表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドレッドノート・カプリチオ ~勇者狂想曲~  作者: 振木岳人
「新たなる仲間・ロロット・サンマリーデュモン」編
36/74

我が友人を害する者は、粉々に粉砕する


 玲一達の前に現れたのは何と、生徒会長の義仲藤十郎。

前回同様、料理がたっぷりと乗ったトレーを手に、玲一の座るテーブルへとやって来た。


「座るぞ!」


「ヒッ!」


誰の断りも無く、何の遠慮も無く、義仲藤十郎はロロットの隣にドン!と勢い良く座り、

玲一をじっと凝視しながら、神速の勢いで、昼食にありつき始めた。


 ……うわああ、面倒くさいのが来たぁ……


 義仲は相変わらずの、ハイカロリーランチ。

玲一に対抗したのか、カツカレーのごはん富士山盛り。そして、味噌汁代わりであろう長崎ちゃんぽんに、野菜を採るつもりなのか、麻婆茄子を単品で。

そして、それはまるで、玲一に早食い勝負を挑むかの様に「グァツグァツ!」と、かき込み始める。

もちろん、視線は玲一の瞳に固定したまま。


「ムッ!」


勝負を挑まれている事を、察知した玲一。玲一のカツカレーは既に、三分の一を残すだけだが、

義仲を睨み返しつつ、義仲に負けず劣らずの勢いで、「グァツグァツ!」とかき込み始めた。


「あ、あの…?」


流れが全く読めず、うろたえるロロット。しかし、あっという間に残りのカレーを平らげた玲一が、

リスの様に、ほっぺたをパンパンに膨らませながら、「ロロ、行こう」と、席を立つ。

すると、やはり、ほっぺたをパンパンに膨らませた義仲が、「どこへ行く、土岐玲一!」と怒声を放つ。


「ええ!?いや、あの、食べ終わったんで、学食を出るんですが」


「彼女はまだ、食べ終わってはおらん!」


ハッとする玲一。確かにロロットは、ホットドッグもフライドポテトも、食べ終わってはいない。


「あ、あの、私…。もう、お腹いっぱいなので」


 義仲と玲一の、一触即発の空気を察知したロロット。玲一の立場が悪化しない様にと気を配り、彼女も席を立とうとする。

しかし、義仲は意外な事に、「君は座って、昼食をしっかり採りなさい」と、玲一の時よりも、格段優しげな声で、ロロットを制する。

そして玲一に向き治り、再び吠えたのだ。


「土岐玲一、貴様は、同席している友人も紹介出来ない程に、一般常識を持たぬ奴なのかっ!」


「はあっ?」


どうやら、生徒会長の義仲藤十郎は、玲一に向かい、「ロロットを俺に紹介しろ」と、言っている様だ。


「あ、あの…えっと、生徒会長。こちらは、1年C組の、ロロット・サンマリ…」


「ロロット・サンマリーデュモンです。よろしくお願いします」


 なかなかに名前が覚え辛いのか、口ごもる玲一に対し、ロロットはクスッと笑いながら自ら名乗った。

すると、高圧的だった義仲は、その世紀末覇者の様な空気を抑えようともせず、さりとて礼儀をわきまえているとばかりに、

「私立青嵐学園、生徒会長の、義仲藤十郎である」と、いかつい顔で、しっかりとロロットに名乗ったのだ。

そして驚く事に、義仲はロロットに右手を出し、握手を求めて来た。


恐縮しながら、義仲と握手をしたロロット。心なしか、ロロットの右手が震えている事に、玲一は気付く。


 ……生徒会長は生粋の日本人だ。そして今、彼女を絶望の淵に立たせる日本人、その中の一人だと、ロロットはそう思って警戒しているのかな?……


彼女の怯えを察しようとすると、玲一の腹の底が、ギュッと絞られる様な感覚に襲われる。

このままじゃダメだと思う、その焦りが、玲一の言葉となって、義仲へとぶつけられた。


「生徒会長、聞いてください」


「何だ」


「ロロットは妖魔じゃないですよね?」


「当たり前だ、それがどうした」


「彼女、いじめられてるんですよ。人間から、あなたの大好きな日本人から!」


「むうっ!?」


いきなり、瞳の奥に、猛烈な怒りを秘めた玲一が、義仲に食ってかかる。

あんたは一体、何を大切に思い、何を護ろうとしてるんだ!と、痛烈に義仲を批判したのだ。


もちろん、義仲がいじめの当事者、加害者では無い。義仲に非は無い。

ロロットには、それが分かるので、逆に玲一に対して「玲一、失礼だよ」と、玲一を制止している。

だが、ロロットは事の成り行きを知らないだけで、過去に玲一が妖魔の肩を持ったと責めたのは、何を隠そう目の前にいる、義仲藤十郎。

何が何でも、人間を、日本人を護ろうとしているのは、義仲藤十郎なのだ。


「いや、ロロット言わせてくれ。いじめなんて、言葉で誤魔化してるけど、これは人種差別だ。人間は、日本人は…、寛大で寛容な、民族じゃなかったんですか!」


自分の声の、百倍以上もの怒声が返って来る事を、覚悟している玲一。しかし、意外にも、義仲藤十郎は玲一に怒鳴り返さない。

むしろ、その作った様な、巌の表情さえ影を潜め、曇りの無い眼で、玲一を見詰めている。

そして玲一も、ロロットも、コソコソと成り行きを見詰める生徒達も、義仲藤十郎の口から、意外な言葉を聞く事になった。


「まったく、ギャアギャアと良く吠える。土岐玲一!貴様はいつから口先弁士になった?」


「なっ、なっ…!」


「いじめの被害者から信頼され、相談を受けたのは、良しとしよう。それが貴様の人となり、貴様の財産だからな。

