あの、ロロットさんは…」
「あっ、ここに集まったのも、何かの縁ですから、加納さん、皆さん、私の事はロロって呼んでください」
「了解分かったよ。それで、ロロは部活動は何やってるの?」
「フランスにいた時は、空手を習ってました。日本に来て、この学園でも続けたいと思ったんですが……」
「ふむ、学園の空手部が苦手なら、地元の忍者道場に通うって方法もある」
「わぁお、ニンジャ!?」
「そうよ、ロロ。加納はニンジャ・マスターだから、本当は強いのよ」
「本当はって何だよ、普段の俺って一体何?」
「あの、土岐さん」
「うん、何だい設楽寺さん?」
「私…オカルト研究会に、入りたいです」
「いいっ!?」
設楽寺富美の唐突な言葉に、目をひん剥いて驚く玲一たち。
言えない、さすがにこの場では言えない。
玲一達が所属するオカルト研究会が、名前こそ研究会でも、その実、第三勢力の出先機関である事など。
そして、妖魔と人間とのトラブルシューティングを主な活動とする、生き神様「伸暁真琴」の、学園生活が終わるまでの揺りかごであるなど、
一般人のロロットがいる手前、いくら富美が貧乏神で、神の列に籍を置く者だとしても不用意に話せる訳が無い。
今でこそ平気な顔をして、目の前で起こる全ての事象を受け入れる玲一達でさえ、
部長の氷見ひまりから真実を告げられるまでに、一晩考えろと時間を与えられたのに。
無言で顔を見合わせる、玲一と加納、そしてクラリッタ。三人が三人とも彼女に対して、何を話して、何を話してはいけないのか、判断に迷っていたのだ。
「おいおい、そんな簡単に決めちゃって良いのかな……」
必死で取り繕う玲一達ではあったが、貧乏神、設楽寺富美の一言が、ロロットの瞳の輝きまでをも加速させてしまう。
「私、私!オカルト研究会に入りたいですぅ。入部届けも書いたし、今日の放課後、部室に行きます♪」
「ええっ!?」
「楽しそうだし、それに、土岐さんも…いるし♪」
……むむむ!玲一を見詰める、富美の表情がおかしい!と、クラリッタの乙女レーダーが危険信号を察知する。
オーマイゴット!こいつも、こいつも土岐玲一狙いなのかと、腹の底で叫びながら、
眉間に皺を寄せ、みるみる表情が険しくなる。だが、だからと言って、この時点で、富美に喰ってかかる訳にもいかない。
怒りのやり場に困ったクラリッタは逆に、富美から熱い眼差しを向けられ、照れる玲一にターゲットを絞り、テーブルの下で自分の足をゲシゲシ!と、玲一の足の上に叩き付ける。
玲一は玲一でクラリッタの不機嫌に気付いたのか、彼女に抗議をせず、ひたすら足の痛さを我慢しながら、「……痛い……痛いよう……」と、声をひそめて呟いていた。
すると、玲一を見詰めていた富美が、ナイスアイデアとばかりに目を輝かせ、「あっ、ロロも一緒に…オカルト研究会に入らない?」とロロットを誘ったのだ。
「入りたい!私もオカルト研究会に入りたい!」
仲間が増える。常識的に考えれば、これほど嬉しい事は無い。
同じ時間、同じ空間、同じ目的、同じ意識を共有する者が増えるのだ。これほど心強い事は無いだろう。
だが、玲一やクラリッタ、加納は、嬉しい反面、複雑な表情をしている。
「無邪気な彼女を、何も知らない彼女を、巻き込んで良いのか?」それが玲一たちが、顔を曇らせる真意だ。
貧乏神の設楽寺富美は心得ているとしても、ロロットは全く何も知らない、ごくごく普通の一般人。
そのロロットが、妖魔と人間の軋轢だの、神々の勢力争いだのと、知って良い情報じゃない、知るより、知らない方が良い事もあるはず。
だが、真相を知らなくても、ライトユーザーとして、楽しく放課後を過ごすと言う方法もある。
(……どうやら、この線だな……)と、玲一たちが考えていた矢先だった。
「私も、妖魔と人間の関係って、物凄い興味あるの。いずれは大学で社会学専攻する積もりでいるし、私も、オカルト研究会に入りたい」
かくーん
玲一達のアゴの外れる音が聞こえる。
何で君が、そんな事知ってるの?と言う驚きと、今までの玲一達の心配が、完全に杞憂であった事が判明し、思い切り拍子抜けしたのだ。
