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【反・神説】背徳の獣  作者: 緋宮 咲梗
section,Ⅴ:煉獄登山編
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episode,Ⅵ:安らぎの夜

【登場人物】

釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。


(ひいらぎ)ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。


*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。


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 釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)(ひいらぎ)ヴェルハルトが第五環道に通じる道を探していると、呼び声が聞こえた。

 

「来なさい、ここに道が通じている」


 その声は、甘美で慈愛に満ちたものだった。

 それは、こちらの死すべき領域では聞かれる事のないものだった。

 第四環道の境では、魔女セイレーンの誘惑からヴェルハルトを救った聖女の印象が、まだ鮮明に残っていた。

 それ故、その声も即座に天使だと認知する事が、出来なかった。

 その声の主は、白鳥の様に翼を広げ、堅い岩石の二つの壁の間の上の方へ、聖綴とヴェルハルトの注意を向けた。

 聖女の正体は、どうやらその天使らしかった。

 それから翼を羽ばたかせてヴェルハルトへ風を送ると、天使は叫んだ。


「幸なるかな悲しむ者、その人々の魂は慰めを得ん!」


 気付くと、ヴェルハルトの額に刻まれたPの文字がまた一つ消え、残すは三つだけとなった。

 こうして二人は第四環道を出て、次の環道である第五環道に足を踏み入れると、そこの霊魂達は地面に腹這いになって生前の貪欲の罪を浄化していた。

 煉獄で貪欲の罪を浄化している霊魂達は、苦しく厳しい罰を受けている。

 しかし、現世で同じ貪欲の罪を犯しても、地獄の第四圏谷で永遠に重い石を転がし続ける亡者達とは違う。

 煉獄にいる霊魂達は、神に選ばれた人であり、正義と希望を持つ事が出来る人達だ。

 その様に希望を持ちながらも地面を腹這いになっている霊魂に向かって、聖綴が第六環道へ登る階段の場所を尋ねた。

 すると、一人の霊魂が道を教えてくれた。


「もし君らが腹這いをせずに済む身ならば、教えよう。一番近い道はいつも必ず外側を君らの右手に見ながら歩く方向だ」


 聖綴とヴェルハルトが立っているのを見て、腹這いになる事から免除されているとその霊魂が言ったのは、現世に於いて貪欲の罪を犯さなかったのか、又は軽かったので短い浄罪期間で許されたのであろうと、考えたからだろう。

 聖綴とヴェルハルトは、第五環道から第六環道へ抜ける石段で出会った自分達に追い付いて来た一人の霊魂、ローマの叙事詩人スタティウスを道連れに加えた。

 そして三人は第六環道を歩き始めた。

 その際、聖綴が言った。


「俺は、環道の外側の縁の方へ右肩を向けるのが、俺達に都合がいい。これまでもそうするのが当たり前だった様に、山を回ろう」


 山頂に近付けば近付くだけ、当然ながらその距離は短くなる。

 よって第六環道を抜けるのも早かった。

 煉獄山の最も上の環道は、第七環道だ。

 浄化を完全に成し終えた聖綴とヴェルハルトとスタティウスの三人は、煉獄最後の夜を迎えた。

 そして一夜を過ごす為の石段へ向かう。

 真っ直ぐに道は岩間を延びていた。

 既に低く傾いていた太陽の光が、三人の真前に影を落としていたが、その方角に向かって三人は坂を登った。

 そして石段をまだ僅かしか登らないうちに、消えた影によって彼等は、背後に太陽が沈むのを感じ取った。

 さてところでこの、聖綴とヴェルハルトに追い付いて来たスタティウスは何者なのかと言うと、貪欲と浪費の罪を浄める第五環道を通過した時、浪費の罪の方を浄め終えたローマ詩人だ。

 旅は道連れとも言うし、偶然にも二人に追い付いて来たのなら一緒に行こうと、このスタティウスも同行する事になったのだ。


「なぁ、ところでオッサン。あんたはどれくらいこの煉獄にいたんだ?」


 ヴェルハルトが歩きながらスタティウスへ尋ねた。


「うーん、ざっと1200年くらいかな?」


「せっっ──‼」


「1200年っっ⁉」


 これに聖綴とヴェルハルトは驚愕した。


「私は五百年とちょっとの間、ここで苦痛を受けて伏していたばかりだ。しかし今しがたにより、良い入り口への自由な意志を感じた」


 第五環道で浄化する罪業は貪欲と表裏一体を為している浪費の罪だ。

 スタティウスの場合は、浪費をしすぎた罪で、五百余年の間その環道で腹這いになって過ごしたそうだ。


「そして私は、詩に歌いながらギリシャ人達をテーバイの川へ連れて行くより以前に、私は洗礼を受けていた。しかし、私は恐ろしさから私自身引きこもりのキリスト教徒で長い間、異教徒の振りをしていた。そしてそのいい加減さが、第四環道を四百年以上も走らされた」


