強敵にはだいたい弱点が存在するⅡ
幼女の言葉に一度は驚いた顔を見せたものの、ファナはすぐさま意識を切り替えて次の行動に移る。
先ほどの迂闊な攻撃を反省しているのだろう。
表情こそ硬いが、その動きには一切の淀みがない。
彼女は手にした【水鉄砲】を即座に仕舞う。
代わりに【ランドセル】から引き抜いたのは、金属質の筒――魔導銃だ。
手早くマガジンを取り外し、装填する魔導弾をすべて『炎属性』のものへと切り替えていく。
おそらく水を使用した予期せぬ暴発を防ぐ狙いだろう。
彼女のことは大丈夫そうなので正面の脅威へと意識を戻す。
ただ、気になるのはヌイグルミのことより……
蒼い炎を刀身から噴き上げながら全裸で仁王立ちしている桃色髪の幼女――ロロアナさんのことだ。
彼女が小さくなったのはポーションとアムリタの小瓶を間違えたせいだろう。
怪我が治ったとかそういうレベルではない。
正直、完全にやらかした。
焼き土下座でもなんでもしたいところだが、今は戦いの真っ最中。
思考を意識の隅へ追いやり、ハンマーを握り直す。
ロロアナさんの纏う蒼炎と手に持った【DX獄炎刀】の熱により、周囲の温度が異常なほど押し上げられていく。
それは視界に入る空気が揺らいで見えるほどだ。
「お嬢さま、私はそちらに近づけません! 後方から支援します!」
部屋の端からファナの声が響く。
耐性がない以上、この超高温の空間には侵入できないのだろう。
接近を諦めた彼女は支援攻撃を開始した。
魔導銃の銃口から放たれた炎属性の魔導弾が敵の足元で爆ぜる。
ダメージを与えるためというよりも、敵の動きを鈍らせるための牽制だ。
一方でヌイグルミの挙動は酷く単調だった。
徹頭徹尾、標的はただ一人。
はい、私です。
迷宮の魔物が持つ異常な執着は一体なんなのだろうか?
どれほど状況が変わろうともブレることがない。
ヌイグルミの腕が勢いよく振り下ろされる。
ピコッ。
眼前に迫るそれをハンマーで迎え撃つと、振り下ろされた腕は石床を虚しく砕くだけに終わった。
「ふはははは! 手も足も出ておらぬではないか、ヌイグルミ!」
その様子が面白いのか、高笑いを上げるロロアナさん。
優位な状況を維持している今、気になっていた疑問をぶつけてみる。
「公爵閣下。先ほどまでは刀が燃えるとすぐに手を放してませんでしたか?」
「ぬ? あぁ、あれか! ふはは。わしは元々、炎魔術の才を賜っておってな! 歳を重ねるごとに恩恵の力が衰えて耐性も下がっておったのじゃ。じゃが不思議なことに、今は全盛期の力が完全に戻っておる! 肉体年齢としては最も才が昂っておった二十歳前後といったところじゃな! 炎もこの通り、熱くもなんともない!」
「…………っ」
(その容姿で二十歳!?)
咄嗟に口を噤む。
さすがに外見について突っ込むのは失礼が過ぎる。
ただ、内心では『合法ロリって本当にいたんだなぁ』と感動したりしなかったり。
そんなことを考えているとファナの声が届いた。
「敵の背中にファスナーが付いています。もしやそこが弱点では?」
その指摘に自然と目が動く。
こちらからは見えないが、ヌイグルミであれば背中にファスナーが付いていてもなんらおかしくない。
むしろ何故今まで気がつかなかったのか。
もしかして私って脳筋?
「なるほどのぉ。よく見ておるではないか、魔法使い」
「……良い着眼点だね」
悪い考えはポイして即座に――ピコッ。
ヌイグルミの体をロロアナさんの前へと転移させる。
「ふむ? これを開ければ良いのじゃな」
彼女は眼前に現れたファスナーの引手を引き下げ、一切の躊躇なく燃え盛る刀身をその中へと突き刺した。
『Yeah!! 勝敗決する運命のキラー、脳裏に刻め絶望のフィアー、逃げ場はないぜ――≪フレイム・ピラー≫! 燃えて、燃やして、燃え尽きろぉお!!』
聞きなれたラップがヌイグルミの内側から歪んで響き、突き立てられた刀身からこれまでにない勢いで激しい蒼炎が放射される。
ヌイグルミの体が内側から膨らみ、蒼い火柱が噴き上がった。
「我が騎士たちの仇! 一片の塵なく燃え尽きよ!」
果たして笑っているのか泣いているのか。
どちらとも取れそうな幼女の叫び声が響き渡り、ヌイグルミノタウロスは一瞬で消し炭となる。
外皮を形作っていた布地も内側の綿も跡形もなく消え 部屋を満たしていた熱が嘘のように霧散していった。
「――わしらの勝ちじゃ」
ロロアナさんが誇らしげに刀を掲げ宣言する。
その姿は堂々たるもの。
貴族とはかくあるべしと見せつけられた気がした。
だが――全裸である。
体に纏っていた炎も消え失せ、いろいろと丸見えだ。
「お見事です、公爵閣下。それはそうと早く服を着てください。目のやり場に困ります」
このままではロロアナさんの威厳がアレなので、彼女が倒れていた場所――そこにポツンと残されている衣服を指差す。
彼女は刀を下ろすとタタタッと軽快な足音を立てて走り去る。
そして、かつては自分のものだった上着の襟を掴んで持ち上げた。
「わははははっ、これでは袖に足が入りそうじゃな」
「……お気持ちお察しします」
どこか見覚えのある光景に、私は同情を禁じ得なかった。




