新米パーティー
試験当日。
朝靄の立ち込めるギルド前広場には、すでに人の姿があった。
今回の昇格試験でパーティーを組むことになったメンバーたちだ。
「お、おはようございます……! えっと、自分、ジークと申しまして! 本日はお貴族様の……お、お命をお預かりする気持ちで……っ!」
「ちょっとジーク、噛みすぎ! 失礼でしょ! 申し訳ありません。私はマルタといいます。こっちは幼馴染のジークで……えっと、お見知りおきを……?」
声をかけてきたのは背中に魔導銃を背負った軽装の青年ジークと、その隣で彼の脇腹に容赦ない肘打ちを叩き込んでいる魔術師の少女マルタ。
二人はガチガチに緊張しており、言葉遣いも怪しい。
「……ボリス、です。近接の魔導散弾銃を……使わせて、いただきます。はい」
少し後ろで控えていた大柄の男ポリスが、大きな散弾銃を抱えながら体を小さくして挨拶してくれた。
「初めまして。リーチェ・ルマリア・シェルブールと申します。こちらは侍女のファルミナです。二日間、よろしくお願いしますね」
「リーチェ様に同行いたします、ファルミナ・リリアム・ロスナートと申します」
ファナが一礼して家名を口にすると、ジークさんとマルタさんの顔色がさらに青ざめた。
「(家名があるってことは……侍女さんも貴族じゃない!?)」
「(マジかよ! お貴族様が二人もいるのかよ!?)」
ヒソヒソ声のつもりだろうが丸聞こえだ。
今にも倒れそうな二人を見て、思わず表情が緩む。
「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。迷宮の中で緊張しすぎると指示や連携が遅れて危険ですから、普段通りの言葉遣いで話してくださいね」
和やかに告げると三人は目に見えて肩の力を抜いた。
「た、助かった……生きた心地がしなかったぜ……」
「だから馴々しいって。でも、リーチェ様がそう言ってくれるなら甘えるわね。ありがとう」
「……気遣い、感謝する」
張り詰めていた空気が和らぎ、ジークさんとマルタさんは軽快なやり取りを取り戻す。
ボリスさんも息を吐いて姿勢を崩した。
「さっそくですが、まずはリーダーを決めないとですね。私たちは探索経験が浅いのでどなたか慣れている方に任せたいのですが」
切り出すと三人は即座に首を横に振った。
「いやいやいや! 無理だって! 貴族のお嬢様を差し置いて俺たちがリーダーなんてできるわけねぇだろ!」
「そうよ! もし万が一のことがあったら責任持てないわ……お願いだからリーチェ様がやって!」
「頼む」
すさまじい勢いで押し切られてしまった。
断る時間も勿体ないため、素直に引き受けることにする。
「分かりました。では、私がリーダーを務めますね。改めてよろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします」」」
さて、どうするか。
役割分担を整理しておこう。
パーティーの構成は、魔導銃使いのジークさん、魔術士のマルタさん、後方支援のファナ、そして魔導散弾銃使いのボリスさん。
「では私が前衛を務めますので、皆さんは後ろから攻撃してください」
申し出た途端、その場に凍りつくような沈黙が訪れた。
「……? いま何て?」
「お嬢様が前衛? 俺たちを後ろに置いて一人で敵の攻撃を受けるってことか?」
ジークさんとマルタさんが困惑の表情を浮かべ、ボリスさんも眉をひそめてこちらを覗き込んでくる。
「お嬢様。俺は散弾銃持ちだから、前に出るべきは俺だ……」
「大丈夫ですよボリスさん。私は攻撃を受け慣れてます。皆さんは後方から安心して攻撃してください」
「……正気かよ」
あまりの提案に三人は言葉を失っていたが、後ろに控えるファナが睨みを利かせて無理やり承諾させた。
一先ずパーティーとしての形が決まったので出発の準備を進めていると、ジークさんが恐る恐る声をかけてきた。
「なぁ、お嬢様。これから一泊二日の試験だよな? 荷物はそれだけなのか?」
