第2話 赤雪
初夏の吹雪が町を刺激する中、2人の青年が公道を走っていた。
「おいっ……速いって。こちとら、腕を拘束されてるんだからお前みたいに速く走れねぇって」
「さっき話したろ。急がないと死人が出るって。それにお前も急いでたろ」
「だったらこの拘束外してくれよ……って、聞いてんのか? 無視すんなよ」
さっき、学校に向かう途中で目の前の水髪に大体の事情を説明された。正直に半信半疑だが、あれを見せられたら否が応でも信じてしまうな。
◇
数分前
「先ほど、お前の学校にイエティと雪女の夫婦が現れた。それによって、この町全体に雪が降り出した。だから、この2体を討伐しに行く。早く行くぞ。被害が大きくなる前にな」
「は? イエティと雪女って……UMAは本当にいんのか? それに、確証はあるのか?」
水髪は少しの間を置いた後に腕を差し出した。
「まぁ確証になるかは分からないが、これを見たら少しは分かるだろう」
『ピチャン……ピチャン』
(なんだ急に……手から……水滴?)
『ピチャ、ピチャピチャ、ピチャピチャピチャピチャ……ヒューーーバチュン』
その瞬間、手のひらから大量に水が溢れ出し、あっという間に大量の水が人の形になった。
「これは、水の法と呼ばれる力だ。神の力を宿した人は、神の法を使うことができる。俺の場合は水の神だ。だから、水を生成して自在に操れる」
「水が……触れるぞ。なんだ……これ。」
『バシュン』
「あっ……消えた」
「ここで余計に力を使うのも無駄だからな。じゃあ、続きは走りながらで行くぞ」
『ダダッ、ダダッ、ダダッ(雪を踏みしめながら走る音)』
「話を戻すが、討伐に行くのはイエティと雪女だ。こいつらは、2体で1つの存在だ」
「夫婦って言ってたよな」
「そうだ。イエティが雪を生成して、雪女が雪を操作する。危険度が7段階ある内の2段階目の戦級法体と呼ばれる奴らだ」
「戦級法体? なんだそれ?」
「簡単に言えば、世界に与える影響度だ。こいつらは主要都市壊滅規模の化け物だな。だから、急がないと被害がでかくなるんだ。ほら……足が遅くなってるぞ」
(マジかよ……。もし、これが本当だった場合、取り返しのつかないことになるな……。まだ生徒や教師らが居るかもしれない学校にそんな化け物が……早くいかねぇと)
「おいっ……急ぐぞ。手遅れになる前にな」
「だからそう言っている」
◇
「そろそろ高校に着くぞ。夜凪或真……お前は絶対に俺の側を離れるなよ」
「分かってるよ」
校舎前
『ビュォォーーーー』
「すげぇ吹雪だな。ってか……さっむ……6月なのに雪とか……夏の体と、この服装にはきついな……って、おい! 先に行くなって」
「思ったよりも被害が大きいな……お前はただ付いてくるだけで良い。邪魔はするなよ」
水髪は真っ先に校舎の中に入り込んだ。
「おい……本当に校舎の中に居るのか? イエティと雪女って言ったら雪が降ってるところに居るイメージなんだが……」
「静かにしろ。集中できない」
水髪は突然目をつむりだすと、腕を変な感じに動かしていた。
(大気に存在する水を操作し、物質と物体と生体を探知する法)
『水神法理 波紋』
『ヒュォォォォォ(大気中の水分が浸透する音)』
「……見つけた。サッカー部の部室に雪女。だが、室内にユニフォームを着た男子生徒が6人と、女子生徒が一人居るな」
「マジかよ……ヤベェじゃねぇか。ってか、良く分かったな」
「だから、お前は大人しくし……いや……少し良いか? 念のために、お前にこれを渡しておく。それと、水の拘束も解いておく」
「え? この拘束を解いてくれるのか? それに、なんだこれ? 水の……剣?」
「気休め程度だが、武器くらい渡して、拘束を外しておかないと……もしものことがあるからな」
(腕が自由に動かせる……開放感凄いな)
「行くぞ」
「だから速えって」
◇
サッカー部の部室前に立つと、水髪は音を消すように動き、雪女に奇襲をかけようとした。
「雪を操作させる隙を与えず……決める。」
『バンッ(ドアが開く音)』
『水神法理 水理断頭』
『ザシュッ』
ドアが開いたのと同時に、水髪は圧縮された水を飛ばし、瞬きする間もなく雪女の首を斬った。
そして、水髪の奇襲と同時に、俺は部屋の片隅に居る生徒らを助けようと近くに寄った。
「お前ら大丈夫か……って、美夜じゃねぇか。おいっ、大丈夫か? 意識はあるか?」
(反応はないけど……脈はあるな)
俺はその場に倒れている7人の脈を測っていき、全員生きていた事に少しだけ安堵した。
だが、水髪は違和感を覚えていた。
(おかしい……手応えが……全く無い)
斬った雪女を触り、冷静になって周りを見渡すと、直ぐに奴らの仕組みに気付いた。
