あとエロい
迷宮での過酷な作業を終え、なんとか門限前にルマリア城へと帰還した。
身体は思った以上に悲鳴を上げており、体力はすでに赤ゲージ。
とはいえ、スライムの討伐には一切関与していない。
見学していただけでこれだ。
「……このままベッドに飛び込みたい」
「ダメ」
一仕事終えて解散していく騎士たちを見送り、這々の体でお風呂場へと直行する。
疲れた体を使用人たちに丸洗いにされた後、重たくなった足を引きずりながら執務室へ。
部屋の中では、先行していたファナがお父様と話し合っていた。
「リーチェ、風呂上がり早々に呼び出してすまないね。ちょうどファルミナから今日の報告を聞いていたところだ。それで、この衣服と武器はどんな効果を持つ遺物なんだい?」
そう話すお父様の机には、鮮やかな赤と黄色で彩られた玩具と袋に包まれた衣服が置かれている。
「その遺物にはどちらも【不壊】という効果が付与されております。ですが、特筆すべきは武器の能力でしょう。得た情報によれば、攻撃力そのものは皆無ですが『触れた対象を強制的に一メートル後方へ転移させる』という効果が付与されております」
「不壊に転移か」
お父様は顎に手を当てピコピコハンマーを見つめた。
「信じ難い性能だけど、近接武器では騎士に持たせられないね。ただ護身用としては実用性が高そうだ。ファルミナ、少し検証してみたい」
「かしこまりました」
お父様は机の上に置かれたハンマーを手に取ると、目の前に直立したファナの肩を叩く。
ピコッと気の抜ける音が室内に響いた瞬間、ファナの体が一瞬ブレ、元居た場所の真後ろへと移動した。
足が床を滑ったわけでも、後ろに跳んだわけでもない。
文字通り、空間を無視してその位置へと『転移した』のだ。
「……ほう。どうだった、ファルミナ?」
「不思議ですね。衝撃を一切感じませんでした。視界が一瞬で切り替わるので、事前知識が無ければ何が起きたのかすら分からないでしょう」
何事もなかったかのように元の位置へ戻ってくるファナを尻目に、父は感心したようにハンマーを眺める。
「これはリーチェが持つと良い。万が一の際、役に立つかもしれないからね。この遺物なら自身を傷つける心配もないだろう」
「ありがとうございます、お父様」
―― やったね! リーチェはピコピコハンマーを手に入れた! ――
「では、もう一つの遺物についてですが――」
続いてファナが説明を始めたのは、机の上に置かれた【アイドル衣装セット】が入った袋。
ミリタリー風ジャケットやフィッシュテールスカートといった、この世界では見かけないデザインの衣服を取り出し、お父様は手に取って検分する。
「鑑定結果は?」
「どれも【不壊】の効果が付与されていますが、防御力はないようです」
「ふむ。そうなると打撃には弱そうだね……」
お父様は納得したように頷き、衣服を袋へと戻した。
「だが絶対に破れない、傷つかないという特性は、攻撃を受け付けないリーチェと相性が良さそうだ。身体が無事でも身に着けている衣服が破れるのはいただけないからね。素肌の露出防止も兼ねて、これはリーチェの普段着として使用することにしよう。
「ファルミナ。夕食が終わり次第リーチェに試着させてくれ」
「かしこまりました、旦那様」
ファナが目を輝かせ、返事をする。
その姿に悪寒が走るが――断る理由は最後まで見つからなかった。
「さぁ、夕食の時間だ。移動するとしよう」
迷宮での疲労はお風呂に入ったくらいで抜けるものではないらしい。
それを証明するかのように、手にした銀のスプーンが小刻みに震えている。
足だけでなく腕の筋肉も限界だ。
家族の前で無様な姿を晒すまいと震える手を必死に抑えるが、その様子を隣に座っていたリニアがじっと見つめてくる。
そして何かに気づいたようにパッと顔を輝かせた。
「お姉様、私がやってあげる!」
リニアは自分の席から身を乗り出すと、私の手からスプーンを取り上げた。
そしてスープを掬い私の口元へ。
「はい、あーん!」
「ここで!?」
普段はお世話する側の私がお世話される。
その気恥ずかしさに思わず赤面してしまうが、対面に座るお父様とお兄様は優しく微笑んでいた。
「リーチェ、今日はそれほど過酷な探索だったんだ。恥ずかしがることはない。今は礼儀作法のことなど忘れてリニアの好意に甘えなさい」
「……はい、お父様」
雛鳥のようにご飯を口に運んでもらう私。
リニアは姉のお世話をできるのが楽しかったのか、終始ご機嫌だった。
「凄い。素敵。素晴らしい」
ファナによって大きな姿見の前に立たされた私は、鏡に映る自分の姿を見て何とも言えない表情を浮かべる。
現在の体型にフィットしたアイドル衣装。
憧れの衣装に袖を通すことができたのは嬉しいが、コスプレしてるみたいで妙に恥ずかしい。
一人で困惑する私を気にすることなく、ファナはいそいそと衣装の細部を調べていく。
「この国の衣服とは全然違う。特にこの前面だけ短く仕立てられているスカート。後ろへ流れるように裾が伸びるスカートなんて見たことない。生地がこれだけ折り重なってるのに動きを邪魔しない意匠、流石は遺物」
そこまで言うと彼女は屈み込んで、私の足を包む白のストッキングに触れた。
「この白い脚衣。どうしてこんなに滑らかなの? しっかり肌に密着してるし、既存の織物技術では不可能。どれだけ細い糸を使ってもこんな伸縮性は生み出せない。生地自体の構造も服飾の常識から外れてる……あとエロい」
(あー……。確かにナイロンとかポリウレタンなんて、この世界にはないもんね。化学繊維の技術そのものがオーパーツかぁ……って、なに言ってんのファナ!?)
感嘆の声を漏らしながらも手際よく構造を記録していくファナ。
彼女の着せ替え人形と化した私はやることもないので、暇つぶしがてらに騎士たちが言っていた違和感について考える。
魔術の威力向上、発動時間の短縮、制御の円滑化、そして鑑定能力の拡張。
そのどれもがレベルアップのお陰だろう。
色々と大変な探索だったが、仕様を一つでも発見できたのは大収穫。
今回は門限のせいで途中で終わってしまったが、次は何が何でも五百連まで行きたいものだ。
「お嬢さま、本日はこれにて終了」
「へっ? 終わった…の……」
ファナの言葉を聞いた途端に体力が限界を迎え、アイドル衣装を着たままベッドへと倒れ込んだ。
「そのまま寝たら衣服がシワになるから起きて」
「むーりー……。もう動けなーい……」
「分かった。このまま剥ぎ取るからお嬢さまは動かないで」
「え、ちょ待っ! それは恥ずかしいからや――止め……や…っあーっ……」
少しだけ強引な侍女に服を剥ぎ取られ、私の一日は幕を閉じた。




