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落ちこぼれ伯爵令嬢は塩に弱い  作者: 流川 銅


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お散歩

 迷宮都市の復興作業もつつがなく進み、デュカの探索者組合にはかつての活気が戻りつつある。

 探索者たちで行き交う館内も、今では耳を塞ぎたくなるほどに賑やかだ。


 とはいえ建物自体は未だ半壊のまま。

 崩れ落ちた天井の一部からは今日も雲ひとつない青空が見えていた。


「お嬢さま準備できた」


「うん。それじゃあ、行こっか!」


 隣に立つファナと並び、混雑するフロアを通り抜けて転移陣へと向かう。


 目的地は迷宮の深層。

 ファナが新たに修得した魔術の検証をする為だ。


 本当なら浅層で試したかったのだが――彼女の魔術を人で溢れる層で試せば、予期せぬ事故やパニックを引き起こす可能性がある。


 それらを完全に避けるには相応の場所を選ぶ必要があった。


「四十階で良い?」


「んっ」


 前回の探索でキングミノタウロスを討伐したため、すべての階層への移動が可能になっている。


 石造りの部屋に入ると文字盤に触れて行き先を合わせる。

 すると足元から淡い光が立上がり、視界が真っ白に染まった。




「ふぅ……慣れないね」


 肌を打つ空気が一変した。


 深層特有の冷気と湿り気、そして人工的な石造りの壁。

 ここなら心置きなく検証を行えるだろう。


 薄暗い通路を歩きながら自身の身体に意識を向ける。


「やっぱり、疲労を感じにくくなってる」


「んっ、体が軽い」


 戦闘の積み重ねによるレベルアップの影響だろう。

 長時間の歩行を続けても息が乱れることはなくなった。


「魔物の数は増えてるのかな?」


「たぶん大セール前に戻ってる」


「本来の深層というわけだね」


 大セールの渦中は閑散としていた迷宮内部だが、時が経ち、本来の危険な気配を取り戻していた。


 会話を交わしながら進んでいると前方から足音が聞こえてくる。


 通路の奥から現れたのは、もはや顔なじみのミノタウロスが二体。

 巨躯の後方には杖を構えたゴブリンシャーマンと弓を手にしたコボルトアーチャーが数体控えていた。


「ファナ、私の後ろに」


「りょ」


 彼女の返事を合図に、巨体を揺らしながらミノタウロスが突進してくる。


 後方からはコボルトアーチャーが放った矢とゴブリンシャーマンの放った炎が次々と飛来した。


「ご苦労様」


 手に持ったハンマーを、ミノタウロスへ向け振り下ろす。


 ――ピコッ。


 突撃の勢いを保ったまま跳ばされたミノタウロスは、その後を走っていた二頭目の巨躯へ真後ろから激突。

 鈍い音と共に体勢を崩し、二頭揃って石床へと倒れ込む。


 そのままシャーマンやアーチャーたちが放った攻撃を食らい、敵の陣形が一瞬で崩壊した。


「今だよファナ」


「んっ。――≪集うは清冽の青、揺蕩う泡沫よ、無慈悲なる奔流となりて、万象を穿て≫」


 彼女の周囲に数多の小さな水弾が形成される。

 そしてそれらが一斉に飛翔し、前方の魔物たちへと着弾。


 激しい打撃音が響き渡る。


 後方に控えていたゴブリンシャーマンやコボルトアーチャーたちは水弾の雨(マシンガン)を全身に受け、魔石へと変わる。


 ミノタウロスに対しては、分厚い皮膚を削り取りはしたが、血飛沫を上げさせるだけにとどまった。


「意外と丈夫なんだね」


「深層の魔物は強い。ファナの魔術でも大型は倒せない」


「なら【水鉄砲】の出番だね」


「むぅ、仕方なし」


 ファナはランドセルから【水鉄砲】を取り出すと、引き金に指を掛ける。


 直後、水鉄砲の銃口から放たれたのは巨大な水塊ではなかった。


「――っ!?」


 光線かの如く、鋭利な一筋の束が空気を引き裂く甲高い音と共に射出される。


 それは先ほどの【ウォーターバレッド】に耐え切ったミノタウロスの肉体を、二体まとめて貫通。

 それどころか後方の壁面まで削り取ってしまった。


「まるでレーザーね」


「れーざー? よく分からないけど、さっきの【ウォーターバレッド】は広範囲の打撃用で、こっちは一点突破用」


「斬撃のように振り回しても良さそうだね。扱えそう?」


「問題なし」


「それじゃあ、試しながらもう少し下の階まで行こうか」


「んっ」




 四十階から下へと進み、魔物たちを相手に魔術や魔法の検証と微調整を重ねていった。


 そうこうしているうちに気づけば最深部である五十階。

 前方に巨大な扉が見えてくる。


 キングさんのお部屋だ。


「……お嬢さま、扉が開いてる」


「……妙ね」


 迷宮において、部屋の主が存在している限り扉が開いてることはない。

 主が討伐されて不在の期間、再ポップまでの間のみ扉は開放された状態になる。


 迷宮の主については分からないが、上層の部屋だと長くて一日、中層の部屋でも長くて三日程度でリポップする仕様だ。


 前回の戦闘でキングミノタウロスを倒してからすでに三週間以上が経過している。

 部屋の中にキングミノタウロスがリポップしていないのはおかしい。


「少し覗いてみよう」


 そっと大扉の陰に身を潜め中の様子を覗き込む。


 広大な広場の中央。


 そこにはリポップしたのであろう巨体――キングミノタウロスが、血を流して石床に横たわっていた。

 その巨躯は崩壊を始めており、討伐直後であることが窺える。


「ファナ、逃げる用意は?」


「いつでも」


 消えゆくキングの傍らで、漆黒のローブを纏った二人組がこちらを見ていた。

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