「……これは……おいっ、逃げろ……夜凪或真!ここはもう学校じゃない。全てがホワイトアウトで包まれた、奴らの……」
『ドーーン(水髪の青年がぶっ飛ばされる音)』
「か……はっ……」
「お、おいっ……大丈夫か? ……って、なんだ……あの化け物は」
いつから居たのか……目の前には、身長が2メートルを超えている雪を纏った男と、さっき首を切られたはずの雪に覆われた女が立っていた。
それと同時に、全身の毛が逆立つように脳から危険信号が発せられていた。
(こいつが……イエティ……それに、雪女)
「はぁ……はぁ……逃げろ、夜凪或真。ここはもう、完全に奴らのテリトリーだ」
水髪の身体には雪が刺さり、ぶっ飛ばされたダメージでフラついていた。
「は? お前はどうするんだよ! もう身体中ボロボロじゃねぇか」
「何度も言わせるな……逃げろ」
水髪はゆっくりと俺の横を通り過ぎると、目の前の化け物達に立ち向かった。
(どうする……。俺が戦ってもこんな化け物……相手になんかならない……)
「来い。お前達の相手は俺だ」
(俺が逃げたところでどうするんだよ。高校がこんな状態で、サッカー部の人らと、水髪がここに居て、それに美夜も居るってのに見殺しにするのかか……それに逃げ切れる保証だって……)
ふと、手元にある剣が目に入った。
(護身用の剣……そうだ。今の俺にも護身する力があるんだ。ここでサッカー部の人らを、この水髪を、美夜を置いて逃げると絶対に後悔する)
『バッ……』
「は……おい。お前、なんで俺の前に立つんだよ。逃げないと死ぬぞ。それに……戦ったことなんてないだろ。」
「確かに逃げたいよ。それに、こんな化け物と戦ったことなんて無い」
「だったら……」
「これはエゴだ。お前の為じゃない。ただ、俺が後悔するのが嫌なだけだ。後悔するくらいなら、いっそのこと俺だけじゃなくて、お前らの護身もしてやる」
俺が水の剣を構えた瞬間、それまで立ち止まっていたイエティが、目の前に瞬間移動するように現れた。
『ガキンッ』
「あっ……ぶね」
この時ハイになっていたのか、不思議と動体視力に身体が完全に追いついていた。
『ガキンッ、ガキンッ』
(駄目だ。こっちから攻撃できねぇ)
『ガキンッ』
(多分、水髪が水の剣を操作してサポートしてるな。雪を操作してくる雪女を先に倒したいが、イエティが邪魔で行けねぇ)
『水神法理 水刃』
『ガキンッ』
「チッ、通らんな」
(やっぱり水髪の攻撃でも駄目か。まさか、フラついて威力が落ちてるのか? ってか、さっきから雪女は何やってるんだ? 雪の操作とは別に、何かボソボソ言ってるような……)
『ゾワッ』
その時、凄まじい悪寒が全身を包んだ。
(やばい、なんか来る。雪女の方からだ。目の前のイエティは一旦無視して、ここは引かな……)
『ドシュッ』
「え? ……『ごぷっ』」
『ドサッ』
「夜凪或真!」
(痛ぇ……何が……起きたんだ……手に持ってた水の剣が……無い。……違う。これ、水の剣が雪の剣になって……俺の腹に刺さったんだ)
『水神法理 水理断頭』
『スッ(頬が切れる音)』
「うおっ……。危ねえ」
(俺の水が全て雪に……イエティの雪生成で水の法から雪の法に変換されるのか……雪女の雪操作が厄介だな。俺の水の神の力は、こいつらとかなり相性が悪い。俺の水の法が奴らの法で侵される。早く夜凪或真の所に行きたいが……)
水髪は目の前のイエティと離れた所にいる雪女と戦っていたが、唐突にある事が脳裏によぎった。
(いや待て。何故、さっきまで夜凪或真と戦ってた目の前のイエティは動かない。何故、さっきみたいな超速で攻撃しないんだ……最初に、夜凪或真が剣を構えた時もそうだったな……)
その瞬間、水髪が或真の方を向くと薄っすらとイエティが横に立っているのが見えた。
(……注視してたが、いつの間にか、ホワイトアウトでイエティの位置を誤認させられたのか)
「夜凪或真!」
(……ほんっと、エゴってなんなんだ……俺のエゴは最後まで通せないってのか……結局、中途半端なエゴは身を滅ぼすのかよ……)
「駄目だ……或真の方に行きたくても、雪女の雪操作が邪魔で行けない」
『グシュッ』
イエティは或真の腹に刺さった雪の剣を引き抜いた。
(これ、ダメなやつだな……。ごめん。美夜……それと、名前も知らない水髪。ほんっと、名前くらい聞いとけば良かったな。俺のエゴのせいでお前に荷を負わせるんだか……)
『ザシュッ』
『ビチャァ』
俺の意識はそこで途絶えた。
(第2話:了)
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