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ドレッドノート・カプリチオ ~勇者狂想曲~  作者: 振木岳人
「伽里田神社強盗事件」編
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「邂逅」 宮代勇作と土岐玲一


 場所は戻り、再び嵐の中心

ひったくり犯の犬型妖魔と玲一が格闘し、ピンチに陥った玲一を、【勇者】宮代優作が助けに入った場所。


いきなり始まった、不審者の妖魔と若者の格闘に、騒然としていたその場も落ち着き始め、

騒動を見ていた参拝客は、徐々に徐々に、夜店の並ぶ参道へと消えて行く。


拘束具を後ろ手に装着され、気絶したままの犬型妖魔。警察が到着するまで、駆けつけた地元青年団員達が、監視している。

その傍ら、松の木に寄りかかり、治療を待つ玲一の姿がある。

そして、未だに出血の止まらない玲一の左腕を何とかしようと、

並んでいる夜店の一つからタオルを強引に借りて、止血の処置を行う、宮代優作の姿があった。


「今、救急車を呼んだ。もうしばらくの我慢だ、きっと良くなる」


「きゅ、救急車!?そ、そんな大した傷じゃ…」


「いや、大した傷だよ。これ何針か縫わないとマズいし、あいつの牙はね、雑菌や細菌が凄いんだ。

妖魔【山犬】の群れの一匹だとは思うが、連中、人間との共存を拒否しててね」


「山犬ですか。共存を拒否したとは?」


「妖魔の全てが、人間との共存を選んだ訳じゃない。正直言って、4割近くの妖魔は、まだ中立や敵対を繰り返してる。山犬は群れで活動しててな、三登山を根城にしてるんだ。」


宮代は、沈痛な面持ちで、止血処置をしていた玲一の左手に、自分の手を添える。


「すまない。俺は、祭りが無事に終わる様に、三登山を見張っていたんだが、一匹見逃した様だ。本当にすまない」


「いや、俺大丈夫です、気にしてないです。それよりも、ひったくりに遭ったおばあちゃんが心配で」


「いやいや、それよりもじゃないだろう!大した大怪我だぞこれ」


止血処置が終わっても、タオルに滲んで浮かぶ血の量を見て、心配そうな優作。

だがそれでも、被害に遭った老人を気遣う玲一に何かを感じたのか、優作はこれ以上無いほどの笑顔で、

おばあちゃんは、俺の仲間が保護した、転んだ時の擦り傷だけだから安心しろと、玲一を落ち着かせる。

それを聞いた玲一も、心の底からホッとしたのか、良かったです、本当に良かったですと、我が事の様に喜んだ。


「もう終わったんだ、一件落着だ。だから君も、自分のケガの心配をしろ」


「いや、それがですね……救急車のキャンセルとか、出来ないですかね?」


「はあっ?いやヤバいって。病院ぐらいは行っとけよ。傷の手当てもそうだが、抗生物質とか注射しなきゃって、うん?何で君は救急車を拒むんだい?」


「いや…その、ほら。俺の友人が、奉納の舞いに出るもんで、最後まで見てたいなあって」


【友人が奉納の舞いに出る】

それはつまり、伽里田神社の鎮守、自分自身に奉納の舞いを捧げる、伸暁真琴の事を言っており、

彼女の事を「俺の友人」だと表現する玲一の意味に、優作は気付いた。


鎮守の神と友人と言う事は……。何とも言えない笑顔を玲一に向ける。


「そうか、奉納の舞いが見たいか」


「はい」


「ブッブー!ダメです、ダメです、駄目なのです。君は救急車に乗るんですぅ!」


「えええ…、マジすかぁ」


困り果てる玲一の顔が面白かったのか、ふふふ、あはははっ!と、盛大に吹き出した宮代の、屈託の無い、快活な笑い声が辺りに響く。

そして、急に笑い出した宮代に驚いた玲一も、何故か急に、そのやり取りが可笑しく思えて来たのか、あははは!と、誰はばかる事無く笑い出した。


お互いにしばらく笑うだけ笑い、そして互いに不敵な顔つきへと変わる。

何か、互いが互いを認めるような、そんな視線が行き交っていた。

すると、宮代優作は玲一に向かい、すっと右手を差し出す。


「俺は、宮代、宮代優作だ」


「土岐玲一です」


右手でがっしりと握手する。


 人間の肩を持つ

 妖魔の肩を持つ

 日本人の肩を持つ

 外国人の肩を持つ

 神々の肩を持つ


そんな、主義主張の枠からはみ出し、この街で生きて行く前提として、【この街を護る】【良い事は良い、悪い事は悪い】と、

是々非々を自分に課して行こうと決めた二人が、今しっかりと握手した。


それは、共闘を意味するのでは無い。

宮代優作が玲一の瞳の中に、自分自身を感じ、そして土岐玲一が、宮代の瞳の中に、自分自身を感じたと言う事。

つまりはライバル、つまり互いは鏡、自分を映す鏡。


 ……自分自身に恥じない様に生きる……


それを、互いに確認したのだ。


 祭りの余韻を打ち壊すかの様に、けたたましく鳴り響く、パトカーや救急車のサイレン。

ゆっくり傷直せやと、宮代は玲一の右腕を引っ張り、起き上がらせる。


いつの間にか、その光景を背後から静かに見ていた加納が、玲一と加納の帰りを待つひまり達に対し、携帯電話で連絡を取っている。

その加納の表情も、先ほど千年魔女に見せた様な、鬼の形相では無い。

玲一と宮代の関係、そして彼らの笑顔を見て、どこか感じるところがあったのか、穏やかな表情の中、口元に苦笑を含んだ笑みをたたえていた。


 祭りは終わる


祭り自体はまだ終わらず、奉納の舞いで真琴の出番を待つばかりなのだが、救急車で搬送を待つ玲一の祭りは終わった。

不完全燃焼だったかも知れないが、彼の今後を左右する、貴重な出会いがあり、

彼の思い出の中では、忘れられない祭りになったはずであった。




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