第3話 始終
「或真! ……っ」
或真を殺したイエティの次の標的は、水髪へと変わった。
(どうする……。水の法は使えない。それに……そろそろ水の限界が来る)
「ハーーヒューー」
(ここで死ぬくらいなら……覚悟を決めろ)
『バッ』
水髪は目つきを変え、構えた。
「やるしかねぇ」
『……バシャーン』
その時、水髪の全身から水が溢れ出した。
(水を身体に纏って鎧として使い、常に水を操作することで水の雪化を防ぎながら、機動力と防御力と攻撃力を底上げする法)
『水神法理 流水起啓』
「これなら……俺の法は、お前らに侵されない」
水髪が土壇場で編み出した法。
それは、アドレナリンが溢れて、集中力が高くなった今だからこそ編み出せた法だった。
『ダッ』
或真のすぐ側で、水髪の拳とイエティの拳が衝突する。
『ドガンッ』
(……これで互角なのかよ。だが、上手く位置を掴めば雪女に攻撃されない。この位置をキープすれば……俺は負けない)
『ドカッ……ガドッ』
暫くの間、激しい殴り合いが続く。
じわじわと時間が経っていくと、水を操作するだけでは己よりも遥かに強い力には敵わないのか、水髪自身に限界が近づいていた。
(駄目だ……。体力が保たない。このままじゃ、殺られる)
『スッ(拳を突き出す音)』
(……隙を突かれた……これ、死ぬ)
その時だった。
イエティの拳が水髪の頭に触れる瞬間、たい焼きを食べながら青色と空色の髪をした女が、突如、水髪とイエティの間に現れた。
『ドスンッ……』
「へぇ〜、雪の源ってこうなってたのか。面白い。でも、やっぱり雪は所詮雪なんだね」
その女は、水髪が当たるはずだった拳を受けたが、ピンピンしており、青色と空色の髪は、まるでこの場にあるすべての雪たちを反射するように輝いていた。
「う〜ん、お前が私に挑戦する資格は無いみたいだね。ねぇ、そこの水髪の子。こいつは要らないから出直してもらっていいよね?」
「は?」
「だ、か、ら、こいつは私と戦う資格が無いから消していいよね?」
「あ……あぁ。消してくれ」
「りょうか〜い! って、1人亡くなってるね。でも、面白い気配がする。それに、魂が身体の中に残ってるね。珍しい。2つあるからかな?」
「おいっ、前見ろ前! イエティと雪女が……」
雪女が、とてつもない吹雪を発生させた事で、イエティがホワイトアウトを起こした。
それにより、位置が認識できなくなったイエティが、女の死角から殴りかかった。
『ガドーーーン』
あまりに鈍い音と衝撃が学校を駆けめぐり、壁は崩れ、天井は崩落し、イエティの打撃の風圧により雪が舞う。
「残念。私に物理は効かないんだ」
舞った雪の中から姿を現したのは、顔面に突き出されたイエティの拳をものともしない女だった。
「……マジかよ」
(イエティは、俺らと戦う時は力を隠してたのか……それよりもこの女……あの威力の打撃を顔に食らって、ものともしてない……)
「やっぱり、雪女とイエティの夫婦は戦級法体の中でも上位とはいえ、このくらいなのか……残念」
イエティは、額に当たる拳を引いた。
「まぁ、雪女が雪を操作して、加速させた拳をホワイトアウトからの死角で突くのは良かったよ」
俺らの時は、余裕そうな顔をしていた雪女とイエティの表情が曇る。
満月が輝き、雪女が大量の雪を当てる中で、女はイエティと雪女の前に立った。
「君達の雪の法も見せてもらったからね。特別に私の法も見せてあげるよ」
女は人差し指をピンさせ、口元に持って行った。
『……零法王理』
『ガアッ………………』
『グゥッ………………』
(……何が起こってるんだ。イエティと雪女が喉を押さえてる……。それに、奴らの近くだけ雪が避けてる……?)
