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【反・神説】背徳の獣  作者: 緋宮 咲梗
section,Ⅴ:煉獄登山編
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45/50

episode,Ⅴ:白昼夢の魔女

【登場人物】

釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)(12歳)……身長142cm。赤ん坊の頃、自動車事故により両親を失った唯一の生き残りでキリスト教児童保護施設から脱走し無意識にスラム街に辿り着き、仲良くなったヴェルハルトと犯罪に手を染めながらも人生を謳歌していく。しかし、突然の暴走車にはねられ呆気なく死亡する。


(ひいらぎ)ヴェルハルト(14歳)……身長166cm。日本人の母とフィンランド人の父を持つハーフだが父親を病で失って以来、五人姉弟の真ん中だが居場所を失い家出をしてスラム街で生きていたが聖綴を拾ってその兄貴分となる。聖綴を失ってからは一匹狼として生きる。父の影響でキリスト教信者だが神を信じてはいない。碧眼に長い金髪を後ろ一つに結んだヘアスタイル。


*ナムウドッグ=チリプス・ナタスレグアトサエブ(年齢不詳)……身長198cm。釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)という少年の人生を生きた核なる存在。美麗と醜悪が混ざった外見をしている。自分の存在に疑問を抱く。


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 "傲慢の罪""嫉妬の罪""憤怒の罪"の三様の非道の愛はこの第四環道の下に位置する下層部で嘆いている。

 今後は、その他の愛について聴いてくれる事を望む。

 その愛は腐敗した秩序を以って善行の方へと急いで向かう事だろう。

 各々の者は、その中で魂自身が安らぎを得る所の善を漠然と認知して、それを切望する。

 だから、各人はその善に到達しようと懸命になる。

 愚鈍な愛が、善を見付けて善を獲得したとしても、この環道は正しく悔いた後で善を見つけて獲得した事に愚鈍であった事によって、責め苛む。

 すると二人の背後から、既に山へ入っていた霊魂達が走って来た。

 見るに、焦燥感から善への意志と正義への愛が彼等の背に跨っていた。

 生前に犯した怠惰の罪を浄化する為に、昼間だけでなく安らぎを得る夜までも、環道を必死に旋回し続けている様だった。

 第四環道の霊魂達は、道を群になって走る時掛け声を掛け合っていた。

 それは、修行の厳しさを耐え抜く為の励まし合いの言葉の様に聞こえる。

 まず、リーダー格の先頭の二人が、泣きながら叫んでいる。


「マリアは急いで山へ走った! マリアは急いで山を走った!」


 それは天使ガブリエルからの受胎告知を受けて喜んだ聖母マリアが、大急ぎで山里にあるユダの町へ走ったエピソードを表しているらしかった。

 先頭を走る二人の掛け声に続いて、それに多くの霊魂達はこう応え、叫んだ。


「急げ! 急げ! 愛が足りぬと時を失うぞ‼」


「善行を心がければ恩寵が新たに蘇る筈だ‼」


 そんな霊魂達はそうして釘鎹聖綴(くぎかすがいさとと)(ひいらぎ)ヴェルハルトの側を通過して行った。

 善を求める事に愚鈍であった"怠惰の罪"は、煉獄で浄化する罪業の中でも異質だった。

 聖綴とヴェルハルト達が通過して来たそれぞれの環道では、"傲慢""嫉妬""激怒"の罪を浄めてきた。

 その三つの罪のどれもが、他人の不幸を愛する愛から発生するものだった。

 ところが、第四環道を境にして、その上の方の環道ではもう一つの別の愛による、罪を犯した霊魂達がいる。

 人間を幸福にしないところのもう一つの善が存在する。

 それは幸福というものではなく、善の本質でもなく、あらゆる善の果実=神の至福の姿でも、その根っこ=神の本質でもない。

 即ち秩序を乱して善へと急行する人間が犯す罪の事で、第四環道の怠惰の罪とは真逆の熱意があり過ぎた状態で善に向かった事によって引き起こされる罪だ。

 即ち過剰の愛が引き起こす罪の事なのだ。

 それらの罪を浄化する霊魂達には、第四環道の上に拡がる三つの環道の中で出会う事になるだろう。

 煉獄の上層部の三つの環道についてはまだ明らかにしない。

 その過度の愛、又は過剰な熱意が原因で犯した罪を浄化する三つの環道とは、過度の物欲に耽った者達がいる第五環道、過度の美食家達の第六環道、そして過度の性欲に溺れた者達の第七環道だ。

