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【架空戦記創作大会2026春お題➂】電気仕掛けのボート  作者: G-20
Uボート艦隊の危機からXXI型Uボートまで
2/10

第二話 爆沈

 実は、ドイツ海軍(クリークスマリーネ)がXXI型Uボートとして結実するまでにXVII型UボートとXVIII型Uボートという2種類のヴァルター機関を主機とするUボートがいるんですよ。特にXVIII型UボートはXXI型Uボートにとてもよく似ていたそうです。


 そしてこれらのUボートが主機としていたヴァルター機関なのですが、過酸化水素を使うためとっても危険だったそうです。実際イギリスやソ連では爆発事故も発生していたそうですよ。

 という訳でお題➂のためにV-80実験艇には犠牲になってもらいます。

V-80「え?」

1942年2月12日 バルト海、ヘル半島沖合 深度30メートル

 V-80は、静かに、しかし不気味なほどの緊張を孕んで潜っていた。

 全長わずか22メートル、排水量80トン足らずの小さな実験潜水艦。ドイツ海軍が極秘裏に建造した、世界初のヴァルター機関搭載型テストベッド艦だ。ヘルムート・ヴァルター技師が自ら設計し、1940年にキールのゲルマニア造船所で進水させたこの艦は、今日も過酸化水素を燃料とする革命的機関の限界試験に挑んでいた。


 過酸化水素(T-Stoff)とディーゼル燃料を反応させ、高温高圧の蒸気を生み出し、タービンを猛烈に回転させる――酸素を海中から一切必要としない、真の水中高速航行。史無前例の28ノット、場合によっては30ノット超え。連合軍のどのような駆逐艦も追いつけない上にどのような爆雷の網(どころかFIDOさえ)も、捉えられないはずだった。この技術が完成すれば、Uボートはもはや「潜航して逃げるだけの兵器」ではなく、「水中を疾走し、敵を一方的に屠る狼」へと変貌する。ヴァルター博士の夢は、まさに大西洋の戦局を一変させるはずだった。


「深度固定。速度25ノット、安定確認!」

 操舵室の狭苦しい空間で、海軍技術大尉ハンス・シュミットが声を張り上げた。搭乗者はわずか四名。狭い艦内は機関の熱気と緊張で息苦しく、汗の臭いが混じり合っていた。ヴァルター技師本人は、岸上の観測所から無線で実験の進行を監視していた。シュミット海軍技術大尉は額の汗を袖で拭い、計器盤の針が激しく振れるのを睨みつけた。


「反応安定……問題なし。博士、今日こそ30ノットに到達します。T-Stoffタンク圧力、正常範囲内です!」

 シュミットは独り言のように呟いたが、その声には微かな不安が混じっていた。史実ではまだ実用化の目処さえ立っていないこの機関を、1942年の今、急ピッチで実戦配備に持ち込もうとしているのだ。Uボート戦はまだ均衡を保っているが、連合軍の護衛空母と新型レーダーの投入が日増しに脅威を増していた。


 その瞬間だった。


 ――ガクン。


 船体が不自然に、まるで生き物のように大きく震えた。タンク区画から、金属の軋む甲高い音が響き渡る。


「圧力異常! T-Stoffライン、リーク確認! 純度85%の過酸化水素が……分解反応が暴走しています!」


 シュミット海軍技術大尉の叫びと同時に、警報が耳をつんざくように鳴り響いた。わずかな溶接不良の隙間から噴き出した液体が、触媒に触れて一瞬で高温蒸気と酸素の奔流へと変わる。艦内はたちまち白い煙と熱気に包まれ、視界が歪んだ。


「緊急浮上! 全速で――」


 言葉はそこで途切れた。


 V-80の船尾が、内側から引き裂かれるような轟音とともに爆発した。


 どっか~ん♪


 バルト海の冷たい海面が、突然、巨大な白い水柱を噴き上げた。直径30メートルを超え、高さ50メートル以上にも達する爆発の柱。鉄片と蒸気が混じり合い、黒煙が空を汚染するように広がった。爆音はヘル半島の岸壁まで届き、観測所の窓ガラスを激しく震わせ、付近の漁村の住民たちを恐怖に陥れた。