第三勢力、人間と妖魔の共生社会、人ならざる者棲む街などなど、
一般人のロロットが、何故それを既に知っているのか?もし誰かに聞いたとなれば、知識の出どころはもしかして……
玲一、加納、クラリッタの視線が、ただ一人に向かう。
……お前か!……
「ほえ?」
「全く。設楽寺さん、全部ロロットに話したんだね」
素人に何を話してるんだと責められる設楽寺富美。
富美は富美で、多少のセクシートラブルはあったものの、含むところ無く、無償で助けてくれた玲一に感動し、
誰かに、友人に、この気持ちを話したい、語りたいと言うのも、わからんでもない。
「ふええぇ、だって、だって」
顔を赤らめながら、抗弁する富美。彼女の分が悪いのは確かだったが、次第に玲一たちは何故か可笑しくなり、とうとうカラカラと笑い出す。
貧乏神の設楽寺富美が、必死になると、コミカルで何か憎めなく、逆に可愛さを感じてしまっていたのだ。
「ねえ、玲一聞いて」
「何だい?ロロ」
その傍らにいたロロットは、自ら思う所があるのか、身を乗り出しながら、真剣な顔付きで玲一の瞳を見詰める。
「私は富美と同じく、玲一に助けてもらった。玲一がどんな活動してるのかも、富美から聞いたのよ。尊敬するわ玲一、あなたが頑張ってる姿、近くで見ていたい」
(……ガッデム!落ち着け、落ち着くのよ、クラリッタ!……)
「お、俺、そんなたいしたこと、してないって」
顔を真っ赤にしながらうつむく玲一。あまり、誉められる事に対して耐性を持っていない様だ。
オカルト研究会にメンバーが増える。それも、存在理由を知った上で、あえて参加したいと申し出た。
そんな、玲一達にとって嬉しい瞬間に重なる様に、何やら学食内の生徒達が、異様にざわめき出す。
ワイワイ、ガヤガヤと言うカタカナが似合う、賑やかで、快活なざわめきでは無い。
声を殺した様な、周囲には聞かれたくない内容の会話が積み重なった雑音
大量の甲虫が積み重なって蠢く様な、「ザワ…ザワ…」と言う神経を障る音が、学食内に響き渡る。
「あっ、あれは…」
学食内に現れたのは例の少女、1年A組に転校してきた二人の内一人。
真っ白な髪と、透き通る様な白い肌、青い瞳の少女、プリシラ・カナル・ヒメネス。
もう時間も、昼休みの折り返し地点を過ぎたと言うのに、彼女は独りで学食に現れ、食券販売機の前で、オロオロし始めたのだ。
「販売機の日本語、読めないのかな?」
身を乗り出して、一番奥のテーブルから入り口側を覗く玲一達。
周囲のザワつきは、玲一たちのものとは全く異質。噂の人物を目の当たりにしたからなのだろうか、さらにヒートアップ。
美への驚きと共に、侮蔑や嘲笑。あざけりの笑いも混ざり始めた。
「綺麗だけど、見せかけだけだろ?」
「絶対アイツ妖魔だぜ」
「あはは、いくら綺麗でも、妖魔じゃなあ」
「改造手術でも受けたのかしら」
「ウケる~」
そんな、心無い生徒達の会話が耳に入り、「カチン!」とスイッチが入った玲一。
加納も、クラリッタも、玲一と同じ感覚を持っていたのか、
加納は左手を玲一の目の前に出しながら、「今はやめとけ」とポツリ。
クラリッタは玲一の左肩に自分の右手を添えながら、「気持ちは分かるから」と、耳元で囁く。
「どうする?どっちが先に落とすか勝負すっか」
「でも妖魔だろ?マジキメエよ」
ガタリと椅子を吹っ飛ばし、玲一はとうとう立ち上がる。
加納達は、隣のテーブルのチャラ男達の会話が耳に入り、玲一がキレたのかと思い、慌てて玲一の学生服を掴み、玲一を制止するが、
意外な事に、そんな慌てる加納やクラリッタに、玲一は苦笑して見せたのだ。
「大丈夫だよ。それよりあの娘、食券販売機の前で困ってるみたいだから、俺行って来るよ」
と、加納達の気遣いに感謝しながら、スタスタと入り口側に向かって歩いて行く。
「いやはや、凄い人が長野に来ましたねぇ」
「富美は知ってるの?あの人」
「知らないけど、何となくわかります」
