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【反・神説】背徳の獣  作者: 緋宮 咲梗
section,Ⅴ:煉獄登山編
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episode,Ⅶ:子供らしい喜び

【登場人物】

釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。


(ひいらぎ)ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。


*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。


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 それはまた、アダムとイヴが禁断の果実を食べた事によって犯した"原罪"を清める事に通じた。

 そしてその欲求とは、イエス・キリストが『彼の血によって私達を解放する時』に、即ち十字架刑に架けられて『エリ』と叫んだ時のイエスの欲求だ。

 イエスはその時、大声で叫んだ。


『エリ、エリ、レマ、サバクタニ』


 それはつまり、『我が神よ、我が神よ、何故です? 何故に貴方は私を見捨てたのですか?』という意味である。

 その言葉は、イエスが"神であるのか"それとも"人間であるのか"という問題を引き起こす根拠になっているのかも知れない。

 イエスが『彼の血によって私達を解放した』のは人間のどの様な罪かと言えば、それは"人間の原罪"だ。

 ではその原罪とは何かと言えば、定説通りアダムとイヴが"知識の木の実"を食した事なのだ。

 即ち、その二人の人間の始祖が初めて犯した罪は、"貪食の罪"だったのだ。

 と言う事は、煉獄第六環道で浄化している罪は、人間が犯した最初の罪即ち"原罪"なのである。

 その第六環道の霊魂達は、アダムとイヴが食べてしまった禁断の果実を食べない事によって、貪食の罪を浄めているのである。




 夜明けが近付く。

 傍らで眠っていた(ひいらぎ)ヴェルハルトが目を覚ます。

 その時ふと気配を感じたヴェルハルトは、そちらへ仰ぎ見ると眩しさに眼が眩んだ。

 咄嗟にヴェルハルトは、釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)の背後へ身を寄せた。

 すると曙を告げるそよ風が、草花の香りに満ち溢れて、(かんば)しく辺り一面にそよぐ様に、風がヴェルハルトの額の真ん中に吹き寄せて、羽根が動くのがはっきりと感じられ、そこから(かぐわ)しい大気が漂うのだった。

 その第六関門を守護する天使によって出された"神の芳香を発するそよ風"によって、第六番目の"P"文字がヴェルハルトの額から消えた。

 残すは、第七環道で消さなければならないただ一つの"P"だけになった。


「……真ん中だけは残すなって言ったのに……」


「うん。何かのスーパーヒーローみたいになってる」


 そしてまた、恒例の如く『イエスによる山上の説法』の中で語られた"八つの幸福"の一節が歌われた。


『~♪幸いなるかな、神の恵みに照らされた人々、その嗜好は、嘗て過ぎたる望みの火を胸中に点じる事無く、その人々の飢餓は嘗て度を失したることなし♪~』


 煉獄最後の関門は、第七環門で情欲の浄火の炎で焼いて清める場所だ。

 聖綴はその時までずっと一緒にいたスタティウスに殿(しんがり)を頼むと、先頭に立って烈火の中へ入って行った。

 次にヴェルハルトが中へ入るや、火勢は滅法激しさを増し、この体を冷やす為なら煮え滾った瑠璃(るり)の中へ身を投じる方が、まだマシかと思われた。

 聖綴達一行は、人間が犯す最後の罪業である性欲の罪を浄化する為に、第七環道の猛火を無事、抜ける事が出来た。

 するとそこには、煉獄山の頂上で、エデンの楽園が広がっていた。

 天国には、キリスト教の洗礼を受けた者しか入れない。

 しかし幸いかな、本人達の意思とは裏腹にして自動的に、聖綴とヴェルハルトは洗礼を受けていた。

 聖綴はクリスチャンの児童施設にて、そしてヴェルハルトはクリスチャンのフィンランド人の父親によって。

 こうしてヴェルハルトの額のPは完全に消し去られた──スタティウスの方も。

 そして、その時に歌われた浄化完遂の祝福の歌詞は、全て『マタイによる福音書』第五章三~十二の"八つの幸福"について説かれた"山上の垂訓(すいくん)の中の一節だ。


「~♪更にイエスは群衆を見て、山の中へ登って入った。そして彼が座るや否や彼の弟子達が彼の方へ近づいて来た。そして彼は、彼の口を開いて語りながら弟子達を教えた♪~」