 生前に怠け者だった霊魂達は、第四環道で浄罪の苦行をしていた。

 生前善を見付けて獲得するのに愚鈍であったが為に、他の環道の霊魂達が安らぎを与えられ眠っている夜でさえも休息を摂る事が許されずに、走り続けている。

 怠惰の事例や教訓を掛け声の様に叫んでいる。


「マリアは急いであの山地へ走った! 迅速であれ! 迅速であれ! 不足した愛の為に、時間が消えてなくならない様に! 善を行う熱心な努力が恩寵(おんちょう)に活気を取り戻せる様に‼」


 まるでスポーツの部活生の様だ。

 そんな中で登山をしながらヴェルハルトの視界は突如白み始めた。

 ヴェルハルトは目を擦って改めてまた視線を戻すと、いつの間にやらヴェルハルトの目の前に一人の女が現われた。

 その女は言葉も身体も不自由で、両手もなく青褪めた顔色をしていた。

 ヴェルハルトは不思議そうにその女を見つめると、彼の視線が女の舌を緩めた。

 (たちま)ち女はすらりと立ち上がった。

 そして青褪めていた顔に、ほんのりと紅が差し染めた。

 その女はヴェルハルトが彼女に興味を示して、眼差しを向けた事に気付いたので彼を誘惑する為に美しい女に変身した。

 そしてその女が歌を歌い始めると、その歌声を聴いて気も心も吸い寄せられて離れがたい思いにさせた。

 彼女の正体はセイレーンだった。

 即ち、ヴェルハルトはセイレーンに魅了されて、その妖女の言葉を聴いてしまった。


「私は歌姫のセイレーン。大海原の真只中で船乗り達を狂わせてしまう程美しい歌声に恵まれておりました。私の側にいる者は皆、恍惚として滅多に立ち入る者はおりません」


 彼女がまだ口を(つぐ)まぬ内に、一人の聖女が突然姿を現し、狼狽するセイレーンを見下して昇然と叫んだ。


「この女は一体、何者ですか⁉」

 

 するとヴェルハルトより先へ進んでいた聖綴が、ヴェルハルトが立ち止まっている事に気付き、彼の元へ戻るとその聖女を見据えてから刹那、セイレーンをひっ捕らえると彼女の衣服を引き裂き、腹部を手刀で切り開いて内臓をヴェルハルトに見せて言った。


「ヴェル! しっかりして! 君は今、白昼夢を見せられ妖女に誘惑されていたんだよ‼ もう少し、俺が気付かなければヴェルはこの妖女に殺されていた‼」


 これに(ようや)く、ヴェルハルトははたと我に返った。

 それは生者ゆえに魅せられた、白昼夢だった。

 正確には、聖綴の呼び声とセイレーンの内臓から放たれた悪臭による、目覚めだった。


「うっわマジか俺! サンクス聖綴、助けてくれて」


「うん。間に合って良かった」


 聖綴は首肯すると、安堵の息を吐いた。

 そして神聖な山の全ての環道は既に、充分にすっかり昼になっていた。

 聖綴とヴェルハルトは今度はばらけない様に、しっかりと二人並んで太陽を背に、改めて前進した。

 しかして、ヴェルハルトの白昼夢に姿を現した聖女が何者だったのか、そしてその彼女の警告の声が聖綴の耳にどうして届いたのかは、半ば謎のままだった。

 おそらくは、聖綴の中のナムウドッグのおかげであっただろう事も、あったのだろうが。



ここまで読んでくださったあなたに喜びの白昼夢を♡

大変ありがとうございます‼

良ければ、「いいね!」もしくは「☆」をよろしくお願いします。

「いいね!」は読者様がどこまで読んだのかの目印にもなって励みになりますのでどうかよろしくです♪

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