ロロットと富美が、プリシラ・カナル・ヒメネスについて話している間に、土岐玲一は話題の中心である、彼女の目の前に立った。
「…迦楼羅様」
「迦楼羅じゃねえよ。俺は土岐玲一だ、よろしく、プリシラさん」
「はい、よろしくお願いします」
ホームルームで、彼女が教壇に立って紹介された時、そして席を譲れと言って来た時、
酷く冷たい印象を受けていた玲一だったが、この時、初めてプリシラの笑顔を見る。
(……綺麗だ、凄い綺麗な人だ……)
彼女を間近にし、改めて彼女の美しさにクラクラとなる玲一。
化粧や付属品装着などの、人工的な美しさでは無い。ましてや、性を全面に押し出した、大人の妖しい美しさでも無い。
目、鼻、口、眉毛、髪の毛、輪郭、首の細さ、その全てが、自然で、ナチュラルで、パーフェクトに美しい。
そして、彼女の醸し出す雰囲気。
付き合い出したり、結婚した途端に手の平を返し、男を自分の踏み台にする様な、
そんな「あざとさ」が微塵も感じられない、まるで聖母の様な、相手を包み込む空気。
その空気にあてられたのか、思わず「ぽけ~」っと、見とれてしまった玲一。
いかんいかんと、小声で頭を振りながら、改めてプリシラの悩みを聞く事に専念する。
彼女の美しさに眩まず、完全に呑まれず、何とか理性は保てた様だ。
「昼食とりに来たんだよね?」
「はい、パンを食べようと購買に行ったら、全部売り切れで、諦めてこちらに来たのですが」
「日本語表記は難しいからね。桑登呂さんは何が食べたい?」
「…迦楼羅が」
「うん?」
「いえ、あの、日本食を試してみたいと存じます」
「日本食か。う~ん、ソバかな?」
「…迦楼羅、いいえ。玲一様の選んだものなら、何でも良いかと」
「むむっ!俺のおすすめに頼るのか!?俺マニアックグルメ野郎だから、当たりハズレの差はデカいぞ」
おどけているのか、真剣に悩んでいるのか、そんな玲一の様を見て、微笑むプリシラ。
周囲の生徒達の目は、完全に二人に釘付けになっていた。
「加納、行くよ!」
「クラリッタ、何考えてんだ?自ら注目を浴びようとするなんて、自殺行為じゃないか」
「これは、テレビで良くやってる【あかんパターンのやつや!】よ。今、玲一とあの娘の急接近は!」
「……急接近は?」
「恋に変わってしまうのよ!」
乙女センサーが危険を察知したのか、げんなりする加納をそのままに、慌てて入り口に向かってダッシュするクラリッタ。
そして、クラリッタに感じたところがあるのか、はたまた、クラリッタの抱く危機に共感を覚えたのか、
後を追う様にダッシュを始めた設楽寺富美と、ロロット・サン・マリー・デュモン。
「面倒臭え程に、かしましいな」
加納はあくまでもクールに、苦笑いしながら、乙女のジェットストリーム・アタックを見守るだけ。
この後、転校生のプリシラは、玲一オススメのエビ天ソバのおにぎりセットに落ち着き、玲一達のテーブルで無事、昼食にありつく。
そして今、謎の大物転校生の一人は、玲一達のグループに打ち解け、笑顔を見せるまでに至った。
だが、しかし、誰もこの時点で気付かずに深刻な、それこそ深刻な事態が、水面下で動き出そうとしていた。
その渦の中心は、謎の少女の一人、プリシラ・カナル・ヒメネスではない。
オカルト研究会に入部する事を決めた、「ロロット・サン・マリー・デュモン」の事である。
彼女は、漆黒の肌を持つ、アフリカ系フランス人。両親の仕事の関係で、日本に移住して来た。
日本人社会に飛び込まざるを得ない、海外移住の外国人。
妖魔の社会と同じく、日本人社会との共生を選ぶにあたり、相互互助の役割を果たす、組織が生まれる。
組織運営的に、迎合的なのか、それとも排他的性質なのかは別として、
ロロット・サン・マリー・デュモンは、実績を作ってしまったのだ。
【第二勢力の人間が、第三勢力の組織に加入した】
表面的には、誰も気付かないが、第一勢力、第二勢力、第三勢力の構図を把握している者達にとっては、衝撃的な出来事である。
この事実が、後々どう影響して来るのか、玲一は身を持って知る事になる。
それも、深刻な衝撃をもって。




