episode,Ⅵ:愛語りし金星天
【登場人物】
*釘鎹聖綴(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。
*柊ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。
*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。
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すると丁度その時、一人の霊魂が輝きを放ちながら二人の元へやって来た。
「やぁやぁようこそ。この恋人達の領域へ」
「? 誰だオッサン?」
柊ヴェルハルトが怪訝な表情で述べる。
これにその霊魂は答えた。
「私はカール・マルテルと申す者。こうして新たにやって来た者々を、迎え入れるのが私の役目だよ」
「へぇ~、オッサンを見る限りスゲェ高貴そうに見えるのに、そんなパシリみてぇな事させられてんだ」
ヴェルハルトの言葉に、そのカールは満面な笑みで答えた。
「"パシリ"がどういう意味かは分からないが、この世界に上下関係はないんだよ」
「はぁ……」
ヴェルハルトが短く返答する。
「私は地上で生きた人生こそは短いものであったけれども、これでもその頃は王と変わらぬ立場だったのだ」
「それはまたどうしてその立場だったのに短い人生を?」
今度は釘鎹聖綴が尋ねた。
「短命だったのだろうよ。それでも、それなりに生きたがね」
「オッサン、一体何者?」
ヴェルハルトが改めて訊ねる。
「私はイスラムからキリスト教を守った存在であり、今ではここの世界を支配させてもらっている。生前、私の国を支配していた王族が、元々は良き血統だったのだが私が存在した時にはもうそれを失い、悪しき子孫を生み出していた。よって後半では、名ばかりの王を実質支配していたのは、私であった。故に、キリスト教を守った英霊として、私がここの支配をも任されたのだろう」
カールはそうペラペラと語った。
これに聖綴がふと尋ねた。
「良き血統がどうやって悪しき子孫を生み出したのさ」
それにカールは胸を張って答えた。
「神の摂理、天界の影響、そして個々の性質が社会に於いて神から与えられた役割を全うする事の重要性の有無かな」
「ふーん……」
聖綴とヴェルハルトは二人揃って、両腕を組み声を揃えた。
「まぁ、まだ子供の君達には理解出来ぬかも知れないが、この国で過ごせば次第に解かってくる筈だ。じゃあ、ごゆっくり子供達よ」
そう言い残すとカールは、その場から立ち去って行った。
それをぼんやりと見送って聖綴は、ヴェルハルトへ声をかけた。
「じゃあ、行こっか。改めて探検に」
「そだな」
そうして二人が背後を一緒に振り返ってから、二人一緒に驚いた。
そこにはいつの間にやら、女の輝く霊魂が佇んでいたからだ。
「わぁっ! だっ、誰だよオバサン‼」
ヴェルハルトが咄嗟にそう口にする。
「私はニッツァ・ダ・ロマーノ。嘗ては愛に生きた女よ。その為にここに招待され、この運命を喜んで受け入れているわ」
「はぁ……」
聖綴とヴェルハルトは、"それが一体何か?"と言いたい言葉を飲み込んだ。
「子供達よ。天国の霊魂達は皆、トローニと呼ばれる特別な鏡を通して、神の裁きを受けるの。それはもう口では言い表せない程、壮絶なものよ。それを見せられたら、あらゆる厳しい言葉も善きものとして語る事が出来るわ。それじゃあね」
ニッツァはそれだけを述べて微笑んで見せると、その場を立ち去って行った。
「何だったんだよ一体……」
「うん……」
ヴェルハルトと聖綴は呆然と彼女を見送ると、ゆっくり歩き出した。
そうしてこの金星天を見て回っていると、一人の輝く魂が二人に声をかけてきた。
「やぁ坊や達。僕の名はフォルコ」
これに二人して口を開いた時だった。
「まぁ待ちたまえ。君達が言わんとする事は分かっている。天国では我々魂が神の有り難いお心を知る為、君達が問う前にそれを察する事が出来るからね」
「ふーん……」
またしても聖綴とヴェルハルトは声を揃える。
「僕はその他の男にも劣らぬ情熱的な愛に生きたけど、天国ではその罪を悔いるのではなく、その情熱を善へと導いた神の力と摂理を喜んでいるんだよ」
「うん。成る程。それは分からないようで分かった事にするけど……」
「あんた……フォルコさんの──」
聖綴とヴェルハルトが言いかけた時だった。
フォルコは片手を突き出して二人の言葉の続きを遮ると、言った。
「この隣の輝く魂が誰か、と尋ねたいのだろう? 彼女はラハブ。キリスト様の凱旋後、この金星天に迎えられた最初の魂なんだよ。とても彼女は素晴らしい存在なんだ!」
「……へーえぇぇ……」
聖綴とヴェルハルトは、そうして空返事をする。
恋愛云々にはまだ興味のない二人には、最早どうでも良い事だった。
よくよく見回してみると、あっちでイチャイチャ、こっちでイチャイチャしている恋人達の、何と多い事か。
「ねぇヴェル……ここで探検する必要、ありそう……?」
「いや……ねぇな……さっさと先へ進もうぜ」
「その言葉が聞けて安心したよ……行こっか」
「ん、じゃあ、目……」
「うん」
ヴェルハルトは聖綴の眼を片手で塞ぎ、ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブの名を唱えて呼び出した……。
次の目的地である第四天の太陽天へ向かう中で、ナムウドッグは腕の中のヴェルハルトへ声をかける。
「もう今更恒例だし、解かっているだろうが……」
「分かってるって! 天使の襲撃だろう?」
「有無」
「覚悟はしてるよ。お前のバトルの足手纏いにはならねぇ」
「では先にもう力を与えておくぞ」
ナムウドッグは言うと、腕の中にいるヴェルハルトへ力を注ぎ込んだ。
するとそのタイミングに合わせた様に、天使達の集団が現れた。
「……こいつらは……」
ナムウドッグが小さく呟く。
それは、九等使階級に於ける第六位の天使である、能天使だった。
今までと違い、防具を装備している。
盾を持ち、剣を持っている。
「我から離れておけ。万が一の時は──」
「分かってんよ! 安心してバトルに専念しろナムウ」
言うとヴェルハルトは、ナムウドッグの腕の中から自ら飛び降りた。
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