だが、公衆の面前で、少女を泣かし、そして、当事者でも無い我に噛み付くとは、どこまで有頂天になっておる、この痴れ者がっ!」


「くっ…!」


ロロットを泣かしたのではなく、偶発的なトラブルであったのだが、それ以外の義仲の言葉に、反論どころか、ぐぅの音も出ない玲一。

唇を真一文字にしながら、睨む事しか出来ない玲一を後目に、義仲はロロットに顔を向ける。


「ロロット・サン・マリー・デュモン」


「はい」


「先ほど、我と握手したな?」


「はい、しましたが…」


「ならば、我とも友人と言う事だな!」


「へっ?ええ?」


「うむ、土岐玲一の友人の、ロロットは、我とも友人と言う事だな!」


ポカンとする玲一とロロットを尻目に、ガタンと椅子を揺らし、義仲藤十郎は立ち上がる。

そして、玲一とロロットには視線を向けず、学食にいる生徒全てを見回した。


「私立青嵐学園、生徒会長、義仲藤十郎である!!生徒会長より達する、この場にいる、一年生は手をあげろ!!」


 ザワつく学食内

それでも、学園の絶対権力者である、生徒会長の命令は絶対。男女を問わず、一年生は席に座ったまま、ゾロゾロと挙手をし始める。

「うむ」と呟きながら、それを確認した義仲、目をカッと見開き、今日、本日、一番デカイ声を轟かせ、一年生に命令を発した。


「生徒会長、義仲藤十郎と、1年C組の、ロロット・サンマリーデュモンは友人である!我が友人を害する事、何人なんぴとたりとも、これ許さず!

我が意志に反し、我が友人に害成す者、一切の容赦無く叩き潰す!義仲藤十郎の名において約束する、我が友人を害する者は、粉々に粉砕する。この拳でだ!」


 驚く一年生達。いや、一番驚いたのは、玲一とロロットの二人であろう。

いきなり、玲一にとっても、ロロットにとっても、初対面に近い生徒会長が、予想外の宣言をしたからだ。


義仲は再びドスンと席に座り込み、残っていた自分の食事を、「グァツグァツ!」と食べ始める。


「あ、あの…生徒会長…、ありがとうございました」


ロロットは、おっかなびっくり、義仲にお礼を言う。

確かに、権力者が弱者の保護を宣言したのには、違和感がある。

今度は、「ロロットは特別扱いされてる」と、必ずやっかみの声が湧く。

それがきっかけで、もっと立場が悪くなる可能性もあるのだ。

それでも、ロロットは義仲に向かい、礼を述べたのだ。


「礼などいらぬ、食べる物食べたら、早く行くが良い」


ロロットがそれでも、「ありがとうございます」と連呼しながら、ホットドッグとフライドポテトの残りを急ぎ食べる始めるも、

その間、玲一と無言でじっと睨み、それを返す形で、義仲は玲一を睨みつつ、再び昼食を神速の勢いで胃に放り込み続ける。

結局は、ロロットよりも義仲の方が、昼食を早く終わらせてしまった。


「ふう」と、満足の吐息を一つ漏らす義仲、ゆっくりと立ち上がり、そしてトレーを持って去って行く。

義仲に一喝された玲一は、結局、一言も言い返す事が出来ずに、義仲の背中を凝視するだけ。

何故なら、圧倒的な敗北感に包まれていたからだ。


 ……ロロットが泣き出した事を、知っていると言う事は、会長は最初から俺達を見ていたんだ……


 ……そして、周囲の注目を浴びる俺達を助けようと、直接乗り込んで来た……


 ……ロロットを救う事は、その場の思いつきかも知れないけど、躊躇無く宣言していたし……


 ……本当は良い人なのかな?いや、まさかな。考え過ぎだ、あの会長が……


答えの出ない疑問が、玲一の脳内をぐるぐると巡っている。

救いだったのは、玲一が義仲に負けた事で、普通の人間ならば抱くであろう「恨み」を、義仲に抱いていないと言う事。

自尊心を傷つけられて、それを恨みに感じて、物事の是々非々すらも見えなくなってしまう、玲一ではなかったのである。


そんな時、何か言い忘れた事があったのか、義仲はピタリと歩みを止め、背中を向けたまま、玲一に声を掛けて来た。


「土岐玲一!」


「な、なんですか!?」


「……学園第二勢力の幹部とは、接触するな」


そう一言残し、義仲藤十郎は去って行く。

呆気に取られたまま、その背中を見詰める、玲一とロロット。

義仲がいきなり切り出した言葉の内容に、戸惑うばかりで結局は、玲一にはわからなかった。



 【第二勢力】

以前、オカルト研究会の部長、氷見ひまりが説明してくれた。


 この長野の、日本人社会を守る組織が、第一勢力

 そして、海外からの移住者を守る組織が、第二勢力

 更に、八百万組合に代表される、妖魔を守る組織が、第三勢力


この、第二勢力の幹部に関わるなと、生徒会長は言った。これが、どんな根拠があって、玲一に言ったのかは、今の玲一には、知る由も無い。

ただ、このロロット・サンマリーデュモンの身柄を巡り、この夏、オカルト研究会と、学園第二勢力の間で、大々的な戦争が起こる。

ロロット・サンマリーデュモンとは、第二勢力にとって、それほど重要な人物であったと言う事なのだが、今はゴールデンウィーク前。

湖に投げ込んだ小石の波紋は、おおきな「うねり」に成長するまでにはまだ、数か月の時間があった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