 言うとスタティウスはケラケラ笑った。


「んで、残りはどうしてたんだよ? 三百年は」


 ヴェルハルトが尋ねる。

 これにスタティウスはニンマリ笑うと、投げやりに言った。


「まだお子様には教えられないね!」


「……好きもんだね」


 聖綴がボソリと呟いた。


「まぁ、住めば都とも言うしな」


 ヴェルハルトも呆れながら述べる。


「おっ! 坊や、いい言葉知ってるね!」


「日本の(ことわざ)だ。一つ勉強になったな」


 ヴェルハルトが言いやる。


「──……二ホン? どこだいそこは??」


 キョトンとしているスタティウスを置いて、二人は先へ歩き始めた。


「時代遅れに説明してたら時間がいくらあっても足りないよ」


「だな」


 聖綴の言葉に、ヴェルハルトも短く同意を示す。


「おい君達ぃ! オジサンを一人置いて行かないでおくれうよぅ‼」


 言いながらスタティウスは、二人の元へと駆け付けて来たのであった。

 そして第六環道貪食の罪──贖罪の罰……激しい空腹と渇き。

 霊魂達は、香ばしい果物なり、冷たい水が流れる樹木を通過する。

 その果物と水は目の前にあるのに、触れる事も飲む事も出来ず、その欲求によって飢えと渇きに苦しむ。

 飢えにより霊魂達は非常に痩せ細っており、骨と皮ばかりになっている。

 霊魂達は涙ながらに歌い、罪を悔いる。


「主よ、私の唇を開いてください」


 生前の欲望を限界まで飢えさせる事で、その霊魂を節度ある姿へと清める。

 飢えと渇きで悶絶していた霊魂達も、今しばらくばかりは、安らぎが与えられた。

 そんな中で、生者ヴェルハルトだけは睡眠を摂った。

 彼の額のPは、もう残すは二つだけになっていた。

 夜空には、無数の星々が瞬いていた。

 それらの輝きは、聖綴にも確かな安らぎを与えていた。

 しかしながらこの煉獄の第六環道には、現世にいた時に大食と美食によって身に付けた肉塊を全て削ぎ落して、骨と皮だけになった霊魂達がいた。

 では、その霊魂達はどの様な方法で現世の肉を全て取り除いているのだろうか。

 聖綴が、同じ辺獄にいるキリスト教以前の善良な詩人達や哲人達や英雄達の話を、詩人スタティウスに聞かせた。

 そうしてふと上を見上げた時、突如として大樹が目の前に現れた。

 よって二人の会話ははたと止んだ。

 馥郁(ふくいく)と香る木の実をたわわに付けた大樹が一本、道の中央に生えている。

 誰も登らない様にという配慮かも知れないが、もみの樹が上へいくにつれて枝回りが細くなっていた。

 つまり根元が細くて上に上がれば上がる程枝を張った逆三角形をしている。

 しかも、根元が細くなっているのは"人間が登らない"様にする為だ。

 (すなわ)ち、人間を拒絶する果樹なのだ。

 道の山沿い側の高い(いわお)から清らかな水が、淙々(そうそう)と降り注いでその(こずえ)の青葉を(うるお)していた。

 聖綴とスタティウスがその樹に近付くと、葉隠れから一際高く叫ぶ声が聞こえた。

 

「君等はこの()を食べてはならぬ」


 即ち、それは禁断の果実を付ける木だった。

 それらは霊魂達の食欲を掻き立てる。

 しかし、そこにそびえているのは禁断の果樹なので、その葉から滴る水を飲む事も、そこに実っている果実を食べる事も出来ない。

 そして、飢餓を覚えたまま何度も繰り返し第六環道を回る事になり、回るごとに欲求が増大していく。

 そして全ての贅肉(ぜいにく)を削ぎ落して骨と皮だけになった時に、第六環道での浄化は完了するのだった。


 

ここまで読んでくださったあなたに歓喜の果樹を捧ぐ!

大変ありがとうございます‼

良ければ、「いいね!」もしくは「☆」をよろしくお願いします。

「いいね!」は読者様がどこまで読んだのかの目印にもなって励みになりますのでどうかよろしくです♪

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