『ドサドサッ……』
『……消息』
先程まで水髪たちを圧倒していた雪女とイエティは、驚くほどあっけなく膝をつき、崩れ落ちた。
水髪の少年が唖然とする中、女は或真の方へと向かった。
「本当なら、危ないから死んだ人は誰であろうとしないと決めてるんだけどね……。まぁ、魂も安定してるし、2つあるし……この人の法なら……多分問題無いかな」
「おい。何をしてるんだ」
水髪は、女が何をするか分からなかったから止めようとした。
「2つの魂……1つは知らないけど、もう1つは知ってる……。ねぇ、水髪の子。今から少し荒れるから、ここから離れててね」
女は忠告した。
女が或真に手を翳すと、『ズウゥゥゥゥゥゥン』というような重圧が辺りを襲った
それは、先ほどのイエティと雪女を遥かに上回るほどの圧だった。
(な……だ……これ。息が……でき……ない)
気が付けば斬られていた首は繋がって、或真の身体からは可視化できる程の強大なエネルギーが見えていた。
「不快……。実に不快。この私を呼び出したのは貴様か」
或真の奥に眠っていた狂気、神が目覚めたのだ。
「うん。そだよ〜〜。早速だけど、眠ってもらっていい? 君は、不完全で半端者で邪魔だから」
「フッ……。この私に命令し、そのような発言とは、世界は実に愉快になったもんだ」
水髪は、本能で理解した。
(……この女……。目覚めさせやがった。宇宙にたった4者しか確認されてない零級の称号を与えられた者の1人。零戦級危険人物……終焉の神……アルマゲドン・アストルム。何をしたか分かってるのか)
女は或真?に近寄ると、そっと囁いた。
「じゃあ、今から君を、私が寝かしつけてあげる。目覚めたばっかりで申し訳ないけど、しばらくの間眠ってていいよ」
「フッ…………殺す」
或真?が女に法をぶつけた。
『理終法焉……』
(やばい……これは……この星が……壊れる)
『終脚』
『ドガァァァァァァァン(衝撃波)』
放たれた或真?の蹴りにより、学校どころか都市が壊滅した。
「久しぶりの現世だ。こんな宇宙、全て壊してしまおうか……」
或真?がこの星を壊そうとした時だった。
『残念。君が見てるのは、ただの幻想だよ』
目の前には、或真?の法を食らったはずの女が不敵な笑みを浮かべながら立っていた。
「生きてたか。加減をし過ぎたな。まぁ良い。すぐにでもこの星を……」
『ドクンッ』
「……っ」
或真?が法を使おうとした時、全身が燃えるように熱くなった。
「……貴様、何をした」
或真?は、何をされたのかも分からないまま、立つことさえ困難なほどの熱と眠気が押し寄せた。
「そろそろかな。面白かったよ。君の幻想は。次は、誰かの『夢』で、会えたら良いね。じゃあ、おやすみ」
「ま……さか……きさ……まは……ぜろ………」
『バタッ』
首が繋がったばっかりの或真?は、眠りについた。
◇
「お……い……な……あ……ま……ろ」
(なんだ……声が聞こえて……)
「おいっ……夜凪或真。良い加減に起きろ」
(これは……水髪の声……。あれ……確か俺……あの時死んだよな……」
「夢の見過ぎなんじゃない? 私が起こそうか? それに、夢ってのは奪っていくものなんだから……叩き起こしていいよね?」
「刹那先生は黙って。起きた時に話がややこしくなる」
(……俺は……生きてるのか……なら、早く起きないと……皆の命……そうだ……)
「イエティ!」
『ゴツンッ』
「おわっ」
「……痛ぇ」
「……おい、刹那先生が話をややこしくするから顔ぶつけただろ」
「え〜酷くない?」
(ぶつけたって……誰と)
或真が目を開けると、水髪の青年と、青髪と空髪が混じった女性が居た。
「は? 水髪と……青空?」
「ほら……刹那先生がややこしくするから混乱しただろ」
「お……おいっ……水髪。ここはどこなんだ? あの後どうなった? 俺死んだはずだよな? ってか、学校は吹雪で雪まみれだったんじゃねぇのか? なんで、雪が積もってないんだ?」
或真は、死ぬ前に目にした光景と、今の光景との違いに動揺を隠せなかった。
「或真のこの反応……刹那先生……解放使ったな? この前、やらかして、反省として理事長に当分の間の解法は禁止されてなかったか?」
「ごめ〜ん。必要だったから使っちゃった。でも、本当に必要だったんだよ? だから、黙っててくれると嬉しいな」
(この人たちは、何を話してるんだ?)
青空の女はポケットからスマホを取り出して、時間を確認した。
「あっ! もうこんな時間だ。早く行かないと怒られちゃうよ。ほらっ、或真くんも行こうよ」
「は? 行くってどこに?」
「え? 普通に学校だけど? いくら或真くんが零級危険人物でも、学校生活くらい楽しくしたいでしょ? それに、うちの学校空いてるからね。手続きは済んでるから早速行こうよ!」
「は?」
そうして俺は、またもや何も分からず振り回されることになった。
『ポタポタ』と、快晴の中でリズム良く迎えてくれるような音とともに。
(第3話:了)
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