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【架空戦記創作大会2026春お題➂】電気仕掛けのボート  作者: G-20
Uボート艦隊の危機からXXI型Uボートまで
3/10

第三話 決定

 前回までドイツ海軍内部でXXI型Uボートを史実より前倒しにするため2隻のUボートの運命を弄りましたが、今回はXXI型Uボートを史実より前倒しで建造すべくXXI型Uボートを総統閣下にプレゼンする回です。

 この時は総統閣下もレーダー提督もデーニッツ提督も勝てると判断していますので、XXI型Uボートは「対英戦を勝利に導くことでリソースを東部戦線に集中して独ソ戦勝利を前倒しする」という目的の新型Uボートとして位置づけられます。

1942年5月15日、総統大本営(ヴォルフスシャンツェ)地下会議室。

 午後8時を回った時刻、地下深くに設けられた薄暗い電灯の下で、巨大な作戦地図が広げられた長テーブルを囲むのは、総統閣下を筆頭に、海軍総司令官エーリヒ・レーダー元帥、Uボート総監カール・デーニッツ提督、そして数名の参謀将校たちだった。空気は重く淀み、最近の東部戦線における激しい消耗戦の報告と、大西洋でのUボート部隊の損耗が相次いでいるという暗いニュースが、全員の顔を青ざめさせていた。壁に掛けられた巨大な帝国旗(ハーケンクロイツ旗)が、わずかな空気の流れに揺れるだけで、部屋全体に張りつめた緊張が漂っていた。


 レーダー元帥が、疲労を隠しきれない声音で静かに口を開いた。

「総統閣下、本日の海軍状況報告を申し上げます。現行のUボートは大西洋で確かに健闘しておりますが、敵の護送船団に対する警戒が日増しに厳しくなり、航空機による哨戒攻撃も急激に増大しております。このままでは、英国への海上封鎖が思うように進まず、補給路の遮断が遅々としております。」


 総統閣下が、いつもの神経質な指の動きでテーブルの縁を叩きながら、目を細めてレーダー元帥を睨んだ。

「それで? 海軍(クリークスマリーネ)はいつまでこの遅々としたペースで満足しているのかね、レーダー。東部戦線では我が軍が血を流し続けているというのに、海上ではまだ英国の息の根を止められぬとは……」


 その言葉を待っていたかのように、デーニッツ提督がゆっくりと席を立ち、総統閣下の正面に歩み寄った。手にしていたのは、極秘の設計図と詳細な性能予測表、そして技術局が密かにまとめた試算資料の束だった。それは、革新的な新型Uボートの設計案――史実では1944年まで実戦投入が間に合わなかった「XXI型Uボート」として知られることになる、電気推進による水中高速航行能力を備えた水中高速型電気潜水艦(エレクトロブート)の青写真である。デーニッツの目は、疲労の中にも確信の炎が燃えていた。


「総統閣下、恐れながら一言申し上げます。」

 デーニッツの声は低く、しかし抑えきれない熱を帯びていた。彼は設計図をテーブルの中央に広げ、総統閣下の視線を強く引きつけた。

「現行のUボートでは、敵の新型レーダーと航空哨戒網を突破しきれません。日夜、英米の航空機と駆逐艦に狩られる状況が続いております。しかし、我が海軍技術局がすでに基礎設計を完了しているこの新型Uボート――我々はこれを『XXI型』と呼んでおります――を、ただちに開発・量産に移せば、事態は劇的に一変いたします。この艦こそが、大西洋の制海権を我が手に取り戻す鍵となるでしょう。」


 デーニッツは一息つき、資料を指差しながら詳細を語り始めた。

「この艦の主要諸元は次の通りです。排水量は浮上時1,621トン、潜航時1,819トン。全長76.7メートル、幅8メートル、喫水6.32メートル。推進機関は2基のMAN M6V40/46KBBディーゼル機関(合計4,000馬力)と、2基の強力なSSW GU365/30電動モーター(5,000馬力)、さらに静粛航行専用の小型電動機(226馬力×2)を搭載しております。バッテリーは従来のVII型の約3倍の容量――6分割で各62セル、1,300Ah――を誇り、これにより潜航最高速度は17.2ノットに達します。これは従来型の水中速度の3倍以上。浮上速度も15.6ノットと、従来を凌駕する性能です。潜航航続距離は5ノットで340海里、シュノーケル装置を標準装備することで、ほとんど浮上せずに電池を再充電可能となり、連続潜航時間は従来の数分から数十時間に延びます。船体は完全流線型で水中抵抗を極限まで低減し、静粛航行能力も飛躍的に向上。敵のソナーすら欺くほどの静寂性を備えております。」


 彼はさらに声を高め、戦略的意義を強調した。

「武装は前部魚雷発射管6門のみ、搭載魚雷23発。急速装填機構により、20分以内に再装填が完了します。甲板砲は廃止し、対空兵装は2基の連装機関砲のみに絞り、徹底した水中戦闘特化型としました。設計潜航深度は135メートル、破壊深度は280メートルに達し、敵の爆雷攻撃からも十分に耐えうる耐久性を有しております。総統閣下、この新型Uボートを開発・投入すれば、もっと早く勝てるかもしれません。そうすれば総統閣下が最も重要視されている戦争――東部戦線での決戦――に、更に多くの資源を注ぎ込めることでしょう。大西洋の制海権を半年以内に掌握し、英国の補給線を完全に断ち切れば、米国からの援助物資は激減します。英国は孤立し、降伏か講和を余儀なくされる。結果として、鉄鋼・石油・労働力の大部分を東部戦線へ回すことが可能となり、総統閣下が目指す最終勝利を遥かに早い時期に実現できるのです。」


 デーニッツはそこで一度息を整え、総統閣下の反応を窺った。レーダー元帥も無言で深く頷き、補足するように付け加えた。

「開発に必要な資材は、現在のVII型生産ラインの一部を転用すれば最小限に抑えられます。技術局の見積もりでは、総統閣下のご決断次第で、1943年初頭には初号艦の就役が可能――いや、1942年末までに実戦投入さえ夢ではありません。東部戦線の消耗をこれ以上増やさぬためにも、この海上決戦兵器こそが今、帝国に求められているのです。」


 総統閣下は設計図をじっと見つめ、指を止めた。部屋に重い沈黙が落ちる。参謀将校たちの視線が一斉に総統閣下に注がれた。やがて、わずかに口角を上げた表情で、総統閣下は短く、しかし力強く答えた。

「……面白い。デーニッツ、詳しく聞かせたまえ。このXXI型が、英国の喉元に突き刺さる刃となるや否や、すべてを聞きたい。」


 こうして、XXI型Uボートの開発が正式に承認される瞬間が訪れた。史実では1944年まで待たなければならなかったこの革新的な水中高速型電気潜水艦が、総統閣下の決断により、1942年のこの夜に歴史の歯車を大きく回転させ始めたのだ。東部戦線への資源集中を加速させるための「海上決戦兵器」として、この新型Uボートは大西洋の波を塗り替え、英国の孤立を早め、結果としてナチス・ドイツの最終勝利を史実よりも遥かに早い時期に引き寄せることになる――と思われた。会議室の空気は、初めて希望の色を帯び始めていた。

 まあUボートが新型になった程度で戦局が大きく動いたら誰も苦労はしませんからね。

 それに...おっといけない、これ以上は次回のネタバレになってしまう。

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