強敵にはだいたい弱点が存在する
色々とあった気がするが、とりあえずディメンションなスライム相手にスキルを使用するという目的は果たせた。
その結果として私のスキルは奪われてしまったけれど、スケープゴートの効果自体は持続している――はず。
未だにスライムとの繋がりを感じるので間違いない。
となれば次は検証だ。
「さぁ、誰でも構わないんで、遠慮なく撃ってきてください」
「…………無理です」
まさかの命令拒否。
流石に護衛が護衛対象を撃つのは不味いか。
仕方ない。
無言でファナと目を合わせる。
次の瞬間、彼女の持つ魔導銃が光を放ち、胸部に衝撃が走った。
位置的には心臓の辺りだろうか。
(遠慮するなって言ったけどさぁ……)
「お嬢様!!」
侍女による突然の凶行に騎士の面々が叫ぶ。
そんな中、ガラルド隊長だけがすぐさまファナへと銃口を向けた。
「問題ないよ。銃を下ろして」
「はっ!」
命令に従い、直ぐに魔導銃を下ろすガラルド隊長。
もちろん本気で狙ったわけではなく、部下にお手本を見せるための行動だろう。
他の騎士たちはその様子を呆けた顔で眺めているけど、咄嗟に動けなかった彼らを待っているのは地獄の特訓コースだ。
「ファナも後でガラルド隊長に怒られそう……」
「身近な人間が味方とは限らないし、止められなかったのは護衛の責任だよ。そもそも撃てって言ったの私だし、怒られるとしたら私じゃない? それよりファナ、本当に遠慮なく撃ったね」
「ちゃんと鎮圧用の雷属性魔導弾にした。それでも当たったらしばらくは動けないはずなんだけど……問題なさそう?」
「ご覧の通り」
怪我一つない。
「ブラックスライムは?」
「元気に餌を食べてるね」
「怪我どころか麻痺すらしないとか……せめて衝撃で吹き飛ぶくらいはして欲しかった」
「嫌だよ。服が汚れるし」
「えー……」
令嬢の服なんてオートクチュールが当たり前なんだから、そう易々と汚せるわけない。
とはいえ、この服は胸元が焦げてしまったから廃棄だろう。
「大したものですな。まさか魔導銃の一撃を受けて平然としてらっしゃるとは」
「恩恵様々だね。けど試したいことは他にもあるんだ。運び入れた荷物の中に塩はあるかな?」
「塩ですか? もちろん緊急時に備えて用意しておりますが……おい、お前らいつまでも突っ立ってないですぐに塩を用意しろ!」
ガラルド隊長の一喝で騎士たちが慌ただしく動き始める。
その様子がどこかコミカルで思わず笑ってしまったのはご愛敬。
ファナと二人でそんな彼らを眺めていると、一人の騎士が駆け寄ってきた。
「お嬢様、こちらがご所望の塩になります」
「ありがとう!」
背嚢から取り出される二つの白い塊。
ご丁寧にパッケージされ、表面に「塩1kg」と表記されている。
現代かな?