「~♪心という点に於いて貧しい者達は祝福される。何故ならば、天国の王国はその者達自身のものだから♪~」


「~♪温和な者達は祝福される。何故ならば、彼等自身が土地を所有する事になるから♪~」


「~♪悲しんでいる者達は祝福される。何故ならば、彼等自身が慰められるから♪~」


「~♪正義に飢えて渇いている者達は祝福される。何故ならば、彼等自身が満足させられるから♪~」


「~♪同情する者達は祝福される。何故ならば、彼等自身がそのお返しとして同情を得るであろうから♪~」


「~♪心が清らかならば祝福される。何故ならば、彼等自身が神を見る事になるから♪~」


「~♪平和をもたらす者達は祝福される。何故ならば、彼等は神の息子と呼ばれる事になるから♪~」


「~♪正義の為に迫害に苦しみ耐えている者達は祝福される。何故ならば、天国の王国はその者達自身のものだから。人々があなた達に関して誹謗し、あなた達を迫害する時は、そしてまた、人々が私の事で誤ってあなた達に敵対して、あらゆる侮辱を言う時、あなた達は祝福されるのです。喜べ、そして喜びの声を上げよ。何故ならば、あなた達の報酬は、天国の中で豊かなものになるから。また何故ならば、人々はあなた達より以前に存在してきた預言者達を迫害してきたから♪~」


 その歌詞を福音書に従って解釈すれば、それはイエス・キリストの言葉なのだ。

 つまり聖綴とヴェルハルトは最後の環道で全ての罪を浄化した時に聞いた、と言う事になる。

 因みに、二人が神の姿を見るのは天国を昇り切った至高天の頂上だ。

 ただし、神の光は強すぎるので三位一体を形作っていた"三色の三つの輪"しか見えないが。

 聖綴とヴェルハルトは、煉獄に於ける浄化を全て通過し、第七環道からエデンに登る岩の階段で一夜を過ごした。

 そして、夜明けと共に朝陽を正面から浴びながら、エデンの西側から楽園内へと入った。


「では私はこれで」


 スタティウスはその言葉を残して、どこぞへと行ってしまった。

 それを見送った二人に、爽やかな緑濃い神の林が、新しい日の光を目にも優しく、和らげていた。

 この森林の内や外を歩きたいという気分に誘われて、この土手を離れると二人は野原をゆっくり、ゆっくりと歩き始めた。

 足元からは至る処にふくよかな(かお)りが漂ってきた。

 エデンと煉獄環道を分断している堤の向こうは、葉の茂った緑鮮やかな神聖な森だった。

 そして、その森の中は辺り一面に芳しい匂いを漂わせている田園でもあった。

 そしてまだ十二歳と十四歳の二人はその森の中と周囲を駆け回りたい、冒険したい熱望が起こった。

 するとその気持ちを汲む様に、ヴェルハルトが聖綴へ嬉しそうな笑顔で振り返って、言った。

 

「遊ぼうぜ聖綴‼」


「え? あ、う、うん! 遊ぼう‼」


「その代わりその間だけナムウドッグの事は忘れろよ‼ 生前の聖綴の状態な‼」


「ん……⁉ でも俺自身そのものが実際ナムウドッグであって、聖綴の方が演技──」


「いいから、いいから‼」


 ヴェルハルトは言うと、聖綴の手を取って走り出した。


「わっ! わぁ! ヴェル‼」


「俺ら出会ってから、スラムに(たむろ)ってばかりで、こうした自然の中で遊んだ事ねぇじゃん⁉」


「そうだね、確かに」


「木登り! どっちが先に高くまで登れるか競争だ! お前は隣の木な‼」


 一本の木の前まで走って来ると、足を止めてそう聖綴へ、ヴェルハルトが言った。


「よぅし……! 負けないぞ‼」


 聖綴は勝気な表情で言うと、隣の木へと駆け寄った。

 それを確認してから、ヴェルハルトが声を上げた。


「じゃあ行くぞ! よーい……スタート‼」


 それを合図に二人はそれぞれの木に登り始める。

 この園のそれらの木々も、自らで遊んでもらって嬉しそうに、サワサワと葉を擦り合わせる。

 

 ガサガサ、ガサガサ。


「うぇっ! 聖綴お前早ぇ! 身軽だからか⁉」


「俺の方がヴェルより、小さいのが有利に働いてんね!」


 ザザザザッ‼


「くっ! もう俺はこれ以上登れねぇ、枝細くなってきて!」


「ハッハッハ―! じゃあ俺の勝ちだねー‼」


 小柄な聖綴の方が、ヴェルハルトより高く登っていた。

 そして遠くを眺めてから聖綴は、何かに気付く。


「あれ……ねぇヴェル。向こうの方に、小川が流れてる」


「え? マジで⁉ 俺からは見えねぇ」


 ヴェルハルトは枝の上から、背伸びしてみる。


「この田園の向こう。……行ってみる?」


「よぅし、じゃあ今度はその小川まで競争だ‼」


「え! ちょっと待ってよヴェル‼」


「待たねーよ! 用意……スタート‼」


「ああっ! ヴェル、ずっこい‼」


 ヒョイヒョイと下りて行くヴェルハルトを追いかける様に、聖綴も急いで木から下りていった。



ここまで読んでくださったあなたを美しい田園に招待する!

大変ありがとうございます‼

良ければ、「いいね!」もしくは「☆」をよろしくお願いします。

「いいね!」は読者様がどこまで読んだのかの目印にもなって励みになりますのでどうかよろしくです♪

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