episode,Ⅶ:襲い来る破壊の天使
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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「ふぅ~む……ヒィ、フゥ、ミィ……まぁ、ザッと数える限り三百六十人と言った所か」
ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブの悠長な発言に、先頭の天使が一人、前へ進み出て来た。
「正確には三百六十五人だ愚か者」
「五人いようがいまいが大差ない」
「我等、能天使での五人の差は大きいぞ」
「我にはイナゴの軍勢に見えるがな」
「イナゴも馬鹿には出来んぞ。数が増えれば厄介だ」
「ほぅ。イナゴでこの軍勢か」
「俺等パワーズをなめるなよ。俺の名はシャムシエル。これらの天使達の指揮官を務めている」
シャムシエル──その名は"日の光""神の強き天使"なる意味があり、第四天──太陽天の守護者も務めている。
「語らいは結構。どうせ消し炭になる輩の名前もどうでも良いし興味もない」
ナムウドッグは言うと、前髪を掻き上げた。
「フン。そうか。ならばこの数のパワーズを相手にしてボロ雑巾の様に死ねぃ‼」
彼──シャムシエルの掛け声を合図に、三百六十五人の能天使の軍団が一斉にナムウドッグへ、斬りかかって来たが。
「──脇が甘い」
ナムウドッグがそう口にした時には、それだけの数の天使軍団がシャボン玉の様に光の粒子となって弾けて消滅したではないか。
「な……っ‼ 馬鹿な⁉ 貴様、俺の三百六十五人の手下達に何をした⁉」
これにナムウドッグは、片手の人差し指一本を立てて抑揚のない口調で答えた。
「レーザービームを一本、我を中心に円を描く様に放った迄だ」
「何だと……⁉ そんな仕草、とても見えなかったぞ‼」
「それはつまり──」
ここまでナムウドッグが口にした時、それを遮る様に別の声が割って入った。
「その者よりお前の方が力が劣っていると言う事だシャムシエル」
「ハ……ッ! これはカムニエル様……‼」
カムニエル──その名には"神を見る者"の意味がある、能天使の長にして第五天、火星天の支配者である。
「こうもあっさりやられるとは、やはりグリゴリでしかなかったな」
「ぐ……っっ」
カムニエルに指摘されてシャムシエルは言葉を詰まらせ、頬を紅潮させる。
グリゴリとは、人間の女性に欲情して地上に降り交じわった天使達の事で、その数は何と二百人もの天使の数に昇る内の、シャムシエルはその一人だった。
それでも熾天使の一人であるウリエルの副官を務めている身分だ。
「グレゴリは引っ込んでいろシャムシエル。こやつの相手は、この私の手下達に任せる」
そう言ったカムニエルの背後には、一万二千もの"破壊の天使"軍団が控えていた。
これにナムウドッグが嘆息を吐く。
「こやつ等より骨はありそうだが、所詮は愚の骨頂よ。数も増えた様だが我には敵うまい」
「抜かせ厄災がぁっ‼」
カムニエルは我鳴ると、手に持っていた剣を上段から真っ直ぐにナムウドッグへ振り下ろした。
──が、ガギンッッ‼
「⁉」
前腕の付け根までが硬い鱗とそれが隆起化して所々は鋭い爪の様な棘になっている右腕で、ナムウドッグはカムニエルの剣を受け止めていた。
「な、に……っ⁉ 天使の剣を受けて腕が切断されないだと……⁉」
言いながらカムニエルは、尚も腕を切断せんと、剣に力を込めるが。
「甘いわ」
言うなりナムウドッグは、その腕でカムニエルの剣を弾き返した。
「この剣は、鉄やダイアモンドをも切断する威力があるのだぞ‼」
「我の腕がそれらより頑丈である表れだな」
「こ、こんな馬鹿な事が……‼」
「次は我の番だ」
ナムウドッグは言うなり、カムニエルのみぞおちに一発拳を叩き込んだ。
──かに思えたが。
「う……っ、ぐ、は……っっ‼」
ナムウドッグの腕はカムニエルのみぞおちを貫通していた。
ビシャビシャビシャ‼
黄金の鮮血が傷口から溢れ出る。
「汝がどれだけ強いかは存ぜんが、少なくとも我の相手ではない事を、思い知れ」
そうしてナムウドッグは腕を引き抜いた。
「カムニエル様っっ‼」
「シャム……シ、エル……」
傍らへ飛空して来たシャムシエルへ微笑みかけてカムニエルは、黄金の粒子となってシャボン玉の様に弾けて消滅した。
「カムニエル様ーっっ‼」
シャムシエルはそう叫んで、虚空を見つめた。
そしてプルプルと全身を震わせると、バッと背後を振り向くや否や叫んだ。
「こ奴はカムニエル様の仇だ! たった今から、私がカムニエル様の代理‼ こ奴を抹殺しろ‼」
シャムシエルの言葉に、一万二千もの"破壊の天使"達が一斉にナムウドッグへ襲い掛かった。
しかし。
──カッ‼
ナムウドッグに折り重なった天使達の肉弾の中心が、目が潰れそうな程の眩い閃光が爆ぜた。
ぞくぞくとそれら天使達は内側から外側に向かって、消滅していく。
「そ……っ、そんな……‼ 何て事だ‼」
気付けば天使と呼べる存在は、シャムシエルだけになっていた。
「い……っ、一万二千もの破壊の天使だぞ⁉ それを、まるで……っっ‼」
「……──まるで? まるで、何だ」
ナムウドッグが平然とした様子で尋ねる。
しかしシャムシエルは、それ以上の言葉が出てこなかった。
「厄災とは……これ程までも最強だと言うのか……‼」
「らしいな。我も今初めて知った。何せ今まで孤立していた頃は、戦った事もなかったからな」
「フ……さすがは厄災だ。自分探しの旅だと……? 貴様は厄災以外、何者でもないわっ‼」
シャムシエルは叫ぶや否や、目にも留まらぬ速さで離れた位置にいた柊ヴェルハルトの背後に回り込んでいた。
「貴様を倒せぬと言うのであればっ! 貴様が守っている者を──っ‼」
「守っている者を? 何だ。我のヴェルに何を?」
そう言ったナムウドッグの声は、シャムシエルの背後から聞こえた。
これに驚愕するシャムシエルだったが、それに気付いた時にはもう、黄金の粒子と化していた。
「大丈夫だったかヴェル」
「ああ。おかげ様で。ありがとうなナムウ」
「例には及ばん。行くぞ」
そうして二人は次の第四天である太陽天へ向かった。
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