「塩なんて用意してどうするの?」
「スライムに掛けるんだよ。パァっとね。そこの騎士さん、新しいスライムを呼び寄せてこの塩を掛けてもらえる? 間違ってもそこにいるスライムに掛けないでね」
ついでだからと塩を運んでくれた騎士にお願いすると、怪訝な顔をしながらも元気に返事をしてこちらの指示に従ってくれた。
「準備をしますので、今しばらくお待ちください」
「うん、お願い」
「……お嬢さまって時々変な行動するね」
「そう? 必要だと思ったことをしているだけだよ」
今回も必要だからスライムに塩を掛けるだけ。
断じて変な行動ではない。
たぶん。
さて、そんなことを考えている間に新たな短剣が置かれた。
あとは天井からもう一匹、スライムが降りてくるのを待つだけだ。
「塩ならあそこのスライムに掛ければいい」
「それはダメ」
スキルを交換した今、あのスライムは弱点が消失しているはずだ。
塩を掛けても倒せない可能性が高い。
そんな相手に塩の無駄使いをしたくないし、万が一スキルが消えてしまったら私は泣く。
「お嬢様。スライムが降りてきました」
「餌に食らいつくのを待ってから塩を掛けて。一気に掛けちゃダメだよ? 少しずつね」
「はっ!」
再び天井からにゅ~んと降りてくるスライム。
漆黒の体が短剣に覆い被さると、騎士が近寄ってゆっくりと塩を掛けていく。
なんともシュールな光景だ。
その様子を全員で見守ってしばらく、スライムに変化が起きた。
突如として体積が減り始め、そのまま消滅したのだ。
ポコポコと泡立つことなく、ドロッと溶け出すこともなく、緩やかに縮んでスーッと消えていった。
おそらく世界で初めてスライムが討伐された瞬間である。
「……嘘」
「いやはやこれは……」
唖然とするファナとガラルド隊長、そして騎士たち。
そんな彼らに脇目もくれず、スライムがいた場所を確認する。
「うーん、思ったよりも塩を使うんだね」
仮定だが、呪いの効果は存在の消滅だろう。
ならばその呪いが発動するために必要な塩の量を調べる必要がある。
消えた場所を見た感じ、丸々一袋分の塩を使いきっているので、一掴みの塩程度で呪いが発動する心配はなさそうだ。
量ではなく接触時間の線も考えてみるが、頭の奥で聞こえた声が『一定量の塩分に接触することで呪いが発動します』だったので、今はそれを信じることにする。
そもそも呪いの効果すらディメンションスライムに流れるとすれば、考えるだけ無駄というものだろう。
「お嬢さま。平然としてるけど、歴史に残る快挙だよ?」
「平然とはしてないよ。塩作りに携わった皆さんに感謝するくらいには喜んでいるからね。今はそれよりやっかいな問題があるってだけ」
プンスカするファナに拳大の石を拾って見せる。
「これは?」
「魔石だね。中級の。スライムがいた場所に残ってた」
「魔石ですか……確かにこれはマズいですな」
「あ、あの、魔石の何がマズいのでしょうか? 領地から魔石が得られることは喜ばしいことでは?」
ファナとガラルド隊長を含めた三人で話し込んでいると、先ほど受付のロビーでお説教された新米騎士が会話に入ってくる。
一度の失敗で挫けず、疑問に感じたことを質問できるとは……なかなかの度胸だ。
「うーん。騎士さんはシェルブール領の産業って分かる?」
「え? え~っと、農業ですか?」
「うん。耕種と畜産をやってるし輸出もしてるよ。他には鉱業かな。金属と非金属の両方。あとは採石も。正直大分潤ってるシェルブール領だけど、恵まれなかったものもあるんだ」
「迷宮ですよね? しかし、スライムから魔石が手に入った今、その憂いも無くなるのでは……」
「それは――」
「アセロラよ、お嬢様が仰られておるのは他領との力関係の話だ。魔石は軍需品としての側面が強い。今までは輸入に頼っていたからこそなにも言われなかった。だがこの魔石が表に出てしまえば周辺の領主は良い顔をしない」
「そう。ただでさえ食と鉄が強いのがシェルブール領。武器だって自領で造ろうと思えば造れる。これ以上力を持つと難癖付けられそう」
「な、なるほど……ご教示いただきありがとうございます」
最後まで語ろうとしたらガラルド隊長とファナにセリフを取られてしまった。
大体合ってるから良いけれど、やはり二人の目から見ても他領とのパワーバランスは崩れてしまうようだ。
シェルブール家は王家から距離を取っているので、告げ口でもされて反意ありとされるのは非常にまずい。
最悪、ダンジョンが召し上げられてしまう。
「はいはい、難しい話はお父様に丸投げするとして。悪いけど今ここにいる全員、今日見聞きしたことを口外しないよう、帰ったら誓約書に署名して貰うね。もちろん口止め料は出すから楽しみにしてて」
「「はっ!」」
うん、全員問題なし。
ありがたい限りだ。
「さて、話すべき話も終わったし最後の検証といこうか。塩は余ってるよね?」
「こちらに」
足元に再び塩の袋が運ばれる。
これだけの量があれば問題ないだろう。
「お嬢さま、今度はなにする気?」
「んっ? こうするだけだよ? えいっ!」
呆れた顔をするファナを尻目に、自身の両手を袋の中に突っ込んだ。