 岸上の観測所で、ヴァルター技師は双眼鏡を握りしめたまま、凍りついたように立ち尽くした。


「V-80……V-80、応答せよ! シュミット! 聞こえるか!」


 無線は沈黙した。ただ、海面に浮かぶ虹色の油膜と、わずかな残骸だけが、Uボート艦隊の未来を託された小さな潜水艦の存在を、無情に物語っていた。


 搭乗者四名は、即死だった。ヴァルター機関の夢は、一瞬の事故で海底に沈んだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 同日夕刻 ベルリン OKM本部(Oberkommando der Marine)


 エーリヒ・レーダー提督は、報告書を机に叩きつけた。分厚い書類が乾いた音を立て、部屋の空気が一瞬で凍りついた。


「これが、君たちの『革命的機関』かね? ヴァルター博士! K-Amtの責任者諸君!」


 向かいに座る海軍造船本部(K-Amt)の責任者と、ヴァルター技師の顔は、血の気を失って青ざめていた。レーダー提督は63歳。白髪を短く刈り上げ、鉄のような冷徹な視線を放つ男だった。海軍総司令官として、ヒトラーの「Z計画」――巨大水上艦隊による大西洋支配構想――を死守し続けてきた彼にとって、Uボートなど所詮は「補助兵器」に過ぎなかった。だが今、1942年2月。大西洋でのUボート戦はまだ辛うじて均衡を保っているものの、連合軍の護衛体制は目に見えて強化されつつあった。新型対潜レーダー、航空哨戒の増強、そして護衛空母の就役……群狼戦術(Rudeltaktik)は、徐々に息苦しくなり始めていた。


「ヴァルター機関は危険すぎる。過酸化水素の供給も、安定性も、到底実戦に耐えうるものではない。この事故は、天が我々に与えた明確な警告だ。これ以上、貴重な技術者と資源を無駄にするわけにはいかん!」

 レーダーは立ち上がり、窓の外に広がるベルリンの冬の空――灰色の雲が低く垂れ込める空――をじっと見つめた。部屋には、OKMの地図が広げられ、大西洋の海域に赤いUボート記号が無数に散らばっていた。それぞれが、命を賭けた狼の群れを象徴していた。


 K-Amtの責任者が、慌てて口を挟んだ。

「ですが提督、ヴァルター機関なしで大型Uボートを……? 従来型のVII型やIX型では、連合軍の新鋭護衛艦に対抗しきれません。水中航続距離も、速度も、致命的に不足しています。」


 レーダーはゆっくりと振り返り、冷ややかに、しかし断固として言い放った。

「必要ない。従来のディーゼル・エレクトリック方式を、徹底的に強化する。巨大蓄電池を満載し、水中高速と長時間潜航を可能とする『Elektroboot』だ。これこそが、現実的な勝利への道だ。


 即刻、設計を始めろ。

 名称は……Typ XXI。

 1942年3月1日付で、OKM正式指示とする。シュペーア軍需大臣とも直ちに調整し、プレハブ工法を最大限活用せよ。VII型やIX型の生産ラインを一部転用し、造船所を総動員する。1943年春までに、少なくとも20隻の就役を目標とする!」


 ヴァルター技師は唇を震わせ、拳を握りしめたが、何も言えなかった。彼の夢は今、別の形で引き継がれることになった。レーダー提督は、机の上の地図に視線を落とした。大西洋の青い海域に、無数の赤いUボート記号が浮かんでいる。それがTyp XXIの狼群に置き換えられる...はずだった。


「これで、群狼戦術は甦る。連合軍の補給線を、再び地獄に変えるのだ。」

 彼は静かに、しかし鉄のような確信を込めて呟いた。1942年のこの決定は、歴史の歯車を大きく狂わせることになるだろう。



 Uボート戦の趨勢は、ここから変わる。レーダー提督の目は、すでに勝利の幻影を捉えていた。

 という訳でお題➂のためにV-80実験艇とハンス・シュミット海軍技術大尉ら4名は犠牲になりました。

 とはいえV-80実験艇の設計やヘルムート・ヴァルター技師が作った、XVII型UボートとXVIII型Uボートとなる筈だったヴァルター機関搭載型潜水艦の設計資料は海軍造船本部(K-Amt)の面々に活用されて『Elektroboot』、つまりXXI型Uボートとして結実することになります。

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