「はい。必要なものはすべて【空間拡張鞄】に入ってますから」
背中に背負ったバッグを指さすと、三人は目を見開いた。
「空間拡張鞄!?」
「すご……実物初めて見たわ……。空想上の遺物かと思ってた……」
興味深そうにバッグを見る三人。
納得してもらえたところで最初の指示を出す。
「では皆さん。さっそく迷宮へ向かいましょう」
迷宮の内部はひんやりと冷たく、外の暑さが嘘のようだ。
どこかで試験官が見ているのだろうが気にする必要もない。
陣形を維持しながら慎重に進む。
先頭に私、すぐ後ろにボリスさん、後方にジークさんとマルタさん、最後尾にファナという配置だ。
通路の角を曲がったところでさっそく魔物の群れが姿を現した。
立ちふさがったのは、巨大な前歯を持つジャイアントラットの群れと棍棒を手にしたゴブリンたち。
計十頭ほどの集団だ。
「敵だ!」
ボリスさんが叫び散弾銃を構えるが、魔物たちは彼を完全に無視して真っ直ぐこちらへ殺到してくる。
「本当にあなたたちは私が好きだね」
以前から疑問だったが、どんな状況でも魔物が私を最優先で狙うのは、私とグミにかかっているスキルの影響だろう。
スケープゴート――つまり、生贄。
スキルそのものが魔物の殺意を惹きつけているのだと、最近になってようやく理解した。
「お嬢様! 危ないっ!」
先頭のジャイアントラットたちが跳びかかってくる。
素早く身体を滑り込ませてゴブリンの振り下ろす棍棒を受け止めつつ、跳んでくるネズミたちを片っ端から後方へ弾き飛ばしていく。
打撃を受けるのは問題ないが、あのネズミに直接触れられるのは嫌だ。
「すごい……魔物がことごとく弾かれてる」
「おいおい冗談だろ? 棍棒で叩かれてるのにビクともしねぇぞ」
後ろからジークさんたちの驚く声が漏れてくるが、浸っている暇はない。
「ボリスさん今です!」
「っ! 了解ッ!」
ボリスさんが肉薄し、至近距離から散弾をぶちかます。
炸裂音が響き渡り密集していた魔物たちが一気に吹き飛んだ。
「ジークさん、マルタさん。追い打ちを!」
「お、おう!」
「任せて! ――≪集うは悠久の褐、原初の土塊よ、万象を踏みにじる楔となれ≫」
ジークさんの正確な射撃とマルタさんの土魔術が追い打ちとして叩き込まれる。
これには流石に魔物たちも耐えられなかったようで、戦場はあっけなく静寂を取り戻した。
「お疲れ様です」
「お嬢様……あんた本当に頑丈だな……」
「ふふっ、攻撃を受け止めるのだけは得意なんです」
そう言って答えると、ボリスさんは無言のまま散弾銃を担ぎ直した。
「……今回の試験は楽できそうだ」
その後もトラブルらしいトラブルはなく、順調にダンジョンを進んでいく。
集中する攻撃を私が全て受け止め、ボリスさんが崩し、後方の二人が仕留める。
浅層ということもあり強敵も現れず、夕刻前には予定していた目的地の小部屋へ到着した。
「無事に着きましたね。今夜はここで明かしましょうか」
声をかけると三人はその場に腰を落とした。
「こんな簡単に魔物を倒せたの、人生で初めてだわ」
「お貴族様のお守りかと思ってたけど、お守りされてたのは俺たちの方だったな」
ジークさんとマルタさんが顔を見合わせる。
「さて、夕食にしましょうか。ファナ、準備をお願い」
「かしこまりましたお嬢さま」
ファナが【ランドセル】から大きめの鍋と調理器具、そして新鮮な食材を取り出し始めた。
「えっ、生の肉と野菜? まさか迷宮の中で料理するのか?」
「私たちなんて干し肉とパサパサのパンしかないのに……」
お腹を鳴らす三人を見ながらファナが手際よくスープを仕込んでいく。
「皆さんの分も用意してありますよ。良ければ手伝っていただけますか?」
「ファルミナ様、私に味付けを手伝わせて! これも入れていい?」
「俺の干し肉もダシに使ってくれ!」
マルタさんとジークさんが嬉々として調理に参加し、ボリスさんが無言で見張りに立ってくれる。
鍋からは香ばしい湯気が立ち上り、殺風景な小部屋に食欲をそそる匂いが満